表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
189/265

ベルンの旅

「ベルン様、少々休憩を取りましょう」


「……なるべく早く、目的地に到着したいのだが」


護衛であるフォンの言葉に、綱を引き馬を止めつつも反論した。


「急がば回れ、という言葉もあります。まだ疲れは出ていないかもしれませんが、これから先知らぬ間に疲労は溜まっていきます。長い旅路なのですから、こまめに休憩を取られた方が宜しいでしょう」


「なるほど。では、次の街で休みを取るか」


僕は今、モンロー伯爵領に向かって王都を発っていた。

父上が職を辞したのと同時にお役御免となって、これまでの忙しさが嘘のように、暇を持て余すようになって久しい。


王宮では、エルリア妃とマエリア侯爵が采配を奮っている。

王太后はこの食糧難の対策を怠ったと、その責任を取らされるよう形で、強制的に再び隠居させられた。


いつまでも古い因習が残っても仕方がない……この難局を乗り切るには新しい王が、強く国を引っ張っていくべきだ……そう、彼らは主張していた。


別にキッカケは何でも良かったのだろう。

ただ、そこに手頃な理由が転がっていたぐらいにしか彼らは思っていない。


王都では、治安が悪化の一途を辿っている。

食とは、人が生きていく上で不可欠な要素。

……だというのに、それがない。

あるにはあるが、多くの者が買い溜めに走っていた。


皆、先行きに不安を感じているからこそ……だ。

そこに、『金貨に偽物が混じっている』という噂がまことしやかに流れ始めた。

当然、民衆はパニックを起こした。


嘘のように物の値段が上がり、食うに困る者たちが街中に溢れる。

王家で対策をしようにも、度重なる炊き出しのせいで既に王家の備蓄も底をついていた。


……結果、王都はあっという間に廃れていった。

ある者は今の現状に嘆き涙を流し、ある者は憤る。

その嘆きと怒りは大きな渦となって、王都を包む。

大小あれど諍いが争いとなって、結果、より多くの者たちが涙を流す。

誰もが、自分のことでいっぱいいっぱいなのだ。

それに見向きもせずに変わらずに過ごす貴族たちへの不満は、溜まる一方だ。


僕がモンロー伯爵領に向かっているのは、父上の指示に従ってのことだった。

峠を越し、ベッドで起き上がることができるようになった父上は開口一番にそれを言った。


……時間を持て余しているのであれば、国境に面しているモンロー伯爵領地を見て来い、と。

やがて、トワイル国が攻めてくるであろうそこの現状を見て報告しろと。

そしてついでに、貴族の姿を見て来いとも父上は言った。


最後の言葉には首を傾げるばかりであったが、兎にも角にも今は父上の言葉通りモンロー伯爵領に向かっている。


街に入り馬を預けると、街道沿いにあった店に入った。

オープンテラスのような、外に置いてある席に座る。

商品らしい商品はなかったが、街道をひたすら駆けてきた身としては水の一杯がともかく美味い。

フォンの言う通り、意識せずとも身体は疲れていたのだろう。


街道を歩く人々の声に耳を傾けると、誰もが口を開けば不安や不満の言葉を発していた。



「アルメニア公爵領は、何ともないらしいぞ」


「嘘だろう。こんな状況で、そんなことありえるもんか」


「本当なんだって。噂を聞きつけた奴らが、次々と移住を希望して列を成しているらしいんだ」


「とは言っても、ここからアルメニア公爵領なんてどれだけ時間がかかるんだよ。俺のとこには、一昨年生まれたばかりのガキがいるんだよ」


彼はそんな会話を、ここに来るまでの間、何度も耳にしていた。

……遠く離れた地にまで、アルメニア公爵領の話は伝えられているのだ。


その事実に、姉様を改めて尊敬するのと同時に、心配が胸に過ぎる。

その噂を利用して、エルリア妃がどのようなことを要求するのか……と。

そこまで考えて、その度、己の無力さを痛感する。その繰り返しだった。


休憩を終えると馬を引き取り、再び三人の護衛と共に、ただひたすらモンロー伯爵領へと急ぐ。

そこから先、最短距離を最短の時間で駆け抜けた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