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父と子

「アレに、言ってしまったのですか……」


溜息を吐きつつ呟かれた息子の言葉に、居たたまれなさを感じる。


「いや、言ったというか……その、メリーが自分で勘付いたようなもんだ」


「どうせ父上のことですから、不用意にその話につながるように話していたのでしょう」


息子であり現在のアンダーソン侯爵家当主であるパークスの冷めた視線に、儂は益々居たたまれなさを感じる。


息子相手に情けないと言うことなかれ。


冷静・冷徹……妻に似た顔立ちのパークスは魔王顔と囁かれるルイ殿と違って柔らかな顔立ちだが、中身はよく似ている。


否、顔立ちだが優しげな分、その中身が表に出てくると恐ろしさは倍増だ。


「……まあ、アレは戦いの臭いに敏感ですから。恐らく、それとなく肌で感じ取ってはいたでしょうし、だからこそ隠そうとしても無駄であったでしょうが」


「そうだろう!……儂が責められるのは、納得いかないが」


「それとこれとは話が別です。そもそも、私は父上を責めてはいませんが?何せ、戦についてあいつの嗅覚は野生のそれと変わりませんから」


あれで、責めてないというのか。

……ということは、先ほどのそうと分かるほどの苛立ちは何に対してあったのだろうと、内心首を傾げる。


「あー……まあ、そうさな。むしろあいつが中途半端に情報を知って、その後どう動くかが問題よなあ。小さい頃から何かあればは飛び出して行ったせいで、儂が何度胃痛を感じたことか」


「……大人になった今でも、あの性分はなかなか変わらないでしょう」


「だろうな。そう考えると、中途半端な情報よりも儂が知る全てを共有しておいた方が、良いであろう。情報は、命だ。誤ったそれを掴めば戦局を見誤り、正しいそれを掴めば掴むほど、生存率が高まる。儂の心労をこれ以上増やさぬためにも、な」


「分かってますよ。……分かってますけれど、知ってしまえばなおのこと、あいつが関わってしまうような気がしてならないのです」


息子の言葉に、なるほどと笑う。

表に出せば怒るであろうから、心の中で。

息子は、心配しているのだ……メルリスのことを。

そういえば、昔からパークスはメルリスに甘かったものな。


「……ところで、父上。かの国との戦であれば、やはり父上が出られるのでしょうか?」


「さあのう。そればかりは分からん。だが……まあ、可能性は高いな。土地勘もあるし、自分で言うのも難だが、士気を上げるのに儂の存在は一役買うだろう。何よりこの国の人材や状態を考えると……な」


「救いは殿下が『ディーン』として軍の者たちとも交流があり、主要な人員を把握していることでしょうね。混乱は、少なければ少ないほど良い」


「確かにな。……お前も出るか?」


「まさか。武術は苦手ですよ」


「武術『は』であろう?」


その言葉に、パークスは言葉では何も返さず、ただただ苦笑いを浮かべていた。


恐らくこやつが出れば儂などよりも戦場で多くの屍を積み上げることができるだろう。

軍師とはそういうものだ。

実際に戦えば、儂やメルリスであれば余裕……騎士団相手にそこそこといったところであろうが。


「……まあ、良い。万が一の時には留守を頼むぞ」


「はい」


「それと、メルリスのことも頼むな」


「……アレに助けが必要になることが、想像できないのですが」


心配していたくせに、と苦笑いを浮かべる。


「まあ、そう言うな。いざという時、手は多いことに越したことはない。アレは確かに強いが……否、だからこそ、アレに付いていけるだけの兵どもが必要となるだろう。公爵領の者たちも儂が多少鍛えはしたが、やはりアレに付いていくとなると、な」


「なるほど……確かに、そうかもしれませんね。それにしても、父上はメルリスに甘い」


「お前には言われたくないわ。それにお前からしか、そんな言葉聞いたことがないぞ?クロイツもシュレーも、儂の子育ては『千尋の谷に落とす獅子ですか?』だと」


儂の言葉に否定も肯定もせずに、息子はクスクスと笑う。


「アレに父上が施した訓練は確かにそう思っても仕方のないことですが……そうではなくて、既に嫁ぎ他家の者となったアレに対する気遣いのことですよ」


「当たり前だろう。どこに嫁ごうとも、儂の血の繋がった娘であるということには変わりがない。……お前にとっては、違うのか?」


「いいえ。……勿論、アレは血縁者であり、可愛い妹ということは私にとっても変わりがありませんよ」


「そうか。……では、万事頼んだぞ」


「ええ」



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