恋
六話目です
……何で、と自分で自分を責める。
エド様の時に、学んだのではないか、と。
恋は人を愚かにさせる。
どんどん堕ちて、溺れて。
……そして、相手にもそうなることを願う。自らのところまで……否、それ以上。
私という存在を染み渡らせ、息もつかないほど溺れさせたいと。
そう、願ってしまう。願ってしまった。
相手の意思も何も考えずに。
今だって、そうだ。勝手に期待して、思い通りにならなかったら憤って。
……まるで、玩具を得られない子どものように駄々を捏ねているようだ。
いつの間にか、私の後ろをターニャが歩いていた。
席を立ったところで、追いかけてきてくれたのだろう。
彼女は何も言わず、追いかけてきてくれていた。
奥まった場所から比較的入口近くまで来たところで、私は立ち止まる。
心はモヤモヤと重い気持ちに占められていたというのに、胸元がやけに軽く感じた。
私は、そっと胸元に手を当てる。
……失くなった!
夜会など胸元が開くドレスを着るとき以外を除いて常に着けていた懐中時計が、失くなっていたのだ。
その事実に、サッと血の気が失せる。
「お嬢様?」
立ち止まり、顔色を変えた私に気づき、ターニャが声をかけてきた。
「……ターニャ。申し訳ないのだけど、さっきのところに忘れ物をしてしまったの。取りに行ってくれる?」
「しかし……」
「お願い。どうしても、失くしたくないものなの。でも、私はさっきのところに戻れないし。……私はこの辺りで待っているから、お願い」
珍しく弱々しい姿を晒してしまっていることには、自覚がある。
でも……それほどまでに、私にとっては大切なものなのだ。此の期に及んでも。
「……畏まりました。お嬢様は、こちらにいらしてください」
私のそばを離れたくないだろう彼女はしばらく葛藤した様子を見せ……けれども、了承をしてくれた。
「ええ」
私は、彼女の背を見送った。そして、おとなしくその場で待つ。
思わず、胸元に手を置いた。最早その仕草は癖のようになっている。
……本当に、今更な話だ。
あの懐中時計が戻ってきても、何になる? ……むしろ、今となってはそれに纏わる幸せな過去も、思い出したら辛いだけだというのに。
ぼんやりと、その廊下に面している庭を眺める。
そうしていたら、人の近く気配がした。
随分と帰って来るのが早いなと思ったら、そこにいたのはディーンだった。
何故……という疑問を投げかける前に彼は私の手を取って、歩き出す。
彼にしては珍しい強引さに、私は頭の中が混乱して現状についていけない。
近くの空室に入ると、彼は私の手を放した。




