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脅威

本日四話目の投稿です

アルメリア公爵家が無事アカシア王国軍を撃退したという報は瞬く間に広がり、王都にも届いていた。


「……ひとまず安心ですわね。ねえ、ベルン?」


「ええ、本当に。ですが、後続が来る可能性がある内は予断を許さないかと」


「そうですわね。トワイル国との戦線に決着がつかない以上、国としては軍を動かすことも、物資の支給も厳しいですもの。仮に後続が来た場合、アルメリア公爵家でどこまで耐えることができることか……。それを前提に考えなければならないほどの我が国の窮状が、嘆かわしいですわね」


ふう、とレティシア様は重い溜息を吐く。


「……やはり、厳しいですか」


「ええ。何より物資の方が深刻ですわね。お兄様が調達した物資を各地に分配することで、何とか窮状を脱することはできましたけれども、余剰分はほぼほぼない状態ですもの。戦争には莫大なお金が必要であり、かつ、物資の消費が激しい。人員は何とかすることができても、現状二方面に軍を展開するには物資と資金が追いつかないですわね」


私もまた、重い溜息を吐いていた。

……私はアルメリア公爵家の一員ではあるが、同時に国政の一翼を担う者。


自身の家が窮地に落とされているからといって戻ることは許されない身の上であるし、かといって王都でその職務故にアルメリア公爵家を第一に動くことも叶わない。

他の家に示しがつかないからだ。

だからこそ、今この時も、何とか正攻法でどうにか国を動かすことができないかと思案しているが…… 現実は厳しい。


「逆に考えれば、アルメリア公爵家は凄いですわね。前回の災害の騒動であの兄からの徴収に応えた上、移住してきた方々の支援を行い、更に今回の件も乗り切ったのですもの」


「ええ。全く……姉と姉の周りの者たちには感服するばかりです」


「そうですわね……。アルメリア公爵家の皆様がどう思われているかというのは分かりませんが、国としては物資や人材の関係から早期解決が望ましい。何とか交渉によって落とし所を探りたいと思いますが」


「……姉も、早期解決を望んでいるとのことでした。何とかアカシア王国とのツテを活用し、交渉の席を準備したいとも」


「まああ……流石、アイリス様ですわね。ルディはどう思うかしら?」


「……そうですね。アカシア王国との交渉にどう持ち込むのか、それに誰がその席に着くのか、そして停戦に持ち込むのにどのような交渉をするのかということが気になります」


「前例から考えますと、外務や法務の者たちより選抜しチームを作って交渉に当たらせるというところですかね。交渉内容については……アカシア王国の内情を分かっていない今、それを調べるところから始める必要がありますが……」


「難しいですね。実際、あちらの国は災害の件もトワイル国との戦争を知っています。そこからある程度国の内情については理解している筈……足元を見てくる可能性は非常に高いかと」


「確かに……そうですね」


私たちの会話に割り込むように、レティシア様が口を開いた。


「二人に伝えておきますとね……私は、元よりこの件はアルメリア公爵家に一任してしまおうかと思っていましたの。勿論、正式な書簡を作る前に兄には相談と言いますか報告は致しますが」


「……まさか、国家間の取り決めですよ。それを、一公爵家が……。他家からの反発も大きいでしょう」


レティシア様の言葉に、私は驚愕の色を隠しきれない。


「交渉のテーブルに着かせるのに国の名前は大切ではないでしょうか?何より交渉の落とし所を探るのに、優秀な諜報員に実情を探らせる必要もあるかと」


ルディウスもまた、レティシア様の提案には反対のようだった。


「アイリス様ほど適した方はいらっしゃらないと思いましてよ? まず第一に、彼女はアカシア王国の王族と接触したことがあり、かつ婚姻すら申し込まれているのだもの。そのツテを使えば、交渉の席に着かせることはできると思うわ。第二に、アルメリア公爵家はアカシア王国との交易で莫大な利益を得ているのですもの。アカシア王国にとって、アルメリア公爵家は一国家に勝るとも劣らない対応をせざるをえないと推測できるわ。第三に、アイリス様は個人で有能な諜報員を抱えていると、マイロが言っていたわ。彼が言うからには、相当腕が立つはず。恐らくアイリス様の指示の下、既にアカシア王国の内情を調べさせているはずですわ。もしかしたら、この騒動が起きる前に既に婚姻を申し込まれたことによって調べ始めているかもしれませんわね。今更調べ始める私どもよりも、早急に会談の場につけるはずですわ。第四に……これが一番重要ですけれども、今更国が出てきてどうするのかしら?国は何の手立てもせず、アルメリア公爵家は自力で解決をしたようなものでしてよ? だというのに何の準備もなく現場の状況も知らぬこちらが介入したところで、現状を引っ掻き回すだけ……アルメリア公爵家及び民の反発があるのは想像に難くないわ。以上のことから、アルメリア公爵家に一任した方がより早期の解決を見込めると思うのですわ」


