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お嬢様、襲われる

と、言う訳で。大々的なお別れ会を開くこともなく、親しい人に挨拶のみで私は領地に帰ることとなった。

家族全員と、使用人総出でのお見送り。領地に“帰る”のに、何だか少し寂しく感じた。


「……お嬢様。道中は、なるべく急いで帰ります。快適とは言えないかもしれませんが、ご容赦くださいませ」


「良いのよ、ターニャ。皆、私の安全を考えてくれているのでしょう?なら、私がとやかく言うことはないわ」


ターニャの言った通り、帰りの道中は快適とは程遠い旅程だった。昼間はひたすら馬車に揺られ、夜は街の宿屋にお忍びで泊まる。陽が出ると同時に、また馬車に揺られる。そんな日々。疲れるけど、私が原因なんだから文句は言ってられない。


…むしろ…。


「皆、ごめんなさい。こんな大変な事に付き合わせてしまって」


私は馬車に揺られているから良いけど、護衛の皆なんてほぼ休憩なしでずっと馬に乗ってるんだもの。私以上に大変な思いをしているわよね。申し訳なくて、数少ない休憩の合間に謝罪した。


「お嬢様、謝る必要はありませんよ。私たちはお嬢様の護衛なのですから」


「私を狙っているかもしれない相手が相手なのだもの…。ライルもディダもいつも以上に気を張っているでしょう?」


小さい頃から一緒にいるから、ターニャの無表情から感情が読み取れるように、2人の雰囲気とか何気ない仕草で読み取れるものはある。


いつもは余裕を崩さない2人だけど、今回の旅路では常に緊張感を纏っていた。ピリピリしている、そんな感じ。


襲われないかもしれないし、襲われるかもしれない。襲われるなら、どのような形なのか。真っ向に来るのかも知れないし、それこそ闇夜に音もなく襲ってくるかもしれない。暴力に訴えるのかもしれないし、毒物などの道具で命を狙われるかもしれない。その道具も手練れも、幾らでも揃えることができる。そんな、相手だから。


そもそも王族に狙われているかもしれない…そんな面倒な主人をさっさと見限って、何処にでもいけるというのに。特に、ライルとディダは。それでも態々、私についてきてくれる。それが、とても嬉しくて申し訳ない。


そんな事を思っていたら、私の内心を悟ったのかライルが私の前で跪いた。


「……私は、お嬢様の剣であり盾であることを誇りに思います。此度も、これからも…お嬢様の身の安全をお守りし致します」


次いで、ディダもライルの横に跪く。


「……俺は、お嬢様の剣であり盾であることを誇りに思います。此度も、これからも…俺の剣は主人である貴女の為にふるいます」


ディダの言葉が終わると同時に、他の護衛達は敬礼を私にむける。ディダは珍しく、軽口を叩かなかった。少しそれに驚いたけれども、それ以上に今目の前に広がる光景に驚く。


「皆、ありがとう」


僅かな休憩も終わり、私は再び馬車に揺られ始めた。ぼんやりと、外の景色をカーテンの隙間から眺める。もう少しで、領地に到着する。


護衛達が馬に騎乗しつつ、この馬車を囲むようにして並走していた。…何だか、騒がしい。


「……お嬢様…!」


突然私をターニャが引っ張ったかと思ったら、窓からなるべく私の身を遠ざける。かと思えば、馬車のスピードが更に上がった。


「……現在、護衛が交戦しているようでしたので」


「相手は何処の者…?」


「私も見えませんでした。ですが、正規の軍ではなさそうな装備だと思いましたが…」


それから、馬車の中にいる私たちは無言。緊張感が、場を支配していた。喧騒から離れるように、ひたすら速く駆け抜ける。


馬車のスピードが元のスピードに戻ったかと思えば、やがて止まった。


「どうしたの?」


「少々お待ちください、お嬢様」


ターニャは、外にいるライルと話しているようだった。


「もう、大丈夫だそうです」


「そう。皆は、無事なの?」


「ええ。ライルより報告があるとのことですので、宜しいでしょうか?」


「勿論よ」


私は少し場所をズレて、ライルの近くに寄る。ライルは少し薄汚れていたものの、目立った怪我はなさそうで一安心だ。


「騎乗のまま、失礼致します。現在、襲いかかってきた者たちは殲滅し、数名で残党の探索を行っております」


殲滅、という言葉が私の心に重くのしかかる。日本という安全な国にいた“私”にとっては、特に。けれども、危機が去ったことはそれにも勝る喜びだ。今更ながら、“私”が元いた世界とは違うということを嫌という程知らされた。


「そう…。本当に、ありがとう。それで、負傷した者は?」


「軽傷者が数名。ですが、問題なく護衛を続行できるほどです」


「それなら良かったわ…。それで、相手の者たちについて、何か分かったことはある?」


「いえ。装備や動きからは、ただの賊のように思えますが…本当にただの貴族を狙った犯行なのか、それともお嬢様だから狙われたのかまでは不明です」


残念な事に、この国では未だ賊が存在している。領地の境だとか治安維持に尽力していない領では、特に。


けれども本当に、ただの賊なのか。それこそ、身代金狙いの無差別な犯行だったのか、それとも私だからこそ…雇われて襲ってきたのか。私だからという理由なのであれば、王妃やその一派の手の者が襲ってきたにしては軽すぎるような気もするが。


「申し訳ございません。本来であれば、1・2名生かして取り調べを行うべきところですが…」


「良いのよ。この人数で襲われて、それで生かしたまま捕まえるのは難しいでしょう。一先ず、後少しで領地に着くでしょう?今日中に領内に入ることを目指して、速く行きましょう。皆にも、後でお礼を言わなきゃね」


そして、再び馬車は出発する。どうやら、索敵を行っていた護衛の者たちも帰ってきたようだ。


…早く、領地に帰りたい。


そんな事を想いながら、ひたすら馬車に揺られた。



実は、50部の記念に『公爵令嬢の説明書』という人物説明と会話集をアップしました。http://ncode.syosetu.com/n9261cp/

本当は50部の後書きに書こうと思っていたのですが…先に50部目をアップしてしまったというミスです。

ご報告が遅くなって、すいません。

私自身、横文字の名前を覚えるのが苦手で、人物名と設定のメモをこしらえていたのですが、途中“あれ、この人の名前って何だっけ?”とメモを読み返すことが多々。

感想にも、人物の一覧みたいなのがあると良いとの助言をいただいていたので、今回アップさせていただきました。今後も少しずつアップしていこうかと思いますので、宜しくお願い致します。


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