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帰還

三話目です

鐘の音が鳴る……。


辺り一面が、黒で埋め尽くされていた。

私の予想通り、王の葬儀は公表されてからすぐに執り行われることになった。

前々から準備していたのではないか……そう思ってしまうほど、それはもう段取りよく準備が進められて。


棺に縋るようにして、エルリア妃が涙を流していた。

それを取り囲むようにして、王族の方々が佇む。

婚約者でしかない筈のユーリも、勿論といった程で王族の中にいた。


彼女は王の亡骸を見て、さめざめと涙を流している。

エド様はそんな彼女を心配そうにしつつ、寄り添っていた。


王太后は毅然とした態度を崩さず、けれどもその瞳には哀しみの色がやどっている。

第一王子の姿は、見当たらない。

未だ国外にいるのか、それとも……。

彼の行動は、ターニャを以てしても調べきることができないので、不明のままだ。


参列した面々の顔を盗み見ると、多くの人が沈鬱な表情を浮かべている。


それは真実王の死を悼んでいるのか、皆の手前そうしているだけなのか、それとも国の今後を憂いてのことなのか。


私はまるで他人ごとのように、ぼんやりとその様を眺めていただけだった。


葬儀が終わると、私はその足ですぐにアルメニア公爵領に向けて王都を発った。


王の死の報せを聞いたあの日、お母様とベルンには伝えてある。


別れも、済ませた。


お父様の体調が、未だ良くなっていないことが気掛かりだけれども。 ……否、気掛かりなことは沢山ある。


ミモザのことだとか、今後の貴族の勢力図だとか。


まあ……ミモザのことについては、王の喪に服す必要がある以上暫く事態が動くことはないであろうし、何かあったとしてもラフシモンンズ司祭が止めてくれている。


まだ猶予がある以上、調査を続けさせて、その間に領地で作戦を立てれば良い。


今後の貴族の勢力図については……私では、どうしようもないことだし。


兎も角これ以上私が王都にいても、エルリア妃やユーリの格好の攻撃材料となってしまうだけ。

そうして、私は早々と領地に戻った。

屋敷に戻ると、いつものように使用人総出で出迎えてくれる。


「お帰りなさいませ、お嬢様」


セバスが、皆の代表として私に挨拶をした。


「ただいま」


皆を見渡してそう言うと、挨拶もそこそこ屋敷の中に入る。


「セバス。私がいなかった間の報告をお願いするわ。それから、財・民の部門長たちに報告書をまとめさせておいて。あと、モネダにも連絡を入れておいてちょうだい。私がいなかった間の報告を聞きたいのと、今後の話し合いをしたいと伝えておいて欲しいの」


矢継ぎ早に言う指示に、セバスは動じることなく応じる。


「ディダ。帰って来てすぐで申し訳ないのだけれども、警備隊からの報告をまとめて、それを持ってきてちょうだい。特に銀行の警備体制に問題がないかと近況、それからその他紙幣に切り替えた後の街の治安を重点的に」


「はいよ、姫様」


「ライルは各地の人員・物資や設備等にも問題がないか確認しておいて。今後の国を考えると、警備体制の確認は急務。いざというときに、準備が足りませんでしたでは目も当てられないからね」


「承りました」


各々に指示を出しつつ歩き、執務室に辿り着いた。

席に着いたタイミングで、セバスからの報告書が次々と運ばれてくる。


私がいない間の報告について、セバスは日々こうして書類という形にして残してくれるようになっていた。


一度に口で言われるよりも、その方が私にとってもありがたい。


本人が来る前に読み進めてしまおうと、早速目を通し始めた。


読みつつ、今後至急で対応が必要なものとそうでないもの、また、確認すべきものとそうでないものに分けていく。


そうして、計っていたかのような絶妙なタイミングでセバスが入って来た。


彼の言葉に耳を傾けるというより、読んだ報告書から様々な確認や質問をする。

セバスの役目は、各所の取りまとめと調整。

つまり、彼に聞けば大凡の形を掴むことができる。


執事としての役目で慣れているのか、それとも彼の気質故なのか、彼は関係各所の調整がとても上手い。


部門を跨って進む案件は彼が潤滑油となってくれるからこそ、安心して私は彼に留守を預けることができる。


「……紙幣導入以外のところでは、さしたる問題はないようね」


「はい。王都にお送りした至急の決裁以外では、特に問題なく進んでおります。動き出している案件については、特に軌道修正が必要になるような問題も発生しておりません。強いて言うのであれば、紙幣導入の案件のためにかなりの人員が割かれてしまっていることでしょうか」


「そうよね。……とはいえ、悠長にしている場合ではなかったからね。申し訳ないのだけれども落ち着くまではこの状態が続くわ。学生の職務体験を、少し早いけど募集しようかしら」


アルバイトという形で一定期間学生たちを雇い入れることを、私の破門騒ぎ以降、定期的に行なっていた。

学生たちにとっても、良い経験になるということで。


「それは良いかと思われます」


「皆が倒れたら元も子もないしね。……ただし、紙幣の案件には携わらせられないわ 。そこのところは徹底させておいて」


「畏まりました」


ふう、と私は息を吐いた。


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