振り返りつつ再びの王都へ
連続投稿してます。6部投稿してますので、ご注意ください。
……プロパガンダ。
世論・意識・行動を意図する方へと誘導する宣伝行為。
私が行った演説は、まさにそれ。下準備としてミナに走り回って貰って流した証言を利用し、私につく事でメリットがあると思い込ませ、教本を利用し道徳的な言葉を結びつける。
かの有名なアドルフ・ヒトラーは、「宣伝効果のほとんどは人々の感情に訴えるべき」「宣伝を効果的にするには、要点を絞り、大衆の最後の1人がスローガンの意味するところを理解できるまで、そのスローガンは繰り返し続けることが必要」と残していたけれども…上手くできたかしら?何せ、私は演説なんてこの方したことがなかったし。できたと、信じよう。沢山の拍手を貰えたし。
因みに、駄目押しとばかりに黄昏時に解放式を行ったのも、薄暗い部屋で行ったのも全て、それをより効果的なものにするためだ。
さて、これで脇は固めた。私が少しばかり領地を離れても大丈夫…ということで、向かう先は王都。…元凶を叩きに行かないと。
それにしても、と心の中で繰り返し考えている疑問を反芻する。
あの場で平和的に式で演説を行えたのは、ディーンのおかげ。今、肌身離さず持っている書状2枚。この書状のおかけで、神官の協力を得ることができたのだ。私が求めていた最後のピースこそが、この書状。
どうすれば、得ることができるか…お母様か王太后様のお力をお借りするかと考えていたのだけれども。本当にディーンはどうやって…まさか…。
「……お嬢様、大丈夫ですか?」
考え事をしていたら、心配げな声色でライルに声をかけられた。
「だ、大丈夫…」
「後もう少しで、休憩です。それまで、ご辛抱ください」
現在、王都に向かっているところ。それも、速度重視で馬車を使わずに。…何が言いたいかというと、現在私は馬車に揺られているのではなく、馬に乗っているのだ。…勿論乗馬の心得なんてない私は、ライルに手綱を握ってもらっているような形で。
前回あの強行軍に耐えられたのだから大丈夫かな…なんて思ってたけれども、全然違う。甘かったわ。馬ってこんなに揺れるのね…。地面が恋しくて仕方ない。
同行しているのは、ディダ、ターニャ、それから我が家の護衛たち。ディーンは用事があるとのことで、途中で別れた。それが終わり次第向こうで合流する、とも。皆見事に馬を乗りこなしていて、この場でお荷物は私だけ。
…けれどもその苦労の甲斐あって、見事に時間短縮はできた。
王都につくと、ふらつく足を何とか動かして別邸へ。
「お帰りなさいませ」
ここを去った時と同じく、使用人総出でのお迎えを受けつつ、中に入った。
「た、ただ今帰りました。お父様、お母様、ベルン…今回ご迷惑をお掛けしまして、大変申し訳ございません」
家の玄関で、家族の皆も迎えてくれた。それに対する挨拶は、随分と締まらないものだったけれども…。未だに平衡感覚が戻らなくて、若干視界がグルグルする。
「…随分と早い到着だが…大丈夫か?」
私の状態を察したお父様が、気遣うように問いかけてくれた。
「ええ。何とか…」
「少し身体を休めろ」
「は、はい…….」
そこから、お父様の厚意に甘えて数刻部屋で休んでから、リーメに案内されつつ部屋に入る。
いつもは、お茶を飲む時とかに使う部屋だけれども、勿論今日はそんな和やかな雰囲気ではない。既に家族全員が席についていて、私も空いている席に腰掛けた。
「改めまして…この度は、ご迷惑をお掛けしまして誠に申し訳ございませんでした」
再度、皆に向けて謝罪。
「いや、まさかダリル教がここまでの行動を起こすとは思わなんだ。そう、気に病むな」
「ですが…」
「そうよう。言いがかりもいいところだもの」
お父様とお母様の温かいお言葉に、胸が詰まる。
「会の準備はできている。王太后様がとても張り切っていらっしゃった。向こうは我らに戦いを嗾けてきたのだ…遠慮はいらない。思いっきりやれ」
「はい。…そういえば、お母様。ディーンからお母様にと書状を預かっておりまして…」
「まあ、彼から?見せてちょうだい」
