いざ、王都へ
「……なんで、こんなものが私のところに来るのよ……」
今の私の手元にあるのは、1つの招待状。…建国祭の日に王城で行われるパーティへのそれだ。
公式行事だから、デビューをした貴族なら通常、誰もが出席する。そう、通常ならば。
けれども私は追放された身の上だから、出席も何も学園を追い出されてから1度も招待状は届いていなかった。それが当たり前のことだったし、寧ろ今更ながら届いたことの方が不思議だ。
「………ですが、お嬢様。此度のパーティは、王族からの招待。無下に断ることなど出来ないでしょう」
そう言ったセバスも、何処か不審そうにその招待状を見ているような気がする。
「そうね。……腹を括りますか」
「領のことはご心配なく。丁度ディーンがいますし、何かございましたらすぐに早馬を出しますから」
「ええ。セバス、宜しく頼むわね」
それから数日後、久しぶりに領から出て王都の別邸に向かう。約3年ぶりの王都、久しぶり過ぎて最早感慨深い。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
使用人総出で私の出迎えをしてくれた。その筆頭にいるのは、ここの侍女頭であるリーメ。
「久しぶりね、リーメ」
「はい。再びお嬢様にお会いできたこと、これに勝る喜びはございません」
「大袈裟なんだから」
そうして使用人達が並ぶ間を歩き、奥へと目指す。
「……久しぶりだな」
「お帰りなさい、アイリスちゃん」
奥には、両親と弟が立って待っていた。
「お久しぶりです。お父様、お母様、ベルン」
「息災のようで何より。ゆるりと、過ごすが良い」
普段は厳しいお父様が柔らかな表情を浮かべてくださった。それだけで、少し嬉しくなる。
「ええ、そうさせていただきますわ」
「何でも、また新商品があるんですって?セイに聞いたわ。楽しみにしているわよ」
「まだ商品化はできていません。ですが、今回は試作をパーティで使おうと思いますので、楽しみにしていてください」
「まあぁぁ。後で私にコッソリと見せることは?ダメ?」
「明日の楽しみにしてください」
私がそう言うと、少し残念そうにしつつも納得してくださった。
「姉様…本当に、明日のパーティに出られるのですか?」
「仕方ないでしょう。王族からの招待なんだもの」
「……ですが、エド様もユーリ様も出席されるのですよ」
ベルンの言葉に驚いて、ついつい変な間を開けてしまった。
「……ビックリだわ」
「何がですか」
「貴方が私の心配をしてくれるなんて」
私の感想に、ベルンの表情は少し暗くなる。
「それは…僕が確かに貴方のことを考えるなんて今更と思うかも知れませんが……」
「いいえ。ありがとう」
それから、私は部屋でのんびりする。最後にここに居た時は、お父様との交渉前でとても緊張していたし、会った後は会った後で色々準備で忙しかったから、あんまりこの部屋の記憶ってないのよね。だから、余計懐かしく感じる。
そんな風に寛いでいると、部屋にリーメが来た。
「……お嬢様、旦那様がお呼びです」
「まあ、お父様が…。すぐ行きます」
部屋に行くと、お父様は書類に囲まれた椅子に座っていた。……何だか、自分の姿にかぶって見えるわ。
「…来たか」
「ええ。失礼致します」
「……どうやら、領地では上手くやっているようだな」
「まあまあですわ」
「謙遜するな。…まあ、それは良い。それより、今回の事は本当に済まなかった」
「今回の事とは、パーティのことですか?」
「ああ。私もメリーも探りを入れてみたのだが…王家及び公式行事を管理する部内からは王族からの招待だからの一点張りだった」
「私なんかを出席させてどうするつもりなんでしょうね?何もメリットはないかと思いますが」
「寧ろ、お前にとっては辛いことだ。一度社交界を追放された者に、貴族は厳しい」
「まあ、それは覚悟を決めましたわ。逃げることができない以上、どうしようもないことですもの」
「救いは当日、王が不在による混乱があるかもしれないということだな」
「建国記念パーティに、王が出席されない?何かあったのですか?」
だって、国をあげてのパーティですよ?王が出ないなんてこと、余程のことがない限りあり得ない。
「…半年前より、王が倒れたのだ」
「まさか……」
あまりの重い事に、私は思わず溜息を吐いてしまった。このタイミングで、まさかの王が不在。どう考えたって、国の混乱はこの先激化する。
「倒れられた時点では、それほど重病と呼ぶほどではなかった。だが今現在では、徐々に悪化していることは傍目から見てすぐ分かるほどだ。恐らく、明日のパーティが引き金となって国中に伝わるだろう」
まあ、そうでしょうね。王がいなかったら誰だって不審に思う筈だもの。そして、それはあっという間に広がるでしょう。
「ならば、一公爵令嬢なんかよりもずっと其方の方が話題になりますね。明日を凌げば、私の存在は皆にとって記憶の彼方に飛ぶでしょう。私は、さっさと領地に戻ってこれまでの生活に戻りますわ」
「ああ、そうだな…」
「お父様、これまで以上にパーティ以降は激務となるでしょうが、お身体をご自愛ください」
「お前もな。聞いたぞ?一度倒れたらしいではないか」
「1日だけですわ。あれ以降、肩の力を抜くことも覚えましたもの」
「そうか。仕事は身体が資本。…お前も、あまり無理はしないように」
「はい。ありがとうございます」
…翌日は見事な快晴だった為、いつもの日課のヨガを庭で行ってみた。ターニャは、麻のTシャツとスパッツというこの格好で行うことには諦めたみたいだけど、流石にまさか外でやるとは思わなかったのか、私を見つけ出した時は随分慌ててた。
…ごめんなさいね、ターニャ。でも、王都にしては温かくて見事な快晴だったから思わずやっちゃったの。
ターニャと同じタイミングで私を見つけたお母様は、ヨガに興味をお持ちになられたので、明日の朝教えることをお約束した。
今日はパーティがあるから、そろそろ支度を開始させないと。
シャワーを浴びて、支度を開始。ターニャに手伝って貰って服を着るのと、彼女にメイクと髪の毛を結んで貰うのを行った。
因みに…今回の試作品とは、このドレス。これは、発見された絹で仕立ててもらったものだ。流石、絹…素晴らしい光沢だわ。ターニャもうっとりとこのドレスをさっき見てたし。
…さて、支度はバッチリ。気合いも十分。いざ、戦場に行きますか。




