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本日四話目の投稿です

アルメリア公爵領東部。


普段は活気のある港町であるそこは、けれども今は張り詰めた空気が漂っている。

警備隊及び役場の強襲と、占拠。

そしてそのすぐ後に起こった、武装集団による港の占拠。

人通りが少なく、皆の表情から笑顔が消えていても不思議ではない状況だった。


「ディダさん! 第一隊の負傷率が三割を超えました」


その中で姫様の指示を受け取った俺は、最低限の人数を役場に張り付かせつつ、港町を占拠する武装集団と対峙していた。

その武装集団は、揃いの軍服……アカシア王国のそれを身に纏っていた。


姫様たちが危惧していたことが、現実として彼の目の前に広がっている。

……予測しつつも、『まさか』と認められなかったそれが、本当に悪い意味で現実となっていた。


一体何が起こるか先のことは本当に分からないもんだ……と、俺は張り詰めた空気の中、冷や汗をかきつつ内心そう呟く。


敵は日が昇ると同時に動き始め、街中に入らんと侵攻していた。

それを俺は警備隊と共に応戦し、押し留めているような状態だ。

東部は昔から発展してきた街なだけあり、細道が多く、複雑に入り組んでいたのが救いだった。

道がそのような状態なため、敵の人数が幾ら多くとも結局一度に進める人数は限られている。


俺たちは地形を利用して隊を展開し、守りに徹していた。

……とはいえ、ジリ貧なことに変わりはないが。


「ディダさん! 第一隊の負傷率が三割を超えました」


「一隊をそろそろ下がらせろ。代わりに第二隊が前に。交代は速やかに、敵に隙を見せるなよ」


口調こそ普段の軽口と変わりないけれども、けれ内心は不安と焦燥感が胸を占めている。

重傷者こそ未だ少ないものの、負傷率は時間が経てば経つほど高まっていた。


何より、全員の疲労度が高い。

戦いらしい戦いをしたことのない者が多く、緊張によって疲労感は更に大きなものになっていた。


このままではあと何日保つか……。


この防衛線を超えられてしまえば、領都まで行くことが容易くなる。

何せここから先、侵攻に耐えられるだけの設備も建物もない。

何より、民が蹂躙されれば……姫様が心を痛める。

そんなことを、許すことができるはずがない。


ガシガシと頭を掻きつつ周りを見回す。

少しでも、マイナス思考に陥って思考が袋小路の中にある今の状態から脱したい。


ふとその時、男たちの一団が目に映る。

彼らは、後方まで戻って来た負傷者を担いで医療区域に向かっていた。


「おい、あいつらは誰だ? 俺らのとこの隊じゃないだろう」


警備隊の隊服を着ていない。

普通の……街中のそこいらにいそうな格好をしていた。

そんな集団が戦場を走っているのだから、違和感がこの上ない。


「は……はあ。この地に住む者の有志の集団です」


「……何だと? おい、お前ら! 即刻退避しろ! 見ての通り、ここいらは危ないんだ。あんたらに何かあったら俺らの立つ瀬がねえ」


彼らに近づいて、そう叫んだ。

俺の叫びに住民たちは一瞬ビクリと身体を震わせる。

けれども、すぐに睨み返してきた。


「あんたらが命を張ってくれているっていうのに、ここに住んでいる俺らが何もしない訳にはいかねえだろう!」


「ここは、俺らの街だ! 戦うことはできねえが、せめて雑用ぐらいはさせてくれ!」


口々に男たちがそう叫ぶ。

その鬼気迫る様子に、一瞬俺は言葉を詰まらせちまった。


「ボーッと突っ立っていないで、負傷者を早く運んでください!その人は今すぐ処置が必要なので、あちらに!そっちの人はこちらに寝かせてください」


そんな時、後ろから女が走って来た。

彼女は男たちが運び込む負傷者を見て、運ぶ場所をそれぞれに指示していく。


「お、おい……ここは、女子どもの来るところじゃねえぞ」


その様を呆然と見守っていたけれども、我に返って彼女の手を捕まえて留める。


「何寝ぼけたこと言っているんですか、この猫の手も借りたいときに!」


彼女はキッと、俺を睨みつける。


「私は、領都で医療を学んでいます。私の知識は、絶対お役に立ちます。女子どもと、一概に言わないでください!」


彼女の気迫に、俺は呑まれた。

けれども段々と止まっていた思考が動き始めると、こんな状況の最中笑いがこみ上げてくる。

その間も、彼女はテキパキと指示を出し続けていた。


「そうだよなあ……男も女も関係ないよなあ」


そう、ボソリと呟く。


俺の頭の中には領都にいるであろう姫様、そしてターニャや幼馴染の面々が浮かんでいた。


そうだ、自分は知っていたはずだろう……?


彼女らは皆、それぞれ自分の道を見つけて邁進している。

決して平坦ではない道のりを耐え忍び、努力し、それに裏打ちされた彼女らの功績を思うと、『男だから』『女だから』ということで判断するのが馬鹿馬鹿しい。


そう、思っていたじゃないか……。


今尚、俺を支援しようと何とか知恵を振り絞っていることだろう。

……本当は、姫様には早々に王都へと避難して貰いたいところなのだが。


「おい、あんた! ……悪かったよ。こいつら、よろしく頼むな。だが、危ないと思ったらちゃんと逃げてくれよ」


俺の言葉に、彼女は一瞬不敵な笑みを浮かべた。


「あんた、お嬢様みたいだな」


その笑みは、姫様と重なる。


「……本当ですか! 私、アイリス様のようになりたいんです!」


小声の呟きであったけらども聞こえていたらしい彼女は、ぱあっと瞳を輝かせた。


「アイリス様がいらっしゃったからこそ、私は医療を学ぶことができました。だからこそ、今ここでお役に立つことができるのです。私は私にチャンスを下さったアイリス様を心から敬愛し、自ら先頭に立ってこの地を良くしようと動かれるあの方を敬愛しているのです。私もあの方のように、社会で活躍したいとそう思っています」


柔らかな笑みを彼女は浮かべつつそう言った。

その瞳からも雰囲気からも……否、全身から彼女のその感情が溢れているようだった。


「すいません、余計な話を致しました。私はこれで失礼いたします」


けれども次の瞬間には、再び真剣な表情を浮かべると医療区域を駆け出した。

その目を見て、思わず笑っちまった。

……本当に、よく似ているな……と。


「うっし……!」


パチン、と力一杯自分の頰を叩いた。


「こまめに一列目を交代させろ! それから、あんたらにちょっと協力して貰いたいんだけどよ」


警備隊に指示を出しつつ、有志の面々の方を向いて声をかける。


「な……なんだよ」


「いや、手先の器用な奴何人かで、こういうのを作ってもらいたいんだ」


ガリガリと、地面に大きく簡単な図を描く。

彼らは俺が書いたそれを見て、一様に怪訝そうな表情を浮かべた。


「いや、できると思うけれどもよお……これ、使えんのか?」


「使える使える。あったら、とっても便利だ」


「そ、そうか……。おい、お前らは材木を調達しろ! お前ら、工具を取って来い!お前らはその辺りから片っ端から石を集めろ!」


それ以上問いかけられることはなく、彼らは即座に俺の指示通りに動き始めてくれた。


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まさか投石機とかバリスタ辺りなんて代物?
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