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再会

一先ず始めに、ダングレー侯爵家への訪問。

此方は私的な集まりとの事で緊張はない…と思いきや、やっぱり久しぶりにミモザに会えるということで、思いっきり緊張していた。ダングレー侯爵家の使用人一同に出迎えられた後、私は応接室に案内される。



「……お久しぶりですね。アイリス様」


中には、既にミモザが座って待っていた。


「本日はお招きいただき、ありがとうございます」


私も挨拶を返し、そして座る。そのタイミングで、ミモザは1人の侍女を残して他の使用人達を部屋から退出させた。


「……挨拶は、ここまでにして……アイリス、本当に久しぶりですね。貴方が元気そうで本当に良かった……」


先ほどまでの厳かな雰囲気はどこへやら、素の彼女になった。ミモザ・ダングレー。私の学園でのクラスメイトにして親友。とっても穏やかな彼女は、少し垂れ目がちの可愛らしい顔立ちの少女。私の顔が少しキツめだから、足して2で割りたいと切実に思う。


「心配かけてごめんね、ミモザ……」


「本当よ。私が風邪で休んでいる間に、まさかの貴女は退学……だからあれ程、あの方々には気をつけなさいと言ったでしょうに」


ミモザは散々、私に注意をしてくれた。ユーリ男爵令嬢に近づき過ぎるな、関わるなと。それでも私がエドワード様に近づく彼女に手出しをした結果、手痛いしっぺ返しを食らったのだ。


「反省しているわ。あの時は、まさかあそこまでの事を彼方側が仕掛けてくるとは思わなかったのだもの」


「そうねえ。昔の彼らなら、あそこまでの事をしでかさなかったでしょうけれども。あの子と関わるようになってから、随分変わったもの」


「ええー……ミモザ、気づいていたの?」


「貴女がエドワード様にぞっこん過ぎて気付かなかっただけよ?片鱗は、貴女がいる時から見せていたわ。ねえ、アイリス……私は正直、あの子が怖いわ」


「……怖い?」


私は笑いかけたが、それにしても彼女の顔が真剣で、結局その笑みは引っ込めた。パーティーで対峙した時は、まるで子供のように無邪気でそれ故分別がつかないような女の子、くらいにしか思わなかったけれども。


「何を考えているのか分からない事が怖い。それに、子供のように無邪気さを装っているけれども…それだけではないような気がしてならないの。だって、あの方々だって…あの子に会う前までは、その身分に相応しい教育を施され、それらしい立ち振る舞いをしていたのよ?利用される立場だと理解しているからこそ、警戒心だって人一倍あったはず……それなのに、あの子にあっさり落ちたかと思えば言われるがままに動いて。その状況を彼らに気付かせないほど、あの子の言動は巧みなのかもしれない。あの傍若無人な行動だって、何か意図があるのではないかなんて勘ぐってしまうわ」


「…考え過ぎではないかしら?だって、あの子の言動はあの子自身の首も締めているのだもの」


このままでは、あの子の首も自分で締めかねない。立場を考えると、ね。……とは言え、完全に否定できない自分もいた。学園で唯一ユーリ男爵令嬢を危惧していたミモザの言葉だからというのが1つ。もう1つ、思いついた事があるのだけれども…流石に突拍子もなさ過ぎて、私はその考えを一先ず頭の隅に追いやった。


「……そうね……。もう、この話は止めましょう」


ミモザは納得しないながらも、それ以上反論する言葉が見当たらなかったらしく、渋々と同意したようだった。


「それより、アイリス。貴女、最近はどうなの?」


気持ちを切り替えたらしいミモザは、穏やかな笑みを浮かべて言った。ミモザって本当、何と言うか…女性らしいんだけれども、それも母性を感じさせるような雰囲気なのよね。


「……どうと言われても…特に、手紙で送った通りよ。商会の切り盛りをして、領政に首を突っ込んで…というところかしら」


「そこの所を詳しく聞きたいのよ。凄いじゃない。王都で大きな販売店を出しているし、1番人気のカフェもアズータ商会の系列でしょう?お母様も私も、あそこの美容品の大ファンだし、チョコレートを使った製菓も大好きよ」


「それはありがとう」


「それに、こんなにキレイになって…何か良い事でもあったのかしら?」


目元をうっとりとさせつつ和かに笑う彼女を見て、私は少したじろぐ。


「べ、別に何にもないわよ。そんな暇もないしね。……ミモザこそ、何か良い事はあったの?」


「私も何もないわよ?元々…学園を卒業した後、婚約者のいない私は、王都に残って相手を見繕うまで花嫁修業…という事だったのだけれども、今のタイミングで相手なんてすぐに見つけられないし…だから、少し退屈しているわね」


「ああ…」


妙に、納得してしまった。特に、後半部分。今みたいに派閥争いがある中で、相手がどう転ぶか分からない以上、下手に婚姻という繋ぎを作れないものね。


「まあ、良いのだけどね。まだ結婚って全く想像もできていないのだもの。自分を見つめ直す良いチャンスだわ」


何もなければ、ミモザなら沢山の縁談があるだろうに…と思うと少し残念に思うわ。きっとミモザだけでなく、中立派の家って今婚約相手を見つけにくいわよね。


ふと、お茶をいただいて茶請けをその流れでいただこうとして手が止まる。スコーンやサンドウィッチなんかと一緒に、馴染み深い百合の刻印がされているチョコレートがあった。


「ごめんなさいね、アイリス。貴女のお店のなんだけど…さっきも言った通り、私の大好物で」


「謝る必要なんて、ないわよ。貴女がそこまで気に入っていてくれて嬉しいわ。そういえば、今度王都の店に視察する予定があるのだけれども…ミモザも一緒に行く?」


「それって、アズータ商会のお店ということ?」


ミモザの目が輝く。


「系列も含めて全部だから、少しハードだけど。何せ、私王都にいるのも後少しだから…この機会に全部様子を見ておこうと思って。勿論、視察だから人数を絞って行動しなければいけない以上、警備の面を考えて行けないというのならそれはそれで仕方ないわ」


流石に視察でゾロゾロと人を連れて行けないし。でも、そうすると貴族の令嬢である以上、少し警備の面で家族にミモザは反対されてしまうかもしれないわね。


「何人まで連れて行って宜しいのかしら」


「2人まで…ね。此方からはライルとディダ、それからターニャが帯同するわ」


「ライルさんとディダさんが一緒なら、お父様も反対されないと思うわ」


「あら、2人に随分信頼があるのね」


「それはそうよ。王国でも屈指の方達と言われているのだもの…その力への信頼は篤いわよ」


「そういうものかしら。…もし、許可を貰えたら、手紙を送ってちょうだい」


「ええ、勿論。いつまでに送れば良いかしら?」


「今週中までで」


「分かったわ」


それから私達は、日が暮れるまで学園時代の話や王都での流行など取り留めのない話を続けた。楽しい時間というのは本当にあっという間で、ターニャにそろそろ…と言われなければ、そのままどっぷり夜までいたかもしれないわね。





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