決意
本日四話目の投稿です
その日、私は王都にあるアルメリア公爵家の屋敷に戻った。
「……よくぞ、無事だったな」
そして今、やっと王宮より戻られたお父様にお会いすることができた。
お父様は以前の寝たきりの時より顔色が良いが、それでも未だ青白い。
体重も元に戻っていないようだった。
これで王宮で激務をこなされているのかと思うと、お母様の心配がよく分かる気がする。
「皆のおかげです」
「謙遜する必要はない。本当に……本当に、お前が無事で良かった」
お父様がそっと私を抱きしめてくれた。
その温かさに、心まで温まる心地がする。
「ありがとう、ございます……っ」
暫くその状態でいたけれども、やがてどちらからとでもなく離れた。
「ベルンから話は聞いている。……お前が、継ぐのだな?」
「お父様は反対されないのですか?」
「誰が反対できようか。お前の、今までの道のりを思えば。……そして、今の領地の姿を見れば」
お父様の言葉が、私の胸を締め付ける。……誇らしさと、喜ばしい気持ちで。
「左様、ですか」
「それに、ベルンもベルンで道は見つけているようだ。とやかく言う者もいない。……早速だが、アイリス。ベルンには既に言っているが、領主の地位に明日にでも就いて貰おう」
「えっと……その、随分と急な話ですね」
「ずっと考えていた。……以前と同じ仕事の量をこなすことが、身体的に難しくなったのでな。書類は準備を済ませているし、実務面でも何ら混乱することはないだろう」
「そんなにお加減が?」
「心配するほどではない。安静にしていれば、特に問題はないのだから」
私の心配を他所に、お父様は静かに……柔らかに微笑んでいた。
「そう、ですか……」
その笑みに、逆にお父様の体調がより心配になったのだけれども……それ以上聞くことができず、言葉を飲み込む。
「それで、どうだ? お前は、覚悟ができているか?」
「ええ。とうに、領民への責を負う覚悟はできております」
「そうか。……お前には、もうあれやこれやと言うつもりはない。ただ、一言。……辛くなったら、いつでも声に出せ。お前の周りには私も母もそして皆がいるのだから」
そしてその翌日、私は正式にアルメリア公爵領領主……つまりアルメリア公爵家当主となった。
全ての書類の形式は、既にお父様とベルンの手によって整っていて、私はサインをするだけで全てが完了した。
もっとこう……様々な式典とかがあるのかと思っていたけれども、戦後の後処理に追われている王宮にその余裕はない。
情緒も何もなく、形式的に淡々と全てが終わった。
……まあ、別に良いのだけれども。
そしてその翌日には、アルメリア公爵領に戻るべく馬車を走らせた。
「……お嬢様、お帰りになって宜しいのでしょうか?」
あまりの呆気なさに、流石のターニャも戸惑っているようだった。
「良いのよ。横の繋がりはより必要になったけれども、今の王都の状況じゃあ……ね。時間を浪費するだけになってしまうから、それならば領地に戻った方が良いわ」
「左様でございますか」
「ええ。これからまた忙しくなるわよ、ターニャ」
ニコリ、そう言って笑った。
馬車の窓から見える空と同じく、晴れ晴れとした思いだった。
開け放った窓から入ってくる風が、頰を撫でる。
たくさんのことが、あった。
長い荊の道を歩んで、たくさん泣いた。たくさん苦しんだ。
けれども、それと同じくらいたくさん……笑った。
たくさんの温かいモノを、貰った。
これからもたくさん傷ついては泣いて立ち止まり、たくさん苦しむことがあるだろう。
けれども、全部覚悟の上だ。
私はこの道の先を見てみたい。皆で笑う、明るい未来を。
だから私は、歩き続けよう。……皆と、共に。