お母様は興味津々とばかりに私から手紙を受け取ると、すぐさまそれを開いて読み始める。読み終えた頃には、ふふふ…と楽しそうな笑みを浮かべていた。
「……彼は、何と?」
「いえ、ね。勝手に名前を使わせて貰って申し訳ない…と。貴女が受け取ったその書状を教会から得るのに、どうやら私の名前を使ったみたいなの」
「お母様の名前を使う…効力は絶大でしょうね。現在お母様が出席を予定されていた慈善パーティーに欠席を表明されてから、欠席者が続出していると教会から悲鳴が上がっているそうですから」
ベルンの言葉に、私は納得する。欠席が続出する…ということは、集まるお金というのも減るということだ。それは確かに教会側にとっては手痛いしっぺ返しだろう。…でも。
「大丈夫なのですか?教会はこれ幸いと、お母様にまで攻撃を仕掛けてくるのでは?」
「大丈夫よう。納めているものは納めているのだし。そもそも慈善パーティーは元々任意で出欠席できるものよ。“破門宣告を受けた娘の母が教会のパーティーに出席するのは、場の空気が悪くなるので辞退します”ってちゃんと手紙にも書いといたし」
直球すぎる内容に、思わず笑ってしまった。
「まあ、今回の件が解決したら、ちゃんと出席するようにするけれどもね。何せ、それが教会側から書状を勝ち取る為の条件の1つだったみたいですし」
「どういうことですか?」
「私がそんな行動をすると予想して、教会側との交渉の材料に使ったみたいなのよ。私としては、私の名前がアイリスちゃんの役に立ったのだから良いけど」
……ディーン。随分と大胆な行動に出たわね。お母様の名前を勝手に使うどころか、交渉材料にするなんて。しかも、事後報告。お母様がお許しになったから良かったものの…若干頭が痛い。
「お姉さま。私から、1つ報告が」
考え事をしていた私に、ベルンが口を開いた。
「あら、何かしら?」
「今回の件、ヴァンが首謀者ではありません」
「だから、許せ…と?」
私が若干睨むように見ると、すぐさまベルンは首を横に振った。
「いいえ。……今回の首謀者は、恐らく教皇本人。そして、彼の周りに、最近モンロー伯爵が懇意にしている商人の姿があります」
「貴方は、その商人が裏で糸を引いていると?」
「恐らくは。…そもそも、いくら何でも教皇とはいえ、おいそれと公爵家に仕掛けることなんてしない筈だと疑問に思い、ヴァンから話を聞き出しました。勿論、直球では聞けないので色々と世間話をして…そこで気になったのが、その商人です。この事件の少し前にからモンロー伯爵のところの商人が教皇と面談を数度している、特にお姉様の破門宣告をする前に多く。偶然にしては出来すぎていないか、と思いまして」
「なるほど。…お父様、その商人の事は…?」
「勿論、調べさせている」
なら、良い。それにしても、ベルンの行動に少し感動する。スパイよろしく、まさか向こうから話を聞き出してくれるなんて。
「私としては、エドワード様の関与も疑っているのだけど?」
だからこそ、聞いてみた。今の彼なら答えてくれるのではないか…って。
「いいえ。彼の方も、教会の件で関与はしていませんが…」
「何か?」
「御本人に向かっては言いにくいのですが…お姉様が王太后様の後ろ盾を得た事を、彼の方は面白く思っていないようでして。意趣返し…と申しましょうか。何かできないかと、お姉様の事を疎んじている彼の方は、随分と方々で愚痴っていました。そして今回の件を耳にして、これ幸いと動き始めまして。商会から従業員を引き抜いたのは、まさに彼の方の行動によるものです」
「……なんと、まあ……」
小さい男なのか。とはいえ、商会の売り上げは確かに落ちているのだから、侮ってはならないのだけれども。
「……商会の件は、この件が終わったら思いっきりすることにするわ。情報提供、ありがとうね」
「いえ」
「さ、アイリスちゃん。そろそろ食事にして、早く休みなさい?明日もまた、大勝負よ。しっかりと休養を取って、勝ちにいきましょう」
「はい、お母様」
さて、明日は本場。前回の建国記念のパーティーも戦に出陣する兵士のような気分だったけれども…今回は、それ以上。
明日、私の運命が決まる。負けは許されない、ここ一番の大勝負。
次回より、お嬢様のターンです