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会議 伍

「先ほども言っただろう。お前も、お前の母と祖父と同じく王位の簒奪を目論んだ一人に挙げられる。ならば、当然の処置ではなかろうか?」


「しかし、そのこととユーリは関係ない筈です!」


「そうだな。だが、この者は王族ではない。にも関わらず、王族専用の扉からこの場に姿を現し、以前には王族の予算より資金を使わせた。それは、王族の名を騙った詐称に他ならない。それとも、この者は既にエドワードと婚姻を済ませているのか?ラフシモンズ司祭」


「いいえ。ダリル教にはそのような記録は一切ありません」


「ならば、その女も捕縛しなければならない」


「それは、私が……!」


尚もユーリをエド様は庇おうとする。

己が矢面に立って。……そこまで、彼女を愛していたのか。


「お前が自身を律することができなかったのが一番の問題だが、責は彼女にもある。……尤もお前が庇ったところで、その者には他にも余罪がある。証拠が集まるまで、お前とは別に牢につなぐ。……連れて行け」


「待ってください!アルフレッド王子!実のお兄様が、弟にこのような仕打ち……あんまりです!どうか、お考え直して下さい!」


ユーリが衛兵に逆らって、アルフレッド王子に近寄ろうとしつつ言った。


「普通の兄弟であれば、それも罷り通るかもしれないが……」


アルフレッド王子の呟きに、彼女は期待の篭った輝きを瞳に宿す。


「だが、私たちは王族だ。この身に流れる血の一滴まで、王国の為にあるもの。王国の害にしかならぬというのであれば、切り捨てるのみ」


そう言い切った彼の瞳は真剣な色を宿し、その声色は場の空気を斬るかのような冷ややかなものだった。


「そんな……!」


弱々しく涙を流す彼女は、庇護欲を唆られる。

幾人かは、自ら捕縛されながらも婚約者の身を案じる彼女に同情を寄せているような雰囲気であった。


アルフレッド王子は、彼女に近づく。

彼女は縋るように、彼を見つめていた。

この場に及んで、そんな目で彼を見るなと叫びそうになる自分に、ほとほと嫌気がさす。


「随分と君の友達は仲間をこの城に引き入れていたみたいだが……全員、君の友達と去って行ったよ。捕まっても助かる、だなんて思わない方が良い」


「なっ……!」


彼は、彼女の耳元に口を寄せた。

そして、取り乱す彼女の耳元で何かを囁く。その囁きは何か、分からない。

分からないけれども、彼女にとっては重要なことであったのだろう……彼が離れた瞬間、彼女は突然叫び出した。

彼女のその変わりように、誰もが唖然とした。


「ユーリ!」


ただ一人、エド様だけが無理矢理拘束を解かせて彼女に駆け寄る。


「ユーリ、大丈夫か? ユーリ」


彼の呼びかけに、けれどもユーリは応えない。

虚ろな目で『嘘よ、嘘よ』と呟くだけだ。

そんな彼女を庇うように、彼は彼女と衛兵の間に立った。


「彼女の様子がおかしい!どうか、彼女を病院に!」


「捕らえた後に見せれば良い。……衛兵」


衛兵は、彼らを捕らえるべく再び動き出した。


「やめろ! ユーリ!」


ユーリは、ただただ涙を流していた。

そんな彼女の手を掴もうと、エド様が手を伸ばす。

彼は冷ややかにそんな彼女を観察しつつ、衛兵に身振りで二人を連れていくように伝えた。

衛兵はそれに従って、進む。


「さて、話が脱線してしまったが……本題に戻ろうか。なあ、ベルン」


彼の口から出た名に、多分またもやこの場にいる誰よりも私が一番驚いた。


後ろの扉……私たちが入室した方から現れたベルンは、会場中の戸惑いの空気を意に介さず、ツカツカとアルフレッド王子の近くへと進む。


その姿は、本当にベルンかと問いたくなるような様相だった。

髪を短く切り、随分と痩せ、目の下には隠しきれない隈がある。

鋭い視線と雰囲気は、とてもあのどこか詰めの甘いところがあった彼とは似ても似つかない。


ベルンは、アルフレッド王子に向けてこうべを垂れた。


「先ほど、お前も聞いただろう?アルメニア公爵領とアンダーソン侯爵領を没収すれば良いとのエドワードの暴言に賛同した多くの愚か者たちの声を」


アルフレッド王子は愉快そうに、クツクツと笑う。


対するベルンは、全くの無表情だった。けれども代わりに会場中を見回す。

彼の鋭い視線が、会場を射抜いた。



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