会議
二話目です
「……とんだ茶番ですわ」
「……とんだ茶番であるな」
祝福の声が響く中、私ともう一人の声が響いた。
異質なそれに、シン……と場が静まり返って、全ての者たちが注目していた。
「アンダーソン侯爵! 茶番とは、一体どういうことですか?」
私も同じことを言ったが、エルリア妃は私の存在すら無視を決め込んでいるらしい。
アンダーソン侯爵……つまり伯父様を睨みつつ、叫んだ。
「どういうことも何も……この国の法では長子相続だ。長子が重大な病に罹っている等特別なことがない限り、それは王族にも適用される。法を、王族自ら犯そうとするこの決定が茶番以外の何ものでもないだろう」
「この場にいない者が王に相応しいと思っていらっしゃるのですか?それこそ、あり得ませんわ」
「エルリア妃が断じることではありませんでしょう。貴女様に王位の決定権などない筈。王が亡くなられた後は、速やかに王権を第一子に相続させる。それが、王国法ですわ。つまり、前王の妃の許しなど無用なのです」
エルリア妃は、伯父様から私に視線を移す。
忌々しげに、そして心底憎いとでもいうかのような視線であった。
「それに、エドワード様。先ほど貴方は良き王になられると言っておりましたが……この難局をどのように乗り切るおつもりでしょうか?」
「お前に答えなければならない義理はない」
「いいえ。お答えいただきます。我が領地からの支援物資をこれ以上望まれるのであれば」
「何故お前の言うことを聞かねばならない!私は、王だぞ!たかが一貴族がそのような物言い、無礼である!」
……まだ、王位にはついていないですよね?
というそんな至極当然の疑問が浮かんだ。
「そ、そうですよ……!誰か、この女を摘み出しなさい!」
けれども、誰も動かない。
それは、脇に控えていた衛兵たちもだ。
ここにいる衛兵たちは、既にお祖父様の手の者たちに変えてある。
伯父様からの指示がない限り、動くことはできない。
既に第一線を退いたとはいえ、お祖父様はこの国の英雄。
その求心力は衰えることがない。
その上、現在の騎士団長がメレーゼ伯爵というのも功を奏した。
メレーゼ伯爵は、騎士団に席を置いていただけで実務経験はほぼほぼない。
だというのに、エルリア妃とその配下が強引に騎士団長の地位に彼を据えた。
それを快く思わない者が騎士団内部にも多くいて、そういった反騎士団長派と結託して動かしたのだ。
……本当はお祖父様を巻き込むつもりは、なかったのだけれども。
「……王族よりの徴収で、集められた穀物量のうち四割は我が領地からの徴収でございますが?」
「は……それが何だと……」
「今回の災害の規模を考えれば、食糧が足りていないのは仕方ないことでしょう。ですが、これだけの領地がありながら、何故我が領地からの徴収に頼られているのでしょう?」
「お前のところはそれだけ大きな領地だ。公爵家として、王国に尽くすのは当然のことであろうが」
「何を仰いますか。たった一つの領地で四割を担うことが、どれだけのことか……その意味が分からないとは仰いませんよね?私、この調査結果を聞いた時には驚きましたわ。詰まる所、私どものところからの徴収が途絶えたら一体どれだけの領地の者が飢えるのでしょう。……特に王都は耕作面積が少ないので、すぐにでも危ないかもしれませんね。ですから、私は聞いているのです。今後、どのような方策を取るのかを」
ふふふ、と笑いながら言った。チラリと第二王子派の者たちを見る。
エルリア妃と同じ反応を返す者たちもいるが、自身の領地の貧窮に自覚がある面々は気まずそうに目を逸らした。
幾つかの貴族たちが、私の声に賛同した。
彼らは、既に買収なり同盟を持ちかけた第一王子派と中立派の面々だ。
アルメリア公爵領の保有財産・食糧は他の領地を圧倒している。
それを交渉のカードとして、持ちかけたのだ。
アンダーソン侯爵家も、勿論同盟を交わした一つの領。
血縁関係にあっても、互いに守る領民がいることは同じ。
彼の地は武力を、そしてアルメリア公爵領からは財力を。
二つの領が旗印となって、他の領がついている形だ。
王都に来る前に接触をし始め、王都に着いてから今日この日までも様々な家を駆けずり回り、ターニャにも方々に手紙を届けてもらって何とか形にした。
アルメリア公爵領の北部が第二王子派の領主なのは手痛いが、山で隔てられているものの西部に隣接しているアンダーソン侯爵家とそこから地続きの領地がこの同盟に参加している。
私の声に賛同の声があったのが意外なのか、エド様は顔を僅かに顰めていた。
「そうならぬよう、お前のところから持って来させているのだろう。これ以上の問答は不要だ」
「これ以上は、我が領も無理です。領民たちが貧窮してしまいますから。私は領主代行権限で、以後の徴収を拒否させていただきますわ」
「な……何を世迷い事を!良い、あくまで王家に逆らうというのであれば、軍を用いてそれなりの報復をしてやるからな!」
「その余裕が、王国に……貴方様を支持する者たちにおありでしょうか?王になられるのであれば、ご自身のお考えをよくよくお考えくださいませ」
「五月蝿い!この国は私のものだ!今ここでお前たちを不敬罪として捕らえ、それぞれの領地を没収すればそれで全て解決ではないか!」
自身の言葉に名案だと言わんばかりに、彼は目を輝かせた。
エルリア妃とマエリア侯爵はすぐさまそれに同意し、その他の第二王子派の貴族たちまでもがそれに賛同した。
その瞬間、私は見限る。
横にいらっしゃる伯父様もそれは同じようだった。
「ならば、私たちはこれにて失礼いたしましょう。これ以上この会にいても……不毛なだけだ」
伯父様が、冷めた声で宣言する。
私もまた、伯父様と共に立ち上がる。
そして私たちのその行動に賛同するように、半数近くの貴族もまた立ち上がった。




