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申し訳ございません。アカシア王国の王子の名をマーシドからカァディルに変えています。過去の投稿分についても修正しています。その他誤字脱字は少しずつ修正していますので、今後ともよろしくお願い致します。

「……爺。喜べ。戦争が始まったようだぞ」


「おや、トワイル国がついに動き出しましたか。今か今かと思っておりましたが、随分遅いものですねえ」


爺は好々爺然とした表情を浮かべつつ、毒を吐く。


「トワイル国も一枚岩ではないということだ。先の敗北の雪辱を果たし、侵略を以って豊かさを手に入れると妄執している奴らもいれば、戦費を積み上げるよりも自国をより豊かにする施策を取ることを優先する勢力もあるようだ。どちらも目指す目的は同じで、今を犠牲にするというのには変わりがない。犠牲にするものが違うというだけだな」


「ははあ……戦を始めるというのに意識の統制ができていないとは、いやはや随分と余裕ですな」


「違いない。まあ、俺にとってはトワイル国が動くこと、ただそれだけが重要なのだ。あと二、三日以内に父上もこの情報を手に入れるだろう。そうすれば、必ず勤勉な兄上と将軍一派を動かすはず」


爺……ハフィーズが差し出した杯を手に取る。ハフィーズ・ベント・マーシド。以前アルメリア公爵家で俺が名乗った名前は、実は爺の名前だったりする。


「ようやく害悪にしかならぬ邪魔者たちが消えるかと思うと、清々するよ」


「しかし、カァディル様。この爺にはとんと読めませぬが……彼らはそう上手く動きますでしょうか。何せ、彼らが前線に出ようとする光景が全く想像できないですぞ」


「全員志願するだろう。餌は、アルメリア公爵領だ。随分前から、噂を流していた。……父上は、アルメリア公爵領に執心している、アルメリア公爵領を陥落させた者には莫大な褒美を与えられるとな。事実父上は新たな領土を常に欲しているし、アルメリア公爵領の産出物は偉くお気に入りだ。真実味がある情報だろう?」


「確かにそうですな」


「それに、アルメリア公爵領についての情報を、皆が把握している。……豊かな土地を求めるのは、欲深い奴らの共通点だな」


「……その情報を出回らせたのは一体誰でしょうかねえ」


爺の白々しい疑問に、俺は無言で笑う。

元々確信していたようだが、俺のその反応に爺もまた笑った。


「確かに、あの豊かな土地を陥落させてしまえば、もしかしたら自分のところに、公爵領の監督権を与えられるかもしれない……とでも妄想しているかもしれませぬな」


「そういうことだ。まあ、奴らではそれでも落とせんだろうよ。だが、それで良い。奴らがいない間は、私にとって絶好の機会だ。父上を排し王位に就くのには、な」


「……カァディル様、お気をつけくださいませ。この場には爺しかおりませんことを確認してありますが、王宮内にはどこに目と耳が隠れていてもおかしくないもの。注意してし過ぎることはないかと」


「尤もなことだ。だが、爺が確認したのであれば、間違いなかろう」


その言葉に、爺はニコリと柔らかな笑みを浮かべた。


「欲深な父上。父上に追随することしか頭にない兄上。やたらめったら己が武を誇示し、国の上層部に幅を利かせている欲深い将軍。欲・欲・欲だらけだ。国のあちらこちらから狼煙が上がるのも道理であろう。我が国は決してトワイル国もタスメリア王国も笑えぬな」


アカシア王国は広大な国土を誇り、自然豊かな土地には数多の資源をも有している。

タスメリア王国と異なり、その領土を更に各領主が治めるのではなく直接王族が治めるような政治体制となっていた。


つまり、王の権限がタスメリア王国のそれと比べて断然強いという訳だ。

賢王がたてばその恩恵は計り知れないが、逆に愚王が王冠を抱いたそのときには悲惨なことになる。


「父上も、かつては民を思う王であったのだろう。記録に残る施策を見れば、それを伺い知ることができる。だが、時と共にやがて重圧に押し潰されたのか……今や耳当たりの良い言葉しか受け付けなくなった。だからこそ、この国は様々なところから狼煙が上がっているのであろうな」


「案外どこの国も同じなのかもしれませぬな。大きくなり過ぎた果実は、やがて内側から腐って落ちるのと同じように」


「ふむ……」


「だからこそ、カァディル様は皆にとって希望なのです。どうか、御身をお大事になさってくださいませ」


「結局そこに話は戻るのか」


「ええ。大事の前につまらぬことでそれが瓦解してしまうことが最も忌むべきことでございましょうから」


「……爺には敵わぬな」


恐れ入ります、と爺は俺の言葉に頭を下げた。


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― 新着の感想 ―
うーん、勝手に他人を巻き込んで迷惑をかける作戦なので、自分も父親や兄と同類ですわ。
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