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お祖父様の登場

「………王都の様子は変わらないわねー。けど、城内はちょっと微妙ね」


「……微妙、とは?」


「あの女が最近妙に調子に乗って色々やってるみたいなのよー…。大方、あの男爵令嬢にのせられちゃっているのだろうけれども。王もシャリアがいなくなってから、腑抜けになってしまったのも悪いわね。……だからあの時、私とアイーリャ様はあの女との結婚を反対したのに」


あの女、とは王の側室であるエルリア様。お母様は昔っからエルリア様のことが気に入らないみたい。逆に、正室であったシャリア様とは仲良くしていたみたいだけれども。

それと、アイーリャ様とは現王のご生母……つまり、王太后様。この世界の女性の中でも最も地位の高い方だ。現在は隠居されて、離宮の方にいらっしゃる。けれども、その影響力は勿論今も絶大。

因みにお母様は、そのアイーリャ様に、それはとてもとても昔から可愛がられている。アイーリャ様が実の娘のように思っている、と言って憚られないほど。アイーリャ様が隠居された今も、偶にお母様は離宮に遊びに行っているらしい。


「……男爵令嬢にのせられて、と仰いましたが……私、てっきりエルリア様はユーリ様とエド様の婚約を反対しているかと思っていましたが……」


今後のことを考えたら、ねえ……男爵令嬢なんかよりも、エルリア様としても、もっと他の家とエド様を縁続きにさせたいと思っていたのだけれども。


「あの男爵令嬢…名前、何て言ったかしら?」


「ユーリ・ノイヤー様ですわ」


「ああ、そうそう。ユーリ様はねえ…とても、お上手なのよ。相手の自尊心を擽るのがね。だから、あの虚栄心の塊であるエルリア様が落ちるのも頷けるわ」


「……お母様、ユーリ様にお会いしたことがあるんですか?」


「ええ。今、彼方此方に顔を出しているみたいで偶然会っちゃったのよー。アイリスちゃんがいなくなった途端、第二王子が連れ回していてね」


「そう、ですか……お会いになられて、どうでしたか?」


「どうもこうも、私はアイリスちゃんの味方だからねー……けれども、そうでなくてもあまりお近づきになりたくないかも。苦手なのよね、あの現実を見ないところが」


「夢見がち、ということですか?」


「ううーん…上手く説明できないわー。けれども、アイリスちゃんは近づく必要ないから良いのよ」


お母様はこれ以上話してくれなさそうだけど……気になるわね。実はあんまり接点なかったから、彼女自身のことってよく分からないのよ。エド様を通してはそりゃあもうよく知っているけれども。


「じゃ、じゃあ…お母様。第一王子はどんな方なんですか?」


「あら、アイリスちゃんは会ったことなかったかしら?」


「ええ…」


全く記憶にない。もし会ってたなら、王族だもの…ちゃんと記憶しているのだと思うけど。


「そういえば、アルフレッド様は随分早くから表舞台から引っ込んじゃったからねえ…その後すぐに留学してたし」


「何故、そんな早くから?」


てっきり留学が先だと思ってたのに、まさかのその前に表舞台から消えてたなんて。


「シャリアが亡くなって、その後色々あってね…別に彼本人が悪かった訳じゃないのよ?なんて言ったって、彼は旦那様に似たとっても素敵な方だもの」


「お父様に、ですか?」


「ええ。あ、顔は似てないわよ。でも、雰囲気がとっても似てるの。この国にいるから、いつか貴方も会えるかもしれないわね」


「そうですか、この国に…って、えぇ?」


留学してるんじゃないの?!というか、お母様何故それを知っているの?


「あら、知らなかった……?じゃあ、これは内緒ね」


いやいやいや…とてもそんな軽く内緒ね、で済む問題じゃないですよ、お母様。


「一体、何故彼は出てこないのです……」


「久しぶりだなー!!メリー、アイリス!!」


私の言葉の途中で、豪快に扉が開いたかと思えばお祖父様が登場した。…って、え?


「お祖父様!何故、ここに……」


「メリーが帰ると聞いてな。儂も丁度良いと思って来たのよ」


ガゼル・ダズ・アンダーソン。お母様のお父様であり、この国の将軍職を務めている私のお祖父様だ。

アンダーソン家は、侯爵家なのにお祖父様は貴族の世界は固っ苦しいとか言って軍部に入隊。素質があったのかメキメキと頭角を現し、30年前のトワイル戦役と呼ばれている隣国トワイル国との戦争で、部隊を引き連れ大勝利を収めたことで将軍職に任命された。今でも騎士団や軍籍にいる者の中では憧れの存在とされている。


ここで騎士団と軍の違いを説明しておくと、騎士団は要するに王族と城の護衛が主な任務。所属する者は、末端ながら貴族かもしくは貴族の推薦を受けた者。

そしてその中でも更に王家の者を護衛する為の部隊を、近衛兵と呼ぶ。近衛兵は、万が一何かが起こった時に王の盾となり鉾となることが任務だから、騎士団の中でもより強い者が任命される。ライルとディダは一度この近衛にならないか、という打診が来ていたが…それは、お祖父様に鍛えられた2人の強さを見込んでのこと。推薦なんて、後からお父様からでも、お祖父様からでも貰えただろうしね。……結局2人は蹴っちゃったけど。

軍は、主に戦争が起きた時に戦地に直接赴く組織。所属する者は、入隊すればどの地位であろうが問われない。平時では、警備隊がない代わりに王都や王国全体の治安維持部隊として仕事をしている。


ここまで説明して分かって貰えただろうが、本来侯爵家の一人息子であったお祖父様が士官するのならば、騎士団の方。なのにお祖父様は、まさかの軍に志願したのだ。


…まあ、確かにこうして見ると、グレーの髪はぼうぼう伸ばし放題ついでに髭も伸ばし放題、ガッシリした身体つきも相成って、侯爵家当主というよりも本当に武人にしか見えない。


因みに、メリーとは私の母親の愛称。本名はメルリス・レゼ・アルメニアだ。


「アイリス、大変だったのう…顔を見せるのが遅くなって悪かった」


「いえ!お祖父様も色々とお忙しいでしょうし。私は気にしてませんわ」


「ははは、儂ももう当主は息子に引き継がせたし、国もまあ戦争が起こるほどの危機は陥っておらぬからの。暇なもんよ」


……でも確か、お祖父様。お祖父様の訓練を求めて、日々人が集まってるって聞いてたけれども……。


「それにしても、アイリスはメリーに似てきたのう…」


そんなことを言いながら、目を細めて私をお祖父様は見つめる。


「そ、そうでしょうか……」


お母様に似ているなんて、とんでもない。…きっと孫可愛さに言ってくれたのね。

私とお母様が似ているのは、プラチナの髪だけ。瞳は私が濃い青で少しキツめなのに対し、お母様のそれは春の青空を思い出させるようなアクアマリンの色で本当に柔らかな雰囲気がよく現されている。


「無理に嫁に行く必要なんて、ない。お前はお前の好きなことをして、ずっと居てくれれば良い。行くところがなくなったら、儂のところに来れば良いしな」


……そうね。それも、良いかも。弟が帰って来て公爵家継いだら、私行くところなくなっちゃうし。そしたら、お祖父様のところに行くっていうのもありだな……。アズータ商会の指示は、どこからだってできるしね。



「まあ、お父様。聞き捨てなりませんよ。アイリスちゃんに行くところがなくなる、なんてこと起こる訳ないじゃないですか。むしろならば、あの馬鹿息子を引き取ってください」




誤字脱字や改行について、これから少しずつ直していきます。

ご指摘ありがとうございます。

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