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対談

本日三話目の投稿です

「……お姉様、レティシア様が執務でお待ちくださいとのことでした」


「分かったわ。……貴方は、ユーリの話を聞かなくて良いの?」


「ユーリはレティシア様にのみ話すことを望んでいましたから」


「そう……では、案内をお願い」


そして私たちは来た道を戻る。


「お姉様。先ほどの……」


「ユーリとの話で謝罪をするつもりならば、必要ないわ。……既に、貴方からはいただいているもの」


「……そうですね」


「だからこそ、言わせてもらうわ。先ほどの領主の件、その謝罪の心からのモノだったら謹んで断らせていただくわ」


「それとこれとは話が別ですよ。私は純粋に、貴女がアルメリア公爵家領主に相応しいと思ったからこその申し出です。実は既に父にはそれを打診し、その旨を国に提出する書類も作ってあるんですよね」


そこまで話が進んでいるのかと、衝撃を受ける。


「なっ……!」


「正直に申しますと、貴女とアカシア王国の婚約が破談になって、良かったとすら思っています。国政に携わる者として、貴女ほど有能な方が国外に出ていってしまうのは、損失でしかありませんから」


「……買いかぶりよ」


「いいえ。それならば、お姉様は何故頑なに領主となることを否定されているのでしょうか?長子であり、実績もある。貴女が女性だからでしょうか? ……ですが女性ということが、領主となることに何の障害となるのでしょうか」


図星、だった。

私は女の身であるからこそ、身を引かなければならないと思っていた。

……そう、思い込んでいた。

けれども、それを疑問として突きつけれられると、言葉に詰まった。

女の身だから、領主の座から身を引かなければならない?

