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ある貴族の考察

…今日は建国記念日であり、王城では貴族が集まる王家主催の公式パーティが開催される。私も伯爵家当主として、このパーティに招待された。

次々と入ってくる面々は、公式行事故のドレスコードに従いつつも美しく装っている。かく言う私も、この日の為に1着仕立てさせた。

一瞬、会場が騒めく。…どうやらエドワード様とユーリ様、そしてダリル教教皇の子息であるヴァン様がいらっしゃったようだ。エドワード様は、深い緑色のスーツを見事に着こなしていらっしゃる。その横…エドワード様と腕を組んでいらっしゃるユーリ様は、ピンク色のドレス。上半身には花が彼方此方に縫い付けられていて、彼女の瑞々しいばかりの若さを見事に引き立てている。パニエで広がるスカート部分は、切り込みが入っていて、その下からは薄い白色のレースと薄いピンク地の布が当てられており、動くたびにそれがチラリチラリと見えるような形になっていた。

ヴァン様は、ダリル教子息だけあってダリル教の礼服を着ていらっしゃる。


彼らが現れると、この場にいた者たちは次々と挨拶に向かう。王族の者が現れたのだから、それは当然のこと。

……ただ、中にはその様を少し離れたところから見ているだけの者達もいる。現在のこの不安定な情勢では、それもまた有りかと。私も積極的には挨拶に向かわず、とりあえず近くに来たら挨拶をするという方を選択した。

にしても…エドワード様は主催者側ではなく、出席者側として来たのか。てっきり、まだ王位を継いではいないが、エルリア様とそのご実家の圧力で、前者になるとばかり思っていたのだが。まあ、当人はユーリ様と仲睦げに会話をされていらっしゃっていて、特に気にしていないのかもしれないな。


そんな事を考えていたら、エドワード様が現れた時と同じように騒めく。入って来られたのは、宰相であるルイ・ド・アルメニア公爵様とその奥方であるメルリス夫人。相変わらず、メルリス様はお美しい。今日は瞳の色に合わせた薄い水色の流行りの型のドレス…濃い青のローブを纏われていらっしゃる。本当に、社交界の華と呼ばれるのも頷ける美しさだ。

何人もの人々が男女問わずお二人に挨拶をする。お二人とも慣れていらっしゃる為、卒なくそれを返されていらっしゃるようだった。


それからすぐ後に、先ほどまでよりも一層入り口付近が騒めく。私も、目線を公爵と公爵夫人から其方の方へと向けた。


そこには、公爵子息のベルン・ターシ・アルメニア様と、彼がエスコートする女性が1人。その彼女に、会場中の視線が集まっていた。かく言う私も、彼女に見惚れた内の1人。


……美しい。その一言が、頭の中を占めた。銀髪の髪の毛は艶やかで、光を受けて輝いて見える。目鼻立ちが整った顔立ち、白磁の如き白い肌。深い青色の瞳は、極上のサファイアのようだ。そして彼女が身に纏うのは艶やかな光沢のある布でできたドレス……あれは一体、何の布だろうか。少なくとも私は、あのような生地は見たことがない。そして薄いベージュのような白色のその生地でできたドレスは、今この場の女性達とは似ても似つかぬタイプだ。まず、パフスリーブのついた砂時計の形ではなく、まるでS字のようなカーブラインのような形……要するに、ボリュームのあるスカートではなく、細型のスッキリとしたラインのスカート。細身の彼女に、その形はよく似合っていた。そしてその裾には青色と銀糸で精巧な刺繍がなされている。そして、サッシュには彼女の深い青色の瞳によく映える同色のものが巻かれていた。

明かりに照らされて光り輝く、か細く儚げな彼女を見て…まるで、月の女神のようだ。そんな感想を抱きつつ、目か離せない。


…一体、彼女は誰なのだろうか。あんな美しい女性、一度見れば忘れられないだろうに。


彼女は会場中の視線を一身に浴びて、奥へ奥へと入って来る。そして、ピタリとアルメニア公爵夫妻の前で立ち止まられ、そのまま談笑を始められた。

…アルメニア公爵家に所縁のある方、なのか……?そういえば、メルリス夫人に似ていらっしゃるような……。まさか、アイリス・ラーナ・アルメニア公爵令嬢様か?否、彼の方とは姿形が違い過ぎる……それにアイリス様はエドワード様に婚約破棄をされ、とてもじゃないがパーティに出る事なんて出来ないはずだ。では、彼の方は……?


