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反省

本日八話目の投稿です

「……終わりましたわね」


彼が第一王子を引き連れるのを見送り、また捕虜たちの受け渡しを完了すると、私は息を吐いてソファーに座り込んだ。


「ええ、お疲れ様。アイリスちゃん。アイリスちゃんは、いつもあんな風に色んな人たちと話し合いをしているのねー。……頑張っているのね!」


ほのぼのとした言葉に、思わず苦笑いを浮かべる。

今回上手くいったのは、ライルとお母様のおかげだ。

二人が第一王子をしっかりと生きたまま捕まえておいてくれたから。

……カァディル様にとって、第一王子が生きていること……生きて私のもとにいるということ、それそのものが厄介なのだ。


やっと、掴んだ王位。

けれども、第一王子が生きて私のもとにいるとなったら話が変わる。

第三王子であったカァディル様が王位につくことを良く思わない者も多いのだ。


不当な王位継承ということで、タスメリア王国が第一王子への援軍を送るというという大義名分を掲げて侵略を行うことができるし、その報が国内に流れるだけで、盤石ではない彼の地盤は大いに揺らぐだろう。

……まあ、タスメリア王国が侵略行為を行うのは人員・物資の側面を考えると無理なことだから、警戒するのは後者だろうが。


そんな訳で、なんとしても彼は私から第一王子を奪いたいと思うだろう……と算段していたが、その通りになった。


国に帰った後の第一王子がどうなるか……まあ、生きていられるかも不明だけれども、私にとって彼は私の大切な領民たちの命を脅かした憎っくき敵。

同情も何もない。


「それにしてもお母様は冷静でしたわね。一度もその笑みを曇らせることがなかったのですもの……流石ですね」


「あら……そうかしら? まあ、話し合いはアイリスちゃんが必ず何とかしてくれると思っていたし……仮にあの場であの老人がどう動こうとも、私がどうにかできるしね」


お母様の言葉に、思わず乾いた笑みが浮かんだ。

肝が座っているというか何というか……ある意味お母様らしい、か。


「不可侵条約に通商条約。かの大国とそれらが結べたことは、この国にとってこれ以上ないほどの利益だわ。それに加えて、アルメリア公爵領へは輸出制限の解除と関税の引き下げ。……成果をみると、大勝利ね今回は」


「……戦争になった時点で、私個人は負けですわ。そもそも争いさえなければ、被害者が出ることはなかったのですから。争いを起こさせないように最大限努力する……それを達成することはできませんでしたわ。この反省を活かさなければ、領民たちに顔向けができません」


「自分に厳しいわね、アイリスちゃんは」


「そんなことありませんわ。人の上に立つ身として、多くの責任を背負っているのですから……当たり前のことです。失敗してしまいました、ごめんなさいで許されることではないのですから」


「……そうね。そんなアイリスちゃんだからこそ、民も皆もついていくのね」


お母様の言葉に、私は自然と笑みが浮かんだ。

ターニャが淹れてくれたハーブティーを二人で飲みつつ、息を吐く。

緊張しっぱなしで、会談中は内心冷や汗がずっと流れていたせいで、本当に体の隅々までハーブティーが染み渡る心地がした。


「あと一週間滞在させて、何もないようだったらアンダーソン侯爵家の護衛兵たちは帰還させるわね」


「ええ、それが良いでしょう。気持ちばかりですが御礼をお渡しさせていただきますわ。それから、彼らの帰還の前に豪勢なものではありませんがパーティーを開かせていただきます」


「良いわね。きっと皆、喜ぶわ。アルメリア侯爵領の食事は本当に美味しいって、彼ら、とっても喜んでいたもの」


「それは良かったです。パーティーのときもメリダに腕によりをかけて作らせましょう」


「まあ……それは私も楽しみだわ」


ホクホクと笑うお母様に、やっと日常に返ってこれたのだという気がして、益々今飲んでいる物が美味しく感じられた。

こうして心が落ち着いた状態で飲み物を楽しむなんて、いつぶりのことか。


「お嬢様、レティシア第一王女様より手紙が届いております」


そんな中、セバスから恭しく手紙を渡された。

どんな用件か全く想像ができず、胡乱げにそれを受け取ると恐る恐る開けた。

端から端まで、丁寧に読む。


「……どう? アイリスちゃん」


お母様の問いかけのタイミングでちょうど読み終わったので、手紙を畳みつつ答えるべく口を開いた。


「一度王都に来てユーリ様と会って欲しいとのことでした」


「まあ……それは、どういうことかしら?」


私の言葉に、お母様は首を傾げる。

私もまた、内心同じ反応だった。


「どうやら、ユーリ様が頑なに口を閉ざしているようなのですが……つい最近、私と会えば話すと言ったらしくて。一体、何故私なのでしょうか?」


「さあね……あの子の考えていることは、よく分からないからね」


お母様の言葉に、思わず苦笑する。


「そうですよね」


「……お嬢様、王都に行かれるのですか?」


「そうね。今回の会談が終わったし、通常業務も特に問題ないし。何故私と話したいのか、気になるしね。なるべく早くとのことなので、明日にでも発ちます」


「まあ……」


「アンダーソン侯爵家護衛兵の皆様には申し訳ございませんが……」


「良いのよう。アルメリア公爵家の者として、私が見送りますから」


……その方が、彼らにとっては嬉しいかもしれないとチラリ思った。

彼らにはお礼を伝えたいと一度お母様と共に会ったのだけれども……彼らのお母様に向ける視線は尊敬を通り越して信仰に近いようなそれだと感じて、少しだけ顔が引き攣ったのは今となっては良い思い出だ。


あれだけの深い強い忠誠をお母様に対して抱いているのだから、お母様に見送られた方が喜ぶだろう。

むしろ残りたいと言い出さない方が不思議だ。


「お母様、よろしくお願い致します。……ターニャ、準備をお願い」


私の言葉に、お母様とターニャが首を縦に振る。


「ええ、分かったわ」


「畏まりました」


それぞれ、そう言いながら。


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