会議 陸
二話目です
「民の現状を憂いてくださるのであれば、これから申し上げる方策にも賛成してくださることでしょう」
そう、吐き捨てるようにベルンは言った。
その瞳には、ますます力が込められている。
「では、ベルンより今後の我々の指針を伝える。皆、心して聞くように!」
アルフレッド王子の言葉に応えるように一歩、彼より前に出る。
それからベルンは口を開いた。
彼は、どんどん貴族の家名を挙げ連ねていく。
名が挙がった者もそうでない者も、一様に一体何を言いたいのだろうかと首を傾げていた。
「……以上の家は領地を没収の上、位を返上すべし」
けれども、最後の一言に誰もが衝撃を受ける。
まさか、こんなに幾つもの貴族たちが一気にそのような沙汰を下さるなんて、建国以来初のことじゃなかろうか。
当然のように、会場中で罵倒やら怒号が響き渡った。
ベルンは、その声に怖気付いたかのように俯く。
その様に、ますます彼を責め立てる声が大きくなった。
どう収集をつけるのだろうか……と、アルフレッド王子の方を見るが、彼はただただ微笑むばかりだ。
そうこうしている内に、ベルンが顔を上げた。
彼の顔を見て、罵倒を叫んでいた者たちが次々と黙り込む。
否……正確には、彼の顔ではなく瞳か。
彼は、ただただ無表情で会場を見回していた。
その瞳に宿すのは、憎しみにも似た激しい怒り。
先ほどまでの怒号が生ぬるいと思ってしまうほどの、それ。
『言いたいことは、それだけか?』と彼は口を開いていないというのに、問いかけられているようだった。
「……似ているな、君の父上に」
伯父様が、そう面白そうに呟いていたのが耳に残った。
「先ほど名を挙げた者たちは……全て己の利のために、法で定まっている最低限の備蓄分すらを売った者たちです。民のためにならぬ統治者なら、即刻領地を返上すべきでしょう」
静かに、彼はそう言った。
けれども静かなのは彼の表情のみで、その声色は彼の瞳同様熱を孕んでいた。
「そ……そのようなことだけで、先祖代々の地を国に差し出せというのか!?」
「それだけ、ですか……。それだけのことに、一体何百人……何千人の民たちが亡くなったとお思いか!」
ついに、彼は一喝した。その怒号は、先ほどの会場中のそれを全て足し合わせたものよりも迫力がある。
「し……仕方なかったんだ。我が家は随分前より貧窮をしていて……」
「こんな災害に見舞われると思っていなかったんだ!先ほどアルフレッド王子も此度の一件は予測できなかったと仰っていたではないか!」
「予測できない災害の為の備えの筈なのですが。百歩譲って災害が発生しなかったとしても、貴殿らの処罰は変わらない」
抗弁するやら不満を言い募る彼らに、ベルンは淡々と言葉を返す。
「何故だ!」
「先ほど申し上げました通り、王国法を犯した罪。偽金貨と気づかず取引を行い、それを留めておくでもなく散財し国に流通させ、国家を混乱に陥れた罪」
「そんなの……!」
「……何より、休戦中とはいえ敵国と通じた罪は重いでしょう」
最後の言葉は、そんなに大きく声を張ったものではなかった。
……だというのに、それは重く皆の心に響いた。