そんな疑問符を並べていたら、今度は別の扉が開かれた。入ってきたのは、王太后様…王太后様?王ではなく、王太后様が何故……?けれどもその時ふと、主催者として登場された彼の方を拝見して、私はかつてのことを思い出した。

彼の方は、かつて女王としてこの国に君臨されていらっしゃった。というのも、兄上である皇太子を亡くされ唯一の王族の直系となられたからだ。とはいえ、女性が王位に就くのは前例がなかった為に公爵家から婿を迎え入れ王とし、共同統治という形に収まったが。

その時代に、こうして幾度も彼の方は主催者として、また、女王として同じように登場されていらっしゃっていた。それ故、今のこの光景には懐かしさを感じる。

その後彼の方の旦那である前王が亡くなられ、息子である現在の王が成人されるとアッサリと王位を退かれる。

その後暫く王太后として王宮に留まっていらっしゃったが、伯爵家のご令嬢と王が結婚された時に隠居され離宮に移られた。

それ以来、全くこうした催し物には参加されていなかったのだが…果たして、何かあったのだろうか。


誰もが自然と昔のことを思い出し、頭を垂れる。私も、その内の1人であった。

彼の方は我々の礼を笑顔で受け取り、王族の席に座られた。それと同時に音楽が再び鳴り響き、パーティーが開かれる。

談笑しつつ、目線はベルン様に連れられた謎の女性か王太后様に集まっていた。

ふと、その謎の女性が動き出す。どうやら、王太后様に呼び出されたらしい。彼女が歩き出し王太后様の席近くまで行くと、最早我々はそれぞれの会話を忘れて、その2人の会話に耳を傾ける。


「アイリス・ラーナ・アルメニア公爵令嬢。私は、今日、貴女に会えるのをとても楽しみにしておりましたわ。こうしてパーティに出席してしまうぐらいに」


王太后様の言葉に、我々の中で衝撃が走る。やはり、彼女はアルメニア公爵家の長女にして、“あの”話題の女性だったのか…と。

そしてそれ以上に、彼女の為に出席されたという風にとれるその言葉に驚きを隠せない。

一体、王太后様は何を考えているのか…。


「アズータ商会の会頭として見事に成功を収め、その一方で領主代行として立派に領主の仕事をされている貴女の話を聞くのが、今の私の楽しみでしてよ」


けれどもその疑問も王太后様のその御言葉で吹き飛び、更なる衝撃を受け取る事になった。

彼女が“あの”アズータ商会を取り仕切っている?しかも、同時並行で領主の仕事まで!

アズータ商会と言えば、今をときめく国内でも1・2を争う程の大商会。設立は僅か3年と少し前ぐらいだったが…それでも類を見ない商品ラインナップと見事な経営でのし上がってきた注目の商会だ。私も彼処の商会のチョコレートは大の好物であり、家族は彼処の美容液を使用している。


「…色々大変なことがあるでしょうが、困ったことがあったら何なりと私に相談すると良いわ」


「……身に余る光栄に存じます」


彼女はキレイな動きで礼の所作をすると、下がった。僅か3つか4つの会話だったが、主催者は様々な者たちと話をしなければならないので、それぐらいが丁度良いとされている。

現に彼女が下がると、次の人が呼ばれていた。

そして彼女は、再び壁の花と佇む。恐らく本人としてはひっそりとしたいようだが…けれども誰もが視線をやる。

今のやり取りだけでも、彼女の価値は測り知れないものとなったからだ。

まず、アズータ商会の会頭としての魅力。潤沢な資金とその資産は、無視できない存在。

けれども何より…彼女の王太后様への影響力。我が国の貴族の中で真っ先に彼女を呼び出し、しかも何からあったら相談しろとの御言葉付き。王族の…それも今この場にいる者の中で最も影響力を持つ方の後ろ盾を得たも同義だ。

こうなると、何故エドワード様は彼女との婚約を破棄されたのか…。何せ、その美貌・才覚・血筋・後ろ盾…どれを取っても、彼女は魅力的だ。寧ろ本当に王位に就きたいのであれば、彼女は絶対引き入れるべき存在の筈だ。そんな彼女を蔑ろにし、婚約を破棄した上にすぐに別の女性と婚約したとなると心証が悪すぎる。

少なくとも中立の者たちには内心冷笑されることまず間違いがないし、第一王子の陣営はほくそ笑んでいる筈だ。そして、第二王子の陣営の者たちは逃した魚のデカさに、まるで自身のことのように歯噛みをしているだろう。

現に誰もが彼女とお近づきになりたいと、声を掛けるタイミングを見計らっている。ところが、彼女は常に家族の誰かと談笑を交わしている為、中々タイミングを見つけることができない。


「あれ、久し振りですねー」


そんな駆け引きの最中、空気を読めていない発言が彼女に向けられた。





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― 新着の感想 ―
貴族達の間にまるで電が落ちたかのような衝撃が走ったのが漫画チックに見えました。 そして最後に声を掛けたアホは多分まともな脳をしていないな。
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