王都
そして翌日、私はターニャやライルそれから幾人かの警備隊を連れて王都に向かった。
特に何ら問題もなく王都に到着すると、一旦屋敷に寄って王宮に向かった。
お父様かもしくはベルンがいれば話を聞いてから王宮に向かおうかと思ったけれども、二人とも王宮に詰めているらしい。
恐らく戦争の後処理が多く残っているだろうから、それも仕方ないこととは思うが。
……お父様は未だ全快されていないとお母様から聞いているので、体調が心配。
そんなことを考えつつ王宮に行けば、やはり王宮は静寂ながら荘厳な雰囲気を漂わせているいつもとは違って、喧騒に包まれていた。
「……お待ちしておりました、お姉様」
入り口で待機していたのは、ベルンだった。
「あら……私なんかの出迎えに、ベルンがわざわざ待っていてくれたなんて」
「今回の件はそれほど重要ということです。……それに、お姉様を『なんか』と思うことができる者はこの国にはおりませんよ」
「まあ……お上手ね」
それからベルンの先導で私とターニャは進む。
「……アルメリア公爵家より、報せは入っております。流石ですね、お姉様」
「ありがとう」
「……後ほどゆっくり話し合いたいと思いますが、あえて先にお聞きします。カァディル様との婚姻をお断りになられたんですよね?」
「ええ、そうよ。……でも、安心してちょうだい。貴方がアルメリア公爵家を継ぐ頃には、私はちゃんと家を出るから」
努めて明るい声でいったそれに、けれども何故かベルンが苦笑いを浮かべている。
「そのことを話したいと思ったのですが……お姉様、お姉様がアルメリア公爵家を継ぎませんか?」
「……は?」
ベルンの提案に、思わず足を止めてしまった。
「どういうことかしら?だって、アルメリア公爵家には正当な後継たる貴方がいるじゃない」
「何を以って正当と言えるのでしょうか。貴女が長子であり、積み上げてきた実績は誰がどう見ても貴女こそが領主として相応しいものだと思っていますが?」
「でも……」
「私もアルメリア公爵家の一員として、貴女にアルメリア公爵家の次期当主になっていただきたいと思っています」
「……貴方はどうするつもりなの?」
「私はこのまま国政に携われればそれで良いのです。王都のどこかに家でも買って、暮らそうかと。……まあ、それは追い追い考えます。ひとまず、この話はここまでで。到着しましたよ」
ベルンの言った通り、確かに一際豪奢な扉の前に到着していた。
正直ベルンに言われたことで頭がいっぱいいっぱいで、レティシア様と話す心の余裕はないのだけれども。
「失礼致します、レティシア様」
ベルンはノックをして、扉を開けてしまった。
仕方なく、私は頭を切り替えて彼女の前に立つ。
「久しぶりですね、アイリス様」
「お久しぶりでございます、レティシア様。先日はそうとは知らず、失礼致しました」
私たちの会話に、ベルンが首を傾げた。
「……会話の途中、失礼致します。お二人は、会ったことがあるのですか?」
「ええ。昔、お忍びで市井に行った時に」
レティシア様の言葉に、私は苦笑いを浮かべる。
そういえば、ディーンとして働いていたときのことをベルンは知らなかったっけ。
「……それはともかく、本日はお疲れのところご足労いただきまして誠にありがとうございました。さて、アイリス様。早速ではございますが、彼女を捕らえている塔まで共に行っていただいても良いでしょうか」
「ええ、勿論でございます」
私とレティシア様そしてベルンとターニャが共に塔へと歩き始めた。
道を進めば進むほど、人通りが少なくなっていく。
そして暫く歩いたところで、目的地に到着した。




