会議 弐
三話目です
「皆さま、落ち着いてください……!そのような恐ろしい顔をなさらないで!今一番に考えなければならないのは民のことでしょう?」
ユーリが、声を大にして叫ぶ。
その必死さを健気に思ったのか、エド様の目尻は下がっていた。
このような場面でそんな表情を浮かべるとは……最早呆れを通り越して諦めの気持ちしか思い浮かばない。
「ちゃんと民のために話し合いましょう!エドワード様のお兄様もきっと分かってくださる筈です!」
何を分かって貰えると言っているのだろうか……そう、私は内心首を傾げる。
「だって、この場にもいらっしゃらないんですもの。きっとエドワードのお兄様は、繊細な方なのよ。だから……」
「ユーリ、お前は優しいな。それに比べてお前らときたら……。ユーリの言う通り、兄上は昔から第一線から離れられていた。それは、第一王子の重圧に耐えかねてであろう。だからこそ、私は兄上の代わりにこの国を背負ってみせる。民を守ってみせよう」
「民を守るというのであれば、エドワード様。王でなくとも、できることはあります。ですが、貴方は何もしていらっしゃらなかったではないですか。することといえば、アルメリア公爵領に、求めるだけ」
伯父様はエド様を冷ややかに見る。
「それから、ユーリ『男爵令嬢』。ここは、ご令嬢の遊び場ではない。口を噤んでいただきましょうか」
ユーリに至っては、視界に入れることすらなかった。
「な……ひ、酷い……!」
そう言って、涙を流す。
「アンダーソン侯爵!そのような酷い言葉を、よくも我が妃に……!」
「酷いでしょうか」
ポツリ、私は呟いた。
その呟きに、エド様から憎々しいとばかりに睨まれる。
「どうか、お恵みを。私は……水以外何も口にせずに、ここまで歩いて来ました」
続けて言った言葉に、何を言っているんだと鼻で笑われた。
「子どもたちだけでも、どうかお助けください。この子たちを守れるのであれば、どうなっても良いですから」
……これらの言葉は、あの検問所の視察の時に耳にした言葉。
私の耳にこびりついた、彼らの声。
「他の領から我が領地にやって来た民たちの声です。……民を助けるため、と貴方たちは仰いました。ですが、そんな悲痛な声が蔓延するまで、一体貴方たちは何をしてきましたか……!」
私の声が、怒りに染まる。
「我が領地から運ばれた物資のかなりの量が、王宮に……先ほどエドワード様がたに賛同された貴族の家に留まっているというのも、既に調べがついています。酷い言葉と先程言いましたが、貴方たちはそれ以上に何もしない……己の身を守って民を見捨てるという残酷な行動をしているのですわ」
「し……知らないぞ!俺はそんなこと、知らない!」
「エドワード様の言う通りよ!きっと誰かが私たちを陥れようとしているのね……!」
ユーリの叫びに、エド様は私を睨みつける。
「そ、そうだ!そもそも、アイリス公爵令嬢が物資を送ったという証拠がない!我らを陥れるために、妄言をしているのだ!」
その言葉に、私は溜息を吐いた。
「……アイリス。これ以上は、無駄だ」
立っていた同盟者皆が、同じ反応だ。
何せ物資のやり取りについては、正式な書類のやり取りがある。
……つまり、アルメリア公爵領から一定量収められているという決定的な証拠があるのだ。
「我々は、こちらで失礼させていただこう」
「待て!先ほども言ったがこのままこの場を離れるというのであれば、嫌疑を肯定したとして私は軍を……」
「それは、困るな。お前が思っているほど、王家の力は強くないのだから。この状況であの二家に見限られたら終わりだ」
一種の興奮状態に陥っていた部屋が、突然の乱入者に静まり返る。
……その人物は、エド様の言葉を遮るように言った。
この場にいる面々が驚いたのは、彼がエド様の……一応曲がりなりにも王族の彼の言葉を遮ったからではない。
彼が、王族たちが登場した前の扉から現れたからだ。
けれどもここにいる誰よりも……私は動揺しているだろう。
王族専用の扉から現れた人物がいるということよりも……何故、彼がそんな行動を取ったのかと驚愕してしまっていたからだ。
……何故、貴方がそこにいるの!
声なき声で、私は彼に向かって叫んでいた。




