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お礼

四話目です

国を騒がす会議から、時が経った。

……とはいえ、僅か数週間だが。


けれどもその数週間で、大分王宮は……そして王都も様変わりした。


ディーンが諸外国を周り得てきた物資や貴族たちから徴収したそれを状況に合わせて分配し供給することで、元通りとまではいかないが、随分と街の様子が良くなっていた。


エド様たちが王宮の実権を握っていた期間に各貴族たちから徴収したモノは、見事に彼らと第二王子派の貴族たちが懐に溜め込んでいた。


モネダに調べて貰った通りだ。

それらも再び強制的に徴収して分配したとのこと。


金貨擬きの影が流通から姿を消したことも大きいだろう。

これによって商人たちも再び活動を始めたからだ。


王宮内も、当然大混乱だった。

ベルンが名を挙げた者たちは、正式な沙汰が下るまでは強制的に蟄居。


正式な沙汰とは、更に罪が加算されるかそうでないか……だ。


既に決まったところで挙げるとなると、エルリア妃とマエリア侯爵は当然のことながら一族連名で斬首。


また、モンロー伯爵も同じ刑が決まっていた。

貴族位は当然返上の上、領地も没収のため遠縁が継ぐことも許されない。


王位の簒奪を企てていたということや敵国と通じていたということは、大きな罪である。


名が挙がった者たちの直系は、例え生き残ることが許されたとしても多くは修道院に送られるか一生蟄居となるだろう。


国の行政が混乱するかと思えば、想定していたほどのそれはなかった。


元々第一王子派にいた者たちは要職についていなくとも、それぞれの分野で評価を得ていた者たちが多く、彼らは水を得た魚のように第一王子の下で働いているからなのだろう。


その日、私はアンダーソン侯爵家にむかっていた。

かの家の王都の別邸は、アルメニア公爵家別邸から割と近くにある。

馬車に揺られ、街並みを眺めていたらあっという間に到着した。


案内された先で待っていたのは、伯父様だけでなく伯母様と、それからお祖父様もいらっしゃった。


「……本日はお忙しい最中、お時間をいただき誠にありがとうございます」


「親類なのだから、そのような礼は不要だ。ほら、そこに座りなさい」


私が頭を下げると、伯父様は優しくそう言ってくださった。

私はその言葉に甘えて、席に着く。


「今回の件、お祖父様と伯父様には大変お世話になりました。私個人からも……そしてアルメニア公爵家領主代行としても、御礼を申し上げます。本当に、ありがとうございます」


「なあに、儂の名がお主の役に立ったのであれば、これ以上のことはない!」


ガハハ……とお祖父様はいつものように大口を開けて笑っていた。


「……勝算のある悪くない話であった。お前があの状況を打開しようと自ら考えた結果だ。礼を言う必要はない」


伯父様は、優しく微笑む。その笑みは、ルディのそれと同じだ。


「全く……素直に言えば良いものを。主人は、貴女の身を……それから、義姉様の身をそれはそれは案じていらしたの。かといって、領主として簡単に動く訳にもいかないって。だからアイリスちゃんのお話は正に渡りに船だったのよ」


「……メリーは殺しても死なないだろうから、心配などしていない」


「まっ!」


皆の会話につい心が解れて、私も一緒になって笑った。


「まあ、まだ完全に安心して良い訳ではない。アルフレッド王子……彼が果たして今後どのようにこの国の舵を切っていくかだな」


「大丈夫であろう。ルディが己の主と見定めた者じゃ。それに、儂も稽古をつけておる。奴の根性は保証するぞ」


「……そうですわね。彼は、彼の理想を現実にする力を持っておりますわ。それに、妹様も素晴しい方です。兄妹として……また、王族として彼のお方を確りと支えるでしょう」


「……レティシア様に会ったことが?」


少し驚いたように、伯父様が問いかけてきた。

しまった……つい気が緩んで余計なことを言ってしまったと後悔しても、もう遅い。


「え、ええ。お母様を介して。とても愛らしく素晴らしい方でしたわ」


私の答えに納得したのか……それともそういうことにしておいてくれるのか、それ以上の追求はなかった。


「……そういえば、アイリス。少し儂の耳に入ったことで、お主に聞いておきたいことがあるのだが」


「何でしょう?」


珍しく言い淀むお祖父様に、私も気を引き締める。


「お主、アカシア国の王子との縁談が舞い込んできたそうじゃな」


お祖父様の言葉に、私はつい固まってしまった。


「……受けるのか?」


そして、当然その問いに答えることなどできはしない。


「父上、アイリスが困っています。この件については、我らが介入することなどできない」


「すまぬ。つい、心配になってな。お主はお主の未来を第一に考えて欲しい。以前に言った儂の言葉は、嘘ではない」


『無理に嫁に行く必要なんて、ない。お前はお前の好きなことをして、ずっと居てくれれば良い。行くところがなくなったら、儂のところに来れば良いしな』


お祖父様の言葉に、かつて言っていたそれを思い出して私は自然と笑みが浮かんだ。


「御心配いただいて。ありがとうございます。その件については、お父様ともよく相談して、決めることにしてあります」


……それ故に、少し胸が痛んだ。


私の頭の中では既に決まっていたことだからだ。

単に、私自身の心が追いついていないだけで。


思い出すのは、会議の場でのディーンの姿。

会いたかった。会いたくなかった。

私の理性を揺るがす、ただ一つの存在。


……なるべく早く、動かなければ。私は、未練で動けなくなってしまう。

笑顔の下でそんな決意を私はした。



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― 新着の感想 ―
結婚する前提での選択肢しか考えてないのがよく分からん。そんな関係でもないし、国同士の関係でもないと思うけど。展開に無理がないか。
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