表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/265

舞台裏

5/8

「……全く、ヒヤヒヤさせないでいただきたいものですね」


「あら、私はそんなに頼りなかったでしたか?」


私の問いかけに、ラフシモンズ司祭は苦笑いを浮かべる。


あの査問会から一週間が経った。その一週間の間に、教皇及び教皇派の面々は次々に粛清されていった。破門とはならなかったものの、神職に着くものが教会から追い出されるということはそれに匹敵するような処罰。加えて、資金の着服については現在調査中であり、事態が明るみになったその時には王国の法による処罰も待ち受けている。


「そうではないですよ。まさか、あの場であのような事を言いだすなんて…。追い詰められた獲物は、何をするか分かったものじゃない」


「ですがあの場でこそ、意味があったのですよ。何せ、貴族という聴衆の前にして彼処まで疑惑が挙げられたのですもの。おいそれと彼の派閥の方々も彼と接触を図ることは難しくなった筈」


ヴィルモッツ教皇の築き上げた人脈や信用というのは、あの時あの場で地に墜ちた。彼に接触を図っても、自身に余計な火の粉がかかるかもしれないというこの環境で、それでも彼を弁護ないし引き立てようとする者はそうそういないだろう。


「それでも逆に接触を図るのであれば…それはつまり、並々ならぬ理由がある筈。そうした面々を炙り出す為にも必要なことでしょう」


「……仰る通りです」


ふう、とラフシモンズ司祭は溜息を吐いた。


「……それで?貴方も満足のいく結果でしたか?」


「ええ。教皇一派を追い落とす事が出来たのですから。これで、教会の腐敗についても手を入れることができるようになりました」


私とラフシモンズ司祭を一言で言い表すのであれば、共犯者。…そう、あの査問会で私と彼はそれぞれ別陣営であったけれども、密かに内通していたのだ。

そしてそれこそが、ディーンが持ってきてくれた最後のピース。


私はあの査問会までに、何とか教会側の物証と教会に属する人間の人脈が欲しかった。けれども破門を宣告された私に、その人脈は簡単に得ることができなかった。


ラフシモンズ司祭はヴィルモッツ教皇と対立していた派閥のトップ。…私にとってはうってつけな人材を、彼は私に与えてくれたのだ。


「貴方の求める、正しい教会の在り方…ですね」


ラフシモンズ司祭は、現状の教会の有り様について異議を唱えていた人物。積み上げてきたキャリアは凄いらしいが、それでも上に上がれなかったのは、派閥争いに敗れたからだそうだ。


「ええ。恥ずかしながら、現在の王都の教会の腐敗は凄まじい。神職にある者が、貴族の真似事をするなどあってはならないこと。享楽に耽り、その為に教会の資金は癒着され、火の車状態。遅かれ早かれ、教会の信用は失墜していたでしょう。最近の教会は、より寄付の多い者たちを優先し、職務を疎かにしていたきらいがある。ですが、それも今後正していけるでしょう」


…本来の教会とは祈りの場であると同時に、民たちの最後の救済でもあった。病院にかかれぬ者たちに治療を施し、食事につけぬ者たちに施しを行う。アルメニア公爵家に領内にあった教会のように、身寄りのない子らを保護するのも珍しい事ではなかった。


つまり、ユーリ・ノイヤー男爵令嬢が民たちに施しを云々と言って王国の予算を割かせていたけれども、本来は教会だけでそれ賄っていたのよ。その為の寄付や慈善パーティーだし。


けれども、腐敗が進むと同時にそれに割かれる予算というのがどんどん先細りしていった…らしい。


現在の教会は、寄付金の多い者たちに擦り寄り、教会の威光を笠に着て便宜を図るだけの存在に成り下がっていたのだ。


「……期待していますわよ?ラフシモンズ司祭」


「今度は私が試される番ですね」


そう言って、ラフシモンズ司祭は微笑んだ。


「…私は、貴方の期待に応えることができましたか?」


ラフシモンズ司祭は、共犯するに当たり私にあの冊子を託した。門外不出の冊子…それを持ち出すということは、彼にとっても大きな賭けでありリスクであった筈。


今は私の手元にないが、それでも彼が私に寄越したというのはその旨が書かれた彼のサイン入りの手紙という物証が残っている。


共犯という同盟を結ぶ際に、彼が私への信頼を形にしたのがそれ。裏切らない、裏切れないというところまで、彼は自身を追いやってくれたのだ。


「ええ。ですから、今度は私の番です」


「貴方に最大限の感謝を。今後、アルメニア公爵家は、貴方への助力を惜しみません」


その代わりに、私が復活した時には助力することを約束して。


「……それでは、私はそろそろ行きますね」


「もう行かれるのですか?」


「ええ。商会の方が中々忙しくて」


私の破門宣告が撤回され、教会より逆に謝罪を受けるという出来事があってすぐ。


私はアズータ商会で新商品を販売させた。以前、メリダと打ち合わせをしていたタンポポコーヒーやそれを使って作った甘味。そして、貿易によって得た寒天を使った甘味。


これらの新商品は見事に当たって、現在再び売り上げは上がった。そして、チョコレートを使って作った甘味にも新製品を次々に発売させた。


……今まで温めていたそれらは、全て我がアルメニア公爵家領内にあるアズータ商会の本拠点の開発部にいる者しか知らない。つまり、エド様が引き抜いていったという職人たちには既存の物は作れても、新製品の事は何も知らないのだ。


と言う訳で、客足も戻ってきている。それに伴い、エド様のところに鞍替えした面々も、アズータ商会に戻りたがっているみたいだけど…まあ、許す訳ないわよね。


エド様が開いた商会だけれども…職人たちだけでなく商会の取引先についても、大口取引が全て此方に戻ってきているから、遅かれ早かれ資金面が厳しくなるだろう。随分杜撰な経営をしていたみたいだし。


「と言う訳で、失礼させていただきますわ」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 関税を引き上げた第二王子派の 領主達は、ギャフンと言わされないのかなあ… [一言] エドと引き抜かれた奴らざまあwww
[良い点] やはり、陰謀をはねのけやり返す展開はスッキリしますね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