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夜会 弐

「アルフレッド王子も、貴女の腕を評価されていました。幾つか行われているアルメニア領の施策は、国としても行っていきたいと」


「まあ…アルフレッド王子が」


「……驚かれないのですね?」


「あの御方がこの国にいるという事は、既に聞いておりますもの。何より、こうして派閥があるからには、そのトップと所属している方々は密に連絡を取り合っている筈でしょう?」


実際、ここにいる方々って有能だけど何だか個性的そうな方がチラホラ。そんな方々を集め、かつ纏め上げているのだもの…実際トップがいなければ話にならないでしょう。特に、こんな難しい局面では代理の人を立てることも難しいでしょうし。


「そして、ここにいらっしゃる方々があの御方を支持しているのであれば…私の領のことも伝え聞いているでしょう」


何せ財務大臣であるサジタリア伯爵を筆頭に、沢山の官僚がここにはいる。彼らが付き従っているのであれば、それなりに政務を行っているというのは想像に難くない。


「あの御方が我が領の領政を評価して下さっているとのこと、とても光栄ですわ。ただ、それが国に合うかは分かりかねますが…」


私があそこまで改革を推し進められたのも、トップが私のみだからというのが大きい。この国は領主の権限が大きいから、もし仮に国単位で改革を進めるとなると、それぞれの領主との交渉から調整等々かなりの時間と手間を要するだろう。


「あの御方なら、成し遂げるでしょう。既存の体制を変え、真に1つの王国として」


私の意図を読み取ってか、サジタリア様は笑って言った。けれども、最後の一言に私はひっかかりを覚える。既存の体制を変えて、真に1つの王国として……?

サジタリア伯爵は、まるで悪戯っ子のようにニヤニヤとした表情を浮かべている。まるで、私がどんなことを考えているのか測っているようだ。


さっきも言った通り、この国の領主の権限は強い。基本的に領が1つの国家というイメージでその上に国があるというような形。そのため、税法や立法はあくまで国法に反しない限りでの裁量が認められている。私が好き勝手できているのも、これのおかげ。唯一の例外は王都で、これは王国の直轄地とされている。


さて、既存の体制を変えるという言葉がもしこの体制を変えるという意味であるのなら……それは、王権の強化ということかしら?領主の権力を削ぎ、王族に集中させる……確かにその方が王国として体制を整え易いのかもしれない。けれども、反発が大きいのは想像に難くないわよ。本当に、そんなことが可能なのかしら?


……それ以前に、何故サジタリア伯爵はそんな事を私に今、言ったのかしら?私はこの場にいるとはいえ、第一王子派に所属していると明示していないのに。


そこまで考えて、ふと私の中でさっきの会話が思い浮かんだ。


“最終的にどこを目指しているのか”。


まさか、さっきの話に繋がるということ?もし、仮に…本当に可能性は低いけれども、その体制ができたとして。私は“どうするのか”…それを聞きたいということかしら。反発し、独立をするのか…それとも国に従うのか。お父様でなく、領主代行として実際に領主の業務を行っている私の考えを探っておきたい…と。


「…私は、あの御方にお目通りが叶っておりませんから、どのような方か分かりません。なので…私には測りかねます。ですが、もし仮に叶ったとして…それが民のためになるのであれば、私にとってこれに勝る喜びはありません」


アルフレッド王子に会ったことがないから、何とも言えない。これが、私の本音。だから今は、支持するともそうでないとも明確には言えないわ。


「そうでしょう。……いやはや、面白い。いずれ、あの御方の横に貴女が並び立つ姿を見たいと思うほどに」


「まあ……。お戯れを。並び立つ、など恐れ多いことですわ」


「これは失礼。悪戯が過ぎましたね」


それからサジタリア伯爵と別れた後、幾人の方とご挨拶をして、休憩がてら端に置いてある椅子の1つに座った。


こうして見ると、この場にいる面々って本当凄い方ばかり。サジタリア伯爵との会話をしていた時を筆頭に、少し気を張り過ぎて疲れたわ。


そんな事を考えつつグラスを傾けていたら、何と今日のホストであるメッシー男爵が私の側に来た。


「今日の会は如何ですか?」


「とても楽しませていただいてますわ」


ニッコリ、笑みを貼り付けて応対。気を緩めれば、疲れが顔に出そうだわ。


「……そういえば、メッシー男爵。1つ、聞かせていただいても?」


「何でしょうか?」


「何故、貴方は領地に早くお帰りに?ここにいる皆様方…王城で官僚をされている方を除いて…シーズン中は皆様王都に残られると仰ってました。てっきり、皆様方ももうお帰りになられるかと思っていましたので……」


結構踏み込んでしまったかな、と思ったもののメッシー男爵は口を開いてくれた。


「それが、私の与えられた任務だからです」


「……任務、ですか?」


「ええ。アイリス令嬢は、ガゼル様にトワイル戦役のことは……?」


「勿論、聞いております。ですが、私の知識は書物にあるものとそう変わらないでしょう」


「十分です。……貴女が聞いた通り、私はかつてトワイル戦役でガゼル様の下で戦った者。そして、その戦役での武功により、爵位を賜りました」


そう説明するメッシー男爵は、遠い目をされてる。


「ですが、私はあくまで軍籍の身。爵位を賜っても、それは変わりません。そして、トワイル国との休戦は締結されていないのですから…私は国境を預かる者として、あまり領地を空ける訳にはいかないのです」


……確かにそうよね…と思いつつ、けれどもやっぱり釈然としない。まあ同じ国境の領を治めているモンロー伯爵とは、“軍出身だから”メッシー男爵の方が警戒心が強いというのは分かるけれども。でも、それにしても早いような気がする。何せ、公式行事である建国記念パーティーの開催前ギリギリにいらしたかと思えば、終わってすぐ帰られて。本当に開戦間近だと思えてしまって仕方ない。


「今尚私の中では戦時中であり、そんな私が貴女に絶対大丈夫であるから、心配は不要と言えません。ですから、注意しておいて下さい…とだけ言っておきましょう。向こうも、すぐに戦いに持ちかけることはないかと思いますが、あの国は常に我々の国を狙っているので」


「豊富な穀物や資源故に…ですか」


「ええ。それに加えて、30年前の戦争の憎悪も残っているかと」


……戦争、ね。アルメニア領はトワイル国と間逆の方にあるため、かなり距離があるのだけれども… だからと言って気を抜くなということか。


一度開戦すれば、様々な面で領に負担は降ってくるのだから。


「ご忠告、ありがとうございます」


「こちらこそ、このようなパーティーで無粋な話題、失礼しました。それでは、私はこれにて失礼させていただきます」


「とんでもございませんわ。とても、為になったと思いますもの」




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