セイの断罪 伍
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ダンメが去ってガヤガヤと騒がしくなった店内。
「お騒がせして、申し訳ありませんでした」
その中心に未だ佇むセイが、そう言って頭を下げる。
「現在注文いただいているものは全て、無料で提供させていただきます。また、次回お店をご利用いただけた時に使える割引券を贈呈させていただきますので、今後ともよろしくお願い致します」
そしてそのまま続けて、周りに聞こえるようハッキリと少し大きめの声で言って宣言した。
どんな反応が返ってくることか……。
そんなと 心配が頭を過る(よぎる)。
けれども意外にも客たちからは、拍手が湧いた。
セイも意外だったのか、内心首を傾げているようだ。その証拠に、思いっきり顔に出すことはないが、僅かに眉間にシワが寄っている。
客達のに再び視線を戻して様子を伺ったところ、無料となったことを喜ぶ客が3割。
彼らは、拍手を終えた後嬉しそうに目の前の食べ物を食べつつ、もう少し注文をすれば良かったと嘆いていた。
そして残りの7割といえば……。
「あの方々の名前は何と言うの?」
「今話されていた方がセイ様、騎士様のような方がディダ様ですって」
「ああ、カッコイイ……」
と、セイとディダの勇姿に目がハートになっている女性が4割。
「スカッとしちゃったわ。あんな人を見下すような奴、叩き出して正解よ」
「本当にね。そこの貴女、あいつの言った事なんて気にしちゃダメよ。まあ、この職場ならそんな気にする事もないか」
ウェイトレスの子に同情しつつダンメを叩き出したことに爽快感を感じている様子の人たちが3割だ。
思いの外良い反応に、ホッと詰めていた息を吐き出した。
一応、丸く収まった……ということで良いのかしら。
そこまで考えた瞬間、力が抜けて危うくその場に座り込みそうになった。
「アイリス様……!」
心配気に、ターニャが私に駆け寄ってきた。
「大丈夫よ、ターニャ。ありがとう」
「あまり心配をかけないで下さいませ…」
「でも、今回はライルの言いつけを守ったわよ?」
苦笑い気味でそう答えても、ターニャの顔色は冴えない。
「いつ矢面に立たれるかと心配で気が気でなかったです。お嬢様の大丈夫は全く大丈夫ではありませんから」
「そうかしら?」
「ええ。今回だとてそうです。普通、お嬢様がたはこのような場に好き好んで出て来られないかと思いますが」
「……。確かに、そうかもしれないわね…….」
ターニャの言葉に、反論するどころかむしろ納得してしまった。
確かに、市井に交じろうとすることなど普通ありえず、かつ更に言えば、あのような怒鳴り声が聞こえてきた時点で失神してしまう……という方が想像がつく。
「お嬢様らしい、とそう思ってしまった私にも非はありますが」
ターニャはそう言って苦笑いを浮かべた。
確かに今回、内心はどうあれターニャはあまり反対らしい反対を口にしなかったものね。
「……ですが、お嬢様。今回は既にディダが取り押さえているということも加味して、そう思うこともできましたが……お嬢様の責任感と私どものそれは別です。お嬢様が従業員の方々に責任をお持ちになられているのとは別に、私どもにもそれぞれ役割がございます。お嬢様をお護りするという役割が。……お嬢様の御身を案じ、お護りすることが私どもの役割であり誇りであり、想いです。どうかお嬢様……それを御心に留めておいてくださいませ」
「……約束はできないわ」
「お嬢様……」
「貴女たちが心配してくれているのを知りながら…けれども私は、きっと無茶をこれからも繰り返す。だから、約束はできないわ」
きっと私は同じ場面になったら何度も同じように動く。でも……。
「でも、それは皆の意見や想いを蔑ろにしている訳でもないのよ。皆なら、きっと私を守ってくれる。私の背についてきてくれる。そう信用しているからこそ、私は進めるの。だから……皆が役割を全うできるよう、できる限り譲歩はするつもりではあるの」
今回表立たなかったのは、それが理由。セイならやってくれると、信用できたから。そして、私が表に立ち過ぎて万が一の時に皆に迷惑をかけてしまうかもしれないと考慮した結果。
……結果は丸く収まったのだから、それで良かった。
「さあ、邪魔にならないようバックスペースに戻りましょうか。……ターニャ」
「はい」
「セイに、並んでいる方々にも同じように割引券を渡すようにすぐに伝えて。長い間待たせてしまっているのだから、ね」
「畏まりました」
私はライルと共にバックスペースへと戻った。




