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会議 漆

三話目です

「な……何だと!」


勇気があるのか単に無謀なだけなのか、名を挙げられた貴族の内の一人が、声をあげた。


「知らなかったのですか?貴方がたが取引をした商人……ディヴァンは、トワイル国の尖兵。食糧品を大量に買い上げたのは、かの国に送り尚且つこの国の蓄えを減らしたかったがため」


「そのような証拠、どこにあるというのだ!」


「デタラメを……!」


最初の一人に勇気付けられたのか、幾多もの声が再びベルンを罵倒する。

それも仕方のないことだろう。

彼らは、決してベルンの言葉を認めることはできない。

認めた瞬間、彼らに待つのは惨い終わりなのだから。


「証拠なら、あります」


けれども、全くベルンが心配にはならない。

かつての破門騒動のときの自分が、重なって見えたからだ。

あの顔は、何かを掴んでいるそれ。


「既にメッシー男爵が、国境を彷徨いていたトワイル国の者たちを捕らえております。彼らの口からは既にトワイル国とディヴァンの関係性については吐かせました」


私の婚約破棄の糾弾の時と、彼は随分変わったなと感じる。

……勿論、良い方にだ。


「また、メッシー男爵の手によって、トワイル国に流される筈だったモノの一部は押収しています。ディヴァンによって巧妙に隠されたり消されたりしていましたが、先ほど私が述べた家の家紋が印されたものも確認ができています。貴殿らが家名に誇りをお持ちになられて、何にでも家紋を印す方々でとても良かったです。流石にディヴァンも全ては消し切ることができないほどに、ね。まあ、確かに家紋だけは素晴らしいですから気持ちは分からなくもないですよ」


ニコリ、彼は笑った。……勿論、その瞳は笑っていない。


私には彼の言葉が『お前ら自分の家名しか誇るもんないもんな。それで自分の首を閉めてるんだから、救いようがない』と言っているように聞こえた。

……きっと、彼の内心からそんなにズレていない筈。


「後で貴殿らにもご覧になっていただきましょう。……私と殿下は既に一度見に行って、間違いないと断じましたが」


『それと合わせて、とある男爵を追うと良い。何故、シーズン中ですら王都にいないのかを』


ターニャより報告があった、マイロの言葉を思い出す。


勿論、彼女はそれについても調べておいてくれた。

ディヴァンの商会は、モンロー伯爵の領地を拠点としている。


国内でどんなに巧妙に隠して品物を運んでいたとしても、最終的に送る地が決まっているのだ……必ず、モンロー伯爵の領地かメッシー男爵のそこを通るしかない。


だからこそ、彼は第一にモンロー伯爵との繋ぎを作ったのだ。

そして、それ故にそこからフリーパスで品物を送っていたのだ。


メッシー男爵は、王都にいない時は領地で国境の守備に回っていた。

ターニャの調査によると、最近はモンロー伯爵領と自身の領地の境を拠点とし、そのほとんどをそこで過ごしていたらしい。


その調査結果が報告に上がった時点で、ある程度想定していた。

……第一王子派である、メッシー男爵。

そしてメッシー男爵が拠点を移したというその行動。

それは、第一王子がモンロー伯爵とディヴァン……ひいてはトワイル国との関係に勘付いているということを。


事実、アルフレッド王子は配下の者たちをモンロー伯爵領とトワイル国の境に秘密裏に忍ばせ、ディヴァンの企みを……そして国内の膿を吐き出せるよう証拠集めに邁進していたという訳だ。


『今尚私の中では戦時中であり……』


かつて、メッシー男爵の夜会であの方に言われたことを思い出す。

確かに、戦争だ。……直接的な戦いを、していなくとも。


アルフレッド王子は……いいえ、ディーンはエド様との王位争い、それからエルリア妃とマエリア侯爵と貴族内での陣取り合戦をしていただけでなく。


既に国を背負って、戦っていたのか。

私なんかよりも、ずっと重い重圧を背負っていたというのか。

……だというのに、私はいつも彼に助けられてばかりだったのか。

そう思うと、場違いにも悔しいやら何やらで涙が瞳に溜まる。


「殿下」


ディーンがベルンより更に一歩前に出た。

その行動にベルンは声をかけるが、ディーンが笑って彼を制す様を見てすぐ様一礼して下がった。


「貴族とは、貴い者だ。それは、生まれ故ではない。民の上に立ち、民を守り導くからこそ貴い者と民に選ばれたからだ。……それがいつの間にか、民の上に立つその意味を忘れ、民を見下す傲慢で無知な者たちが貴族と騙るようになっていたようだ」


そう言いつつ、ディーンは会場中を見回した。


「民とは国の血肉。徒らに散らせたこと、それ即ち国家への叛意の表れだ!それは貴族として家の名を背負う者にあるまじきことだ!」


ディーンの声が、再び雷鳴となって会場中に響き渡る。

既に反論も弁論もない。


「……もっとも、敵国の者と通じていた罪に貴賎はない。変わらず国への叛意ありとして処罰される。私の言っていることに、何か間違いはあるか?」


第一王子派の者たちが次々と席を立つ。

そして敬意を以って、頭を下げた。


各々のそれは、陛下に謁見する際に行う礼。

私もまた、彼らに倣って淑女の作法で礼をする。


「先ほどベルンが名を挙げた者たちを捕らえろ!……これにて今日は閉会とする!」


「後日改めて陛下が会を開くため、皆様報せがあるまで王都に残られるようお願い致します」


そうして、後の歴史に残るであろう本日の会議は終わった。



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[気になる点] >お前ら自分の家名しか誇るもんないもんな。それで自分の首を閉めてるんだから、救いようがない お前ら自分の家名しか誇るもんないもんな。それで自分の首を締めてるんだから、救いようがない …
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