舞台裏 別視点 弐
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「随分と我が従兄妹殿を気に入っているようですね?」
ニヤニヤと笑いながら、問いかけてきた。…コイツ、それが言いたかったのか。
「お前こそ、随分と大きな耳を持っているんだな」
「そりゃ血縁者ですから。短期契約で何回も出入りしている上に、随分と深いところまで関わっている奇特な人、貴方より他いないでしょうし」
飄々と笑いながら言われた。…面白がってるいるな。
「本当、びっくりしましたよ。孤児院に何度も出向いていて、しかも子供の相手までしているなんて。レティ様以外で、ですよ?アイリスとは他にもちょいちょい出かけているらしいですし、執務の面では細やかなフォローをしていて。外面の仮面被ってることを除いても話を聞いて思わず“え、誰?”って思ってしまいましたよ」
つらつらと挙げられた内容に、思わず舌打ちをする。分かっていて言っているのだから、タチが悪い。
「……本当は、初めの一回だけのつもりだった」
急成長をしたアルメニア公爵領に興味を持ったのが、始まり。それも、学園を追放されたアイリスが陣頭指揮を取っているというのだから、尚更だった。
学園で一度見かけた事があるが、当時の彼女はそれは酷いものだった。真正面から馬鹿正直にユーリ・ノイヤー男爵令嬢へ嫌味を言っていて。その言葉自体が眉を顰めるものであった上、弟の心変わり故の行為だとしても、もう少しやりようがあるだろうにという感想だった。
そんな彼女が、まさかの領地経営。アルメニア公爵家当主も、何を考えているのだと思う他なかった。
着実に成長を遂げる領地の経過を見ても、彼女の下について行った者が余程良い人材なのだろうと思った。その人物の引き抜きも視野に入れて潜入してみれば…まさかの、彼女自身が陣頭指揮を取っているという事実。あの時の衝撃は、とても大きかった。
「面白かったよ。私は今まで自分の血縁者以外で負担を感じた事がないし、儘ならぬ事と思った事もない。だからこそ達成感もなく何に対しても無感動で、何に対しても面白みを感じられなかった。……けれども、彼女といるのはとても面白いんだ。思ってもみなかった提案、思ってもみなかった反応。その全てが既存の自分の考えを打ち砕いてくれて…その度に新たな発見がある。彼女といると、次に何が飛び出してくるのか。そう考えるのもまた面白くて…本当に、飽きない。このまま見守っていたいとさえ思えてくる」
気づけば、ドロドロに甘やかしたくなる。自分だけに弱みを見せろとなんとも意地の悪いことすら思ってしまう。けれども、彼女がそれを許さない。その意固地なところがまた、愛らしく思えてしまうのだから重傷だ。
「国民も財も政務も、全ての物が机上で完結していた。数字は単なる数字であり、それ以上の物でも、それ以下の物でもない。人材は盤面の駒であり、どう動かすかを考えるだけ。……だが、あの地に言ってそれは違うのだということにも気付かされた」
「……ええ。以前の貴方より、随分丸まったと思いますよ、俺は」
「言ってくれる」
「……だからこそ、自分は心配です」
急に、ルディの口調が変わった。それまでの飄々としたものから、真剣なそれへと。
「貴方が丸まったこと、それ自体は貴方にとって良いことでしょう。けれどもこれより先、情にほだされて貴方の計画が狂うこと…それだけが心配なのです」
「……先ほど従兄妹の手助けをしてくれた礼を言ったその口で、アイリスを巻き込むことを是とするのか?ルディウス・ジブ・アンダーソン」
「彼女ならそんな事では潰れないと信じている事が1つ。もう1つは…何より、俺は何を置いても貴方を取るからですよ。アルフレッド・ディーン・タスメリア様」