それは一体何故だろうか、と。

考えれば考えるほど、その理由が思い当たらない。

ただ、『そうあるべきだから』という言葉で、考えることすらしていなかった。


「もしもお姉様にとって領主の座は重く、自由になりたいと仰られるのであれば引き留めることはできませんが……」


「あら、矛盾しているのではなくて?」


「既にお姉様は重責に耐えられ、その責務を全うしています。これ以上を無理強いするのは……弟として、家族としてできないかと」


「……そう」


一回深呼吸をした。そして私は自らの心に問いかける。

果たして、私はどのような未来を選び取りたいのだろうかと。

今、私の前には二つの道がある。

領主の道と、そうではない道。そうではない道の先には、無数の道に枝分かれしていた。


「……最後にもう一度聞くけれども、貴方は私がどちらを選んでも良いのね?」


「はい。二言はありません」


「そう。……ならば、ベルン。遠慮なく、私は領主の地位をいただくわ」


私の言葉に、ベルンは笑った。


「そうですか。それは、良かったです」


ちょうどそのタイミングで、執務室に到着した。

私とベルンそしてターニャは主人がいないその部屋に入る。


「では、こちらでお待ちください。私は、少し所用がございますので。城の使用人に何か持って来させますので、ターニャもこちらで待機していてください」


「分かったわ。ありがとう」


ベルンが去った後、私は指定された席に深く腰をかける。


「……お嬢様。良かったのですか?」


そう、ターニャが心配げに問いかけてきた。


「何が?」


「領主の地位について」


「ええ。後悔しないわ。皆と走り続けることができるとなって、むしろ嬉しいと思っているぐらい」


「左様でございますか」


私の答えに、ターニャは安心したように微笑んだ。


「ふふふ、これからもよろしくね」


「こちらこそ、末長くお願い致します。我が身が朽ち果てるまで、この身をお嬢様に捧げます」


「まあ……朽ち果てられてしまったら、私が困ってしまうわ」


私たちはそう言って、互いに笑い合った。

その時扉からノック音がして、部屋に王城の使用人が入ってきた。

彼女は手際良くお茶を淹れると、再び去って行く。

正直ターニャが淹れてくれたお茶の方が好きなのだけれども……好みの問題か。

それから暫く、私は無言でお茶を楽しんだ。

今日一日だけでも、たくさんのことがあった。

それらを自分の中に消化するように、お茶を飲む。


「失礼致します。お待たせいたしましたわ、アイリス様」


「レティシア様……!いいえ、私の方こそ、ゆっくりさせていただき、ありがとうございます」


「ゆっくりできたのでしたら、良かったですわ」


レティシア様が私の前に座る。


「貴女様のおかげで、ユーリが供述をしてくださいました。これで有耶無耶であった貴族たちの弾劾もすることができますわ。……ありがとうございます」


「いいえ。お役に立てたのでしたら、良かったです」


「役に立てただなんて……貴女様は常に最良の結果を齎してくださいますわ。アカシア王国との交渉についても、そう。本当に、私は感謝の念に堪えませんわ」


「光栄の極みです」


「……アイリス様。貴女様は、領主になられるのですか?」


「ええ。ベルンから話を聞いて……?」


「はいであり、いいえですわ。以前別の話したときに、少しその話を聞きまして。……その様子ですと、今日ベルンから打診があったようですね」


「はい」


「……どうされるのですか?」


「私が、領主の地位を継ぎます」


レティシア様が楽しげに、目を細めた。


「左様でございますか。実はですね、ここだけの話……王位は私が継ぐことになりましたの」


それもそうだろう……なにせディーンもエド様もいない今、王家の直系は彼女しかいないのだから。


「祖母の頃とは違いましてよ。次世代に繋ぐのためではなく、真実私が全ての実権を握りましたの」


「まあ……!それは……」


素直に驚く。

それを成し遂げる力があることは薄々気づいていたけれども……実際にそうしてしまえるなんて。

彼女のお祖母様……アイーリャ様は確かに女王としてこの国のトップに君臨していた。婿を血の繋がりのある者から迎え、共同統治という形で。

……それは、次代に血筋を伝えるための繋ぎという意味合いが強かった。


けれども彼女の王位はそれとは違うのだという。

歴史上初めての、本当の意味での女性の王。

そうなるまでには既存の考えが立ちはだかり、それらを打ち壊し取りまとめ……きっと、並大抵の道のりではなかっただろう。


「覚悟は決めましたの。そして既に、私はその道を歩んでいますわ。……アイリス様、末長くよろしくお願い致しますわ」


「こちらこそ、よろしくお願い致します」


「差し当たってはアイリス様。アカシア王国の件のお礼と申しますか……褒美としまして、貴女様と貴女様の領には特区としてある程度裁量を与えようと思いますの」


「……それは、どういう意味でしょうか?」


「兄の頃から、この国は中央集権化させてきたことはご存知でいらっしゃいますよね?」


「ええ。それは勿論」


「平たく言えば、貴女様とアルメリア公爵領は例外といたしますわ。そのまま自由に領政で辣腕を振るってくださいませ」


その意味を噛み砕き理解したとき……この場で気軽に彼女が話しているそれが酷く大ごとだということに気がついて、一瞬息を飲んだ。


「……よろしいのですか?」


私の言葉に、レティシア様はクスクスと笑う。


「貴女様も同じ質問をされるのですね。……良いも悪いも、それが国にとって最善のことと思ったまでですわ。他の貴族にも通達致しましたが、文句は出ませんでしたわ。……当然ですわよね。我が身可愛さにエルリアに言われるがままにアルメリア公爵家の妨害をし、あの兄によって理不尽な徴収が行われた時には、それを知っていて見ないふりをするどころか更なる徴収を求め、此度の危機に陥った時には助けることもできなかったのですから」


同意も何もできず、私は曖昧に頷くことしかできなかった。

けれども、もう既に他の貴族に打診し了承を得た上の話……か。

早い動きだ。

それほど我が領地をかってくれているのであれば是非もない……せっかくの申し入れなのだから受け取ろう。


「ありがとうございますわ、レティシア様。私は今後も領地のために力を尽くしましょう。それが巡り巡って王国の力になれれば、それに勝る喜びはございません」


「そう言っていただけて良かったですわ」


……そうして、和やかな雰囲気のまま私とレティシア様の会談は終わった。


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