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戦場 弐

本日六話目の投稿です

彼からのそのプレッシャーに、内心私は冷や汗をかいている。


「貴国を襲った者を、貴女様は保護されていると?」


「最初は勿論捕虜として捕らえておりましたわ。我が領地を襲った者ですもの。……ですが、貴方が王となった時にそれをお伝えしましてね……暫くは大変でございましたが、ご自身の立ち位置をご理解されたのか心よりの謝罪と私どもを全面的に頼ってくださっていますの」


「貴女の求心力には恐るばかりだな」


「いえいえ。……先ほど貴方様はアカシア王国の王と仰いましたが……何を以って王となられたのでしょうか?王位継承者はまだいらっしゃるというのに」


その言葉に、初めてカァディル様は顔色を変えた。


「……それ以上は止めた方が良い。内政干渉として、国を動かすことも躊躇わないぞ」


「まあ……」


私は笑みを深めた。

やっと彼が反応らしい反応も見せ、ついつい楽しくなってしまったようだ。


「貴方様こそ恐ろしいですわね。……そうやって、すぐに力に訴えるのですか。先ほどの言葉も……」


あえて言葉を途中で止める。

けれども、相手にはそれで伝わったようだ。


『先ほどの言葉……我が領地を襲ったのは、私の意思ではない、それも信用できない』というそれを。


けれども、私は直接的には口に出していない。だからこれ以上の追及はないだろう。


「私は単に疑問を述べたまでですわ。……ですが、そうですわね。私は正直、貴国のトップがどちらであろうともどうでも良いのですわ。貴方様がトップであろうとも、私に恩義を感じている第一王子がトップであろうとも。海を隔てた国がどうなろうとも正直どうでも良い。貴方が軍を動かす前に、動けない状況を作り出すことが今の私にはできましてよ?その準備はとうにしていますから」


後ろの初老の男が若干動いた。

その動作に、無表情ながらターニャの顔が強張っていた。

横にいるお母様は相変わらず、美しい笑顔を浮かべたままだったけれども。

ジッと次にどのようなことを言い出すのか彼を伺い見れば、彼は突然大きな声で笑いだした。


「……いや、やはり恐ろしいな」


そして、手を動かして初老の男性の動きを止めた。


「逆に言えば、貴女は私が王で良いのであろう? ……それで、何が望みだ?」


「……提示いただいた金額の一・五倍の賠償金。この国、タスメリア王国との不可侵条約と通商条約」


「金額については了承しよう。……よく調べているな」


今回アルメリア公爵領に襲って来たものたちを調べさせれば、彼らの家は我が国でいう第二王子派にいた貴族の家の出の者たちと似ていた。……その行き着く先も。


つまり有り体に言えば、良いとこの出であったものの今回の騒動によって今まで仕出かしたおいたが暴かれ、それによって資財が没収されたという訳だ。


その資財を元手に、彼はこちらへの賠償金を支払おうとしていたようだが……もちろん没収した資財の満額ではない。四割ほどだ。


一・五倍というのは、ターニャの部下たちに調べて貰ったアカシア王国の懐事情から、仮に私が彼の立場だったら許容できる額だ。

彼の反応を見るに、その予測は正解だったのだろう。


「それから、国の不可侵条約と通商条約か……失礼ながら、一領主の貴女にそれを取り決める権限があると?」


「正確には領主代行ですわ」


「……失礼。それで?貴女にその権限が?」


「あれば、すぐにサインしてくれると?」


「……そうだな。私としても争いは望むべきところではない。内容次第ではサインしても良いだろう」


「では、確認をよろしくお願い致しますわ」


私がそう言うと同時に、ターニャが三枚の親書を出す。

一枚は、ディーン及びレティシア様の連名でのサインが入った、まごうことなきこの国の親書。私にアカシア王国との話し合いで全権を任せるといったそれ。

そして二枚目と三枚目は、こちらで作成した不可侵条約及び通商条約について記載されている書面だ。


「……驚いた。まさか、国の書面まで確保しておくとはな」


くぐもった声で、彼は笑う。あまり動揺は見られなかった。


「ええ。カァディル様との交渉ですもの……失礼があってはなりませんからね」


「ハハハ……やられたな。だが、先ほどの言葉は本心だ。今この場で条項を確認し、問題なければサインをしてやろうとも」


彼はすぐさまその親書を端から端まで読み、問題なかったのかサインを入れてくれた。


「……早いですわね」


「妥当だからな。……変な内容が入っていれば、即言っていたさ。よく、勉強している」


「ありがとうございます」


私もまた、彼がサインした両方の書類にサインする。

そして私とカァディル様両方のサインが入ったそれらの書類のうち一枚をカァディル様に渡し、一枚はこちらの保管用としてターニャに渡した。


「さて、ではジャラールを渡して貰おうか」


「あら……まだ私の望みは全て言っておりませんわ」


その言葉に、カァディル様は一瞬ポカンと呆けて……それから息を吐いた。


「随分と抜け目のないことだ。それで? 全て言ってみろ」


「後一つですわ。……最後に我が領地との間で貴国の関税を五%下げていただきたいですの。品目は、そちらに」


「これはこれは……また、随分と吹っ掛けるものだな」


「そうでしょうか? 貴国が同意してくださるのなら、こちら側は以下の品目の関税を下げますわ」


カァディル様は口を閉ざし、目を瞑る。

一瞬の沈黙が訪れた。

彼の思考を邪魔しないようにと、この場にいる誰も口を開かなかった。


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