スラスラと答えるレティシア様の言葉に私は無言ながら、確かに……と賛成に傾きかける。


「だいたい他家の反発ですが……今更何を言えるのでしょうか? 強大な財力、有能な人材を有している上に、一国家の先遣隊とはいえ軍隊を退けるほどの軍力も有しているのよ」


そう言いつつ、レティシア様は溜息を吐く。


「ベルンもルディもアルメリア公爵家の血縁関係者ですけど……貴方たちを信頼して言いますとね、正直なところ、王族はアルメリア公爵家が強大な力を有していることを危惧していますのよ」


ピクリ、僅かに身体が反応した。


「元々、王太后様……お祖母様が統治していた頃よりアルメリア公爵家は貴族の中でも頭一つ飛び抜けた力を有していましたの。それを、王族は危惧していましたのよ。……けれども、同時にアルメリア公爵家は貴族の中でも最も貴族らしい家。貴族の責務を理解し、国に多大なる貢献をしてきましたわ。それ故に、今までアルメリア公爵家は放置されていたのですが……」


「……私相手にお答えしにくいかとは存じますが、お聞かせ願いますでしょうか。まさか、今後……アルメリア公爵家の力を削ぐために何らかの措置をしていくと?」


私のその問いに、レティシア様は苦笑を浮かべた。


「まさか。その逆でしてよ?アルメリア公爵家は強大になり過ぎた……だからこそ、王族は今後アルメリア公爵家に便宜を図らなければならないのですわ。この国から独立をせぬようにという意味で」


思わなかった回答に、私……そしてルディウスも少しばかり驚いたように目を見開いている。


「既にアルメリア公爵家には、あの兄やエルリアのとった政策のせいで散々苦労をかけていますわ。自分たちを守ることもせず、むしろ目の敵のように扱い、物資の徴収の際には無理難題を押し付けて……正直なところ、私がアイリス様であれば、害にしかならないこの国のことなど疾うに見限っていますわね。アルメリア公爵家は財力や社会の基盤、今後の将来性……国に勝るとも劣らない力を有していますの。国はアルメリア公爵家がなければ困り、アルメリア公爵家は国がなくとも別に困らない……そんな力関係なのですわよ?だというのに、未だそれを理解していない貴族が大勢いるのが問題ですわ」


「レティシア様……誓って、アルメリア公爵家は王国に反旗を翻そうなどとは思っておりません」


「ええ、ベルン。貴方やルイ殿の功績を私は知っておりますわ。貴方がたは真実、この国に全てを捧げるかのような働きを見せてくださっていますもの。ですから、アルメリア公爵家を真実疑っているわけではないのですわよ?……ただ、純粋な力関係がそうなのですわ」


私とルディウスも、何とも言えない表情を浮かべていた。


「無理に押さえつけ国に縛り付けて今の状態を壊してしまえば、国は確実かつ安定した税収入源を減らすことになりますし、領地を解体する、アルメリア公爵家の力を削ぐなど以ての外。そんなことをしてしまえば、あれほど団結しているアルメリア公爵領の民は一斉に蜂起するでしょう。諸刃の剣ということも理解していますが、アルメリア公爵家は他の領地……いいえ、王都と比べても進んだ法整備・税制度・生活基準ですわ。今後王都に全てを集中化するに当たりすぐにアルメリア公爵領のそれと同じ水準までレベルを上げることができるのであれば良いのだけれども、中々現実的に難しいですもの。下手に水準を下げられるよりも、特区としてある程度自由裁量を与えた方が、国として利益があると思っていますのよ」


最早、私たちから反論の声は上がらなかった。


「……さて、そろそろ到着するわね」


「……ところで今、我々は何故塔に向かっているのですか?」


ルディウスの問いにレティシア様はニコリと微笑む。


「この物語の一つの終着点を見るために。しっかりと勝者にとって都合の良いようになるか、仮に何かの手違いで覆りそうになっていたらその軌道修正をしなければならないのですの」


レティシア様の呟きに、ルディウスもベルンも首を傾げていた。


「ルディ。お兄様が貴方にここに残るように言ったのは、それだけ重要な案件だからでしてよ。覚悟はよろしいかしら?」


静かに微笑みを浮かべつつ問いかけるレティシア様。

けれども彼女からは底知れぬ気迫が漂っているような気がした。


レティシア様の言葉通り、本来であれば側近兼護衛のルディウスは殿下の出陣の際に当然ついていく筈だった。


けれども突然、殿下より王都での待機命令が出されたらしい。

どんなにルディウスが請願しようとも、それ押し退けられた。


『時が来れば、分かる。お前をこの上なく信用しているからこそ、お前に残ってもらいたい』という言葉と共に。


「元より覚悟は定まっています。この剣は決して飾りでつけているのではなく、覚悟と共に持っているのですから」


「そう。……ベルン、これから先目の前で起こることに、決して口を出さないようにしてくださいね?」


「……畏まりました」


レティシア様が先導するような形で、とある部屋に入った。

そこは壁一面に本棚が備え付けられているだけの、何の変哲もない部屋であった。


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