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発覚

「それにしても……さしたる問題もなく、紙幣に移行することができて良かったわ」


「はい。モネダが先んじて準備をしてくれていたおかげでしょう。彼の勇足に、救われましたね」


「ふふふ……独断を咎めるどころか、逆にお礼を言わないとね」


すぐにでも普及できるようにと、私が指示を出す前に既に相当数を製作していたとは驚きだった。

私が了承するかどうかも分からなかった段階で、だ。


「まあ、良いわ。だからこそ、彼はあの役職に相応しい」


彼は自ら考え、行動することができる人。

ターニャたちもそうだけれども、モネダは彼らとは根本的に違う。


彼らはどうすれば私の助けとなるのかを考え行動するのに対し、モネダは自らの信念を……理想を形にするために動く。


それ故に、私と意見がぶつかることも厭わない。

銀行を独立した機関として設立するためには、これ以上のない人材だったのだ。


「一時領内は混乱に見舞われましたが……大きな商会が挙って我先にと金貨の取引を取りやめ、紙幣の取引のみの取り扱いとしたことが、功を奏しましたね」


「そうね。……報告、ありがとう。財と民の部門長を呼んできて貰える?話し合いたいから、会議室の方にお願い」


「畏まりました」


それから、怒涛のように月日が経った。

王都の方では、王が亡くなったというのにさしたる混乱はない。


……それもそうか、と自分で自分の考えに笑う。

王は長いこと伏せっていたのだ……彼の下で働いていた者たちにとって、それまでとさして変わりがないのだろう。


エルリア妃とマエリア侯爵の増長には、目も当てられないそうだ。

既に、アルフレッド様の陣営で要職に就いていた者たちは次々と辞して領地に引っ込んでいる。


その中には、勿論お父様もサジタリア伯爵も。

お父様は体調を考慮してというのも、大きいが。

……向こうがそれを理由にごちゃごちゃ言い出す前に、自ら……といった程だった。

待っていましたと言わんばかりに、マエリア侯爵と懇意にしていた者たちがその後釜に収まる。


この国が、どんどん腐っていく。……斜陽のそれだ。


既に、エド様がこの国の次期王として全てが動き始めていた。


私はそんなことを考えつつ、目の前の書類に視線を落とす。


……幸いなことに、まだこの領地に対して何らあちらも仕掛けてきていない。


それも、いつのことになるのやら。

今読んでいたのは、インフラ整備の報告書だった。


暗い思考を止め、書類に再び集中する。

考えていたものが、形になるのは純粋に嬉しい。

落ち着いたら、工事の様子を視察しに行きたいな……そう、思った時のことだった。


『何ヶ月か、暑い日が続きましたがぁ……その後って、大雨が続くことがこの国には多いんですよねぇ。特に、西部の方で。大体百年周期ぐらいですかねぇ。毎回特にアルメリア領に影響はないので関係ないのですがぁ、一応お耳に入れておこうかと』


ふと、レーメの言葉を思い出す。

……何で、忘れていたのだろうか。


「ターニャ!」


淑女にあるまじきことだけれども、大きな声で私は彼女を呼ぶ。


「お嬢様! お耳に入れたいことが……!」


呼ぶが早いか、彼女がそう言って入ったのが早いか。


「何があったの?」


「水害が発生しました。モンロー伯爵の領地を含め、西部では川の氾濫が起き、甚大な被害を齎しています」


遅かったか……と、私は拳を握る。

馬鹿、馬鹿……せっかくレーメが私に情報を与えてくれていたのに。


これは、引き金だ。

西部にはモンロー伯爵の領地をはじめ、穀倉地帯が広がっている。


収穫前の作物が、たくさん実っていたであろうに。

市場に出回る作物が減る。けれども、多くの領地で備蓄がほぼない。


何故なら各領主が、最低限備えていなければならない物すらディヴァンに売ってしまっているのだから。


……これから、更に国が荒れる。


「ターニャ! すぐに、領地の備蓄を確認して! それと一緒に、大凡で良いから各地の人口の資料を民から持って来て。それから、商業ギルド長に会うわ! その連絡をお願い。セイにはアズータ商会の現地の従業員の安否を確認させて。我が家の護衛から人員は出して良いから」


「畏まりました」


まずは、アルメニア公爵家からの食物の輸出に規制をかけないと。

それは商業ギルドのギルド長と話し合おう。


それから、アズータ商会の被害の確認。

これからしていかなければならないことを頭の中で、思い浮かべる。


……少しだけ、頭痛を感じた。


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