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報告と暗躍 弐

「いやー…あのお嬢ちゃん、怖いね」


まず一言目がそれか、と思わず再びため息を吐いた。


「何故、そうだと?」


「ホラ…教皇の子息君はさ、今のところ特に罰則は受けてないでしょ?一応代々教皇はあそこの家から出すって事にも今のところ変わりないし」


「とは言え、どうなるかは分からないでしょう。代々教皇位を継いだ方々は勉学を行い見聞を広めるという名目で学園に入り、貴族やこの国の上層部の者たちと繋ぎを作ってから、卒業後に教会に入り、修行を積んで教皇への道を辿るところを、修行中にまさかの親が教皇位を剥奪されているんだから。このまま彼の修行の終わりを待つとなると、数年教皇位が空位になりますし。何より国から罪を問われるような者を輩出した家から再び教皇を出すのは如何なものかという意見が、国の上層部は疎か協会側からも出ていると聞きますよ」


ルディの言葉に、マイロはうんうんと頷いていた。


つまり、現段階でヴァンが教皇を継ぐ事ができる可能性は限りなく低いということだ。


「そうだよねー。そうなんだよねー。だから、なんだろうけど…。子息君がいつもの調子で彼女に話しかけたら、“何か御用ですか?”だって。それも超他人行儀で。ビックリしちゃったよ、今まで頼んでもないのにズカズカ人のテリトリーに入ってくるなあ…なんて見てたけど、使えなさそうになってまさかあんなにすぐに見捨てるなんて、ね」


ニコニコと笑いながら出てくる言葉には、かなり棘があった。


「時期尚早かなーとも思うけどね。切り捨てるの。ま、使えなかったら直ぐに見切りをつける辺り、上に立つ人向きかなーなんて思わなくもないけど」


「なんだ、お前はあの男爵令嬢が好みなのか?」


「さあ?一長一短なんじゃない?それに、主人を決めた俺としちゃ、他に浮気もする気はないし」


「そうか。それで?まさか、それで報告終わりという訳ではないだろう?」


この質問に、マイロは笑みを浮かべつつも急にその目つきが真剣なそれに変わった。


「まあね。あのお嬢ちゃんの周りに、随分ウロチョロと鼠がいるけど、どうする?」


「護衛か?それとも…」


「どっちも、かなー?守る為だけにしては、動きがおかしかったしねえ」


「なるほど、な。彼女の周りの人間は、余計な事を漏らしてないだろうな?」


「そりゃ、こっちの動向を知る奴は彼女の周りにはいないし。それに、随分公爵子息君と騎士団長の子息君は彼女から離れ始めてるしねー」


「ほー…ドルッセンまでもか」


「そうそ。良かったね、彼も。瀬戸際で留まれて。このまま彼女サイドにい続けられたら、こっちとしても排除しなければならなかったもんねー」


「現状ただの一騎士である彼を排除したところで、特に国に大きな影響を与える訳ではないですし」


ルディもまた、言葉に棘があった。軍部の将軍を祖父に持つコイツとしては、やはり軍部寄りの意見となるのだろうか。なんて取り留めもない事が思い浮かばれた。


「ルディ、コワーイ」


「素晴らしいほど棒読みですけど」


ルディのツッコミに、けれどもマイロは特に気にしたようには見えない。相変わらず、ニコニコ無邪気な笑みを浮かべている。


「…あ、それとあの公爵令嬢の侍女が未だにコソコソと嗅ぎ回っていたよ」


「ターニャか…」


「中々良い線言ってると思うよ。コッチに引き抜きたいぐらいかな」


マイロがそこまで言うのならば、相当良い線をいっているのだろう。是非とも引き抜きたいところだが…。


「あいつがアイリスのところを蹴って此方にくることは、天地がひっくり返ってもありえないだろうな」


…まあ、絶対に無理だろう。


「ふふふーそんなところも含めて良いなーって思うよ、うん。主人を見つける前に、できれば出会いたかったなあ」


「主人がアイリスだからこそ、お前のテリトリーに片足を突っ込んだんだろう」


「それもそっかー。残念、残念」


「それで?男爵令嬢の動向は?」


「うーんっと、あのディヴァンとかいう商人との面談が月2・3回ぐらい。内容は、取り留めもない話だったねえ…王子との仲はどうかだとか、暮らしはどうかだとか」


「王子との仲、ですか。向こうにしてはそりゃ重要事項でしょう。というか、どうして態々ディヴァンは事を起こそうとしているんですかねえ…このままあの男爵令嬢がエド様を捕まえていれば、エド様が王位に着いた暁には裏で糸を引いて何でもし放題でしょうに」


「さあねー。アルフレッド様を警戒している…もしくは、初めから彼女はただの捨て駒だった。そのどっちかなんじゃない?」


マイロの回答に、ルディは納得していないとでも言うかのように眉を眉間に寄せたままだ。


「捨て駒だった、それはそうだろう。付け加えるのであれば、向こうにとって未来のその素敵な状態を待たなくとも、今で十分旨みがあるからだろう」


「……旨み、ですか?」


「ああ。エドが王位に着いたところで、宰相位にいるのは、あのルイ・ド・アルメニアだぞ。強固な地盤、そして豊富な財源を持つ彼は、王宮内では官僚達を掌握し、貴族の中でも頭一つ飛び抜けている。エドを利用して何かしようとも、彼が目を光らせている中でそうそう派手な事はできんだろう。それよりも、現在のこの貴族達の内紛を利用し、国力を疲弊させ、そして横っ腹を突くように何もかも奪った方が手っ取り早い」


「ふーん…。それはそれで統治だとか面倒だと思うけど。何で古今東西、領土拡大を目論む国が出てくるんだろうねえ…」


「この国の肥沃な大地は、彼らにとってそれだけ魅力的なのだろう。エナリーヌからの報告にも挙がっている。今年の彼の国の収穫量は、近年の中でも特に悪いとな」


エナリーヌは、マイロと同じく私の影。現在、国境のマーベラス・メッシー男爵家に預けてある。私とマーベラスの連絡係にして、トワイル国への潜入員。


彼女曰く、近年不作が続いていたらしいが、今年は特に酷いとのこと。あそこは北国で、一年の殆どが冬であり、土地もやせ細っているというのに、敗戦国として随分賠償金を過去奪っているからな…。要するに、待つ事も出来ないほどに追い詰められているということだろう。


チンタラ将来の優遇を待つよりも、今のこの…石を投げればすぐに揺れそうな脆い王国を壊して奪ってしまえば、それで良い。そんなところだろう。


「ま、そういう事を考えるのは僕の役目じゃないか。柄にもない事考えてたから、少し疲れちゃったー」


「報告は以上か?」


「ん?そうそう。他に彼ら特に話なかったし」


「分かった。……引き続き、頼むぞ」


「畏まりました」


急に真剣な顔になったかと思えば、現れた時と同じく音もなく姿を消した。


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