セイの断罪 弐
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店は外から見ても、そうと分かるほど混み合っていた。
王都の店舗は特にここ最近報告を確り読んでいたけれども……やはり実際見るのとでは、随分違う。
売上や在庫数・備品の注文等々や業務報告から混んでいるというのは分かっていたし、それに対しての対応もしてきたつもり。
だけど、やっぱり実物を見ると……改めて凄いと思うより他ない。
「……これでも随分マシになったと思うわよ、前に見たときよりかは」
そんな私を横目で見つつ、ミモザがそう言った。
……そう。これで、マシね……。
店の中だけでも人・人・人と人が詰め込まれていて空いたスペースが見当たらない。
会計も随分並んでいるみたいだし、外にも中に入れずに待っている人がいる。
商会の会頭という立場から言わせてもらえば、この光景は狂喜乱舞したくなるようなそれだけど。
従業員達からしたら気の遠くなるような光景だろう。
私たちは裏口から中に入った。この裏口は従業員専用となっていて、そのままバックスペースにつながっている。
「……これはこれは、アイリス様、セイさん、よくお越し下さいました」
私達の姿をすぐに見つけた店長が、駆け寄って頭を下げた。
「楽にしてください。今日は、アイリス様からの差し入れを渡しに来ただけですから」
セイが苦笑いを浮かべながら、店長にそう言って物を渡した。
「……差し入れ、ですか?」
呆気に取られているかのように、店長は言葉を繰り返した。
それが、どういう意味合いのものか聞きたいであろう店長は、けれども私の方には目を向けない。
失礼になってしまってはいけない、という想いがあるのだろう。
私もまた、そんな反応に苦笑いを浮かべつつ口を開いた。
「ええ。ここ最近混み合っていて、皆さん疲れていらっしゃるでしょう?数種類のジュースを持ってきたから、是非休憩中に飲んで」
「あ、ありがとうございます」
店長はオズオズと、セイからそれを受け取る。
「人数は足りているかしら?何か困ったことはない?」
「いえ、大丈夫です。先週に比べれば大分落ち着いてきていますし……」
店長が、そう言った時だった。
ガシャン……!と何かが割れる音と、怒鳴り声が店の方から聞こえてきた。
その瞬間、瞬時にライルとディダは辺りを警戒しつつ私を背に庇う。
私は壁とライルに挟まれるように立ち尽くしていた。
店長は、すぐさま店の方へとむかう。
「ディダ。ここは良いから店長の後を追って、様子見てきて」
私のその言葉に、ディダは顔を顰め(しかめ)る。
「姫さん、俺はあんたの護衛だぞ?」
そして真剣な声色で、そう言葉を紡いだ。
「何が起きているのか、状況の確認も必要でしょう?」
それでも引かない私に観念したのか、それとも確かに状況の把握が必要だと思ったのかは定かではないが、ディダは溜息をつく。
「……ああ、分かったよ。ライル、姫さんを頼む」
「勿論」
そうしてディダも店の方へと走って行った。
次に動いたのは、セイ。何度も視察として来ているだけあって、彼は建物の構造を把握している。
「こちらへ」
私たちを、店の中に設けられた事務所兼応接室に案内した。
幾つか執務をするための机が並べられ、衝立で仕切られている先に応接用の机と椅子があった。
私はその応接用の椅子に腰掛ける。
そのタイミングで、ノック音と共に従業員と思わしき男性が室内に入ってきた。
「……し、失礼致します。セイ様はいらっしゃいますか?」
呼ばれたセイは立ち上がり、彼の前に立つ。
「はい。どうしましたか?」
「店先で暴れていた者を取り押さえてくださったディダ様という方が、是非セイ様に来て欲しいと……」
彼の言葉に、ホッと詰めていた息を吐いた。ディダならば、鮮やかにその男を捉えることができただろう。
……それにしても、何故、ディダはセイを呼んだのかしら?
「私が、ですか。ディダがそう言ったんですね?」
セイも疑問に思ったのか、確認するように言葉を返す。
「は、はい。……上の者を出せ、と暴れていた者が叫んでいるからというのもありますが、このバックスペースで事を収めるよりも、店で話した方が良いとディダ様は仰っていました」
「分かりました。では、行きましょう」
長らく更新せず、すいませんでした。




