舞台裏 別視点 参
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「……なるほど、な」
彼の言葉を自身の中で噛みしめる。血縁よりも何よりも、私を取ってくれると言ったその言葉を。
「……案ずるな。予定通り…これから起こる出来事は、妨害しない。エルリアと共に王を排除すると決めたあの時から、私の考えは変わらない。私は、父と同じようにはならない」
「それを聞いて、安心しました」
ホッと詰めていた息をルディは吐く。
「……そもそも、お前の心配は杞憂だ。彼女を真近で見たからこそ、私の決意は固まったんだからな」
「……それは、どのような理由で?」
「無能な王は、民を殺す。…父が我が母を愛していたからこそ、彼女を失い心を失った事は…憐れむことはあれ、同情する事ではない」
あの男は、母を失った時から目に見えて気力を失った。考えることを、放棄したのだ。それが、エルリア妃と彼女の実家であるマエリア侯爵家の増長の理由の一端でもある。
愚かな事に、母が亡くなったのは彼女の差し金であるというのに、その事実からすら目を背け…そして彼女に言われるがまま、私とレティを排除しようとした。あの男にとって、私とレティは幾ら母が産んだ子供とはいえ、母の存在には遠く及ばぬ存在であったということであろう。
王太后が私とレティを匿わなければ、私たちは早々にエルリアの手によって亡き者とされていた。
「彼女が己の全てを懸けて政務に当たっている姿を見て、その思いは強くなったさ。どうせ病に侵されて、どうしようもないんだ。遅かれ早かれ王位を退くのであれば、最後に役目を果たして貰らう。王として、この国の膿を排除するという…な」
それが、道連れという形であっても…だ。もう、あの時から親子の縁というのは感じられない。私にとって家族とは妹のレティだけだ。だからこそ、王を排除するというのに全く感傷がない。
ああ、そうか…と、ふと納得する。ルディは私に丸くなったと言うが…確かにそうだと今の会話で実感した。本来の私は、こうだった。
何に対しても無感動と言うことは、何に対しても関心がなかったのだ。例え何人が死のうと、何人が苦しもうとそれは全て数字の上でのこと…と。後で帳尻が合えばそれで良いのだと。
唯一心の片隅にいたのは、レティとルディぐらいと言ったところか。
傍目から見ていた2人には、特に私の変化が大きく見えていたことだろう。
そして逆に言えば…私を変えた彼女は、それだけ私の中で大きな存在となっていたのだ。
今更気づいたことに、笑えてくる。
「……父と同じようには、ならない。ああ、そうだ。私の心を持っていった彼女は、私のモノにならないのだから」
「……貴方が望むのであれば、アルメニア公爵家は喜んで嫁がせるでしょう。何より、それが自然です。次期当主となる弟がいる彼女には、いずれ領主の権限を開け渡さなければならないのですから」
そうだろう。アルメニア公爵家には、ベルンがいる。やがて彼女は彼に権限を渡さなければならない。けれども、彼女はそれが何だと言うだろう。アルメニア公爵領領主権限を渡したところで、彼女にはアズータ商会がある。何より領主の権限がなかろうと、彼女はそれに代わる“何か”を見つけて、また走り出すだろう。
「……私が愛する彼女は、自由に羽ばたく彼女だ。羽を捥いで王宮に入れる事は、私の本意ではない」
そうだ。領政に全てを懸け、領内を駆け回り、何か壁を乗り越える度に目を輝かせる彼女こそが魅力であるからこそ、王宮で規律に縛られ雁字搦めにさせるなど勿体無い。
「期待している王太后には悪いが…私は彼女を王宮に迎え入れるつもりはないさ」
「…そうですか…」