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三話です

ユーリを囲んでいた面々が敵対したときは、ただただ面倒だな……と思っただけだったのに。

ここまでのことを仕出かしてくれると、ディヴァンに対しては逆に闘争心が沸き立つ。

……負けたくないと、私自身が奮い立つ。


「一先ず、モネダに手紙を書くわ」


「どのようになさるのでしょう?」


「アルメニア公爵領で流通する貨幣は全て回収。領内では、紙幣を取り扱う」


「紙幣、ですか?」


「ええ。金兌換券と言ったら良いかしら? 金貨と交換することを保障した紙よ。幸い、実は案が彼から出ていたのよね。手形が重さもなく持ち運びもし易すく便利だから、一般的になれば良いのに……てね。この前見本も持ってきていたのだけれども、流石に領内で独自のそれを使うと王宮内を悪戯に刺激するかしら……と保留にしていたのよ」


独自の施策を取って、既に刺激をしている自覚はある。

今まで許されていたのは、各領地にかなりの裁量を任せているこの国の体制と、その裁量のギリギリ範囲内であるという主張をしつつ王宮に提出していたため。


いつも報告書を提出するときは、ディーンとああだこうだ言いながら考えたものだった。

勿論、父の存在も大きいが。


それから、王宮内の権力闘争が激しいという状況。

王宮内の面々が一領地のことにかまけていられないと、そんなことよりも王宮内での地位の確立を優先させている結果だ。


私が何をしているのか、彼らが気づくのは施策が始まってそれが軌道に乗り出した時。

失敗すれば良いと、手をこまねいている者たちもいるらしい。


それはともかく、紙幣を導入するということはこの国の統一通貨からの脱却。


流石に何とも言い訳しようもないと思っていたけれども……今の状況では、利益と損を天秤に掛けて利益の方が大きい。


市場に混乱が起きる前に、早々に取り掛からなければ。


モネダの行動力には、感謝する。

いつでも稼働が可能と言っていたから、あとは領官を動かすだけだ。


「金貨、銀貨、銅貨は全て銀行で預かるわ。勿論、純正か確認させて貰った上でね。不純物が混じったものに対しては、それ相応の価値しか認めない。幸い、まだ一般にはそんなに出回っていないようだからね」


「他領からの金貨についてはいかがするんですか?」


「全て、確認させて貰うわよ。アルメニア公爵領内では、今後紙幣しか使用できないように徹底させる。もし他領から金貨の持ち込みがあった場合は、全て銀行で交換させてからじゃないと使えないように発布する」


「銀行での確認は、どのように……?」


「モネダからの報告にあったけれど、偽通貨は若干軽いのよね。だから、重りで測ればすぐ判明する」


「ですが、お嬢様。先ほどお嬢様が仰られていた通り、その紙幣とやらを導入すれば、いたずらに国を刺激するのでは?」


「サジタリア伯には伝えておくわ。彼がまだ財務大臣の地位にいる間に話を通して、既成事実を作ってしまう。それに、あくまで金貨と交換できる券を流通させる……つまり、王国の貨幣を廃止するつもりはないとでも言っておくわ。まあ……その内そんなことも言ってられなくなるわよ。私は私の領地を守ることが最優先事項。王宮で椅子取り合戦に目がいっている間に、進めてしまえばそれまでよ。それから、セイを呼んできて!」


ターニャは、すぐに行動に移す。

セイ王都の競合他店を視察しに行ったり、王都のアズータ商会の様子を見るために私が王都に来るタイミングで共に来ていた。


「どうされましたか、お嬢様!」


セイが、少し息を切らせながら室内に入ってきた。

同じく共に来たターニャは涼しい顔をしているのだけれども……今は、それにツッコミをいれている場合ではない。


私は、これまでターニャと話していた内容をセイに包み隠すことなく全て伝えた。


全て話し終えた頃、セイの顔色は青ざめていた。

……事の次第の大きさを瞬時に察してくれたようで、何よりだ。


「アズータ商会は、他領での活動も多くしております。如何いたしましょうか?」


「王都内にある喫茶部門は、正直金貨を使うようなことなんてないでしょう?」


「ええ、まあ……平民も通えるようにという価格設定になっているので」


「金貨が出たときには、お客様に断りを入れて裏で必ず重さを測って。で、軽い場合は別の金貨に変えて貰って。他に金貨がない場合は、仕方ないから受け入れて。受け入れた場合、それは別に管理をしておくように。軽かった回数は、交換して貰えた場合も含めて数えておいてちょうだい。軽い金貨の受け入れが十枚を超えた時点で、不純物の量を考慮してその分を全ての商品で値上げをするわ」


「畏まりました。至急、金貨の重さを測るようの測りを全てのお店に配給させます。それから、その分の重りも全店に手配致しましょう」


「お願いね。……ああ、貴族の会員制のお店は最初から値上げをするわ。そのお店以外でも、高級品については全てそうするわ。値上げするものの候補リストを、至急作って私に回してちょうだい。金貨の受け入れが多いし、今の時点で軽い金貨がないかの確認もさせておいて。理由は、全て伏せておいて。特に、客への説明をするときにはね」


「仰せの通りに」


矢継ぎ早に言う私の言葉を全て受け入れ、セイは一礼した。

以前のような危うさは、既に今の彼からは感じられなかった。


肩肘を張らず、常に冷静沈着に。

それは、領地にいるセバスの姿を思い起こさせる。

セイは、一礼をすると来て早々すぐに部屋を退出して行った。


「さて、領官たちへの指示とモネダへの指示等色々出さなければならなくなった訳だけれども……ターニャ。もし、調査のことで他に報告があったら、先に今しておいてくれる?」


「恐らく、第一王子はこの件について勘付いていると思われます」


「まあ……どうして、そう思うの?」


「実は調査中に、他の諜報員と接触致しまして……」


ターニャの報告に、私は目を丸める。

ターニャ相手に交渉ができる相手ということも驚きだし、身の危険を感じさせるのだから尚の事。


「確かに貴女の言う通り、第一王子の諜報員の可能性が高いわねえ……」


第一王子……アルフレッド様は、随分優秀な部下を抱えているようだ。

私の中で、彼の評価が少し上がる。


「まあ、そこまで優秀な部下がいて調べさせているのなら、当然対抗策も実行している筈よね。まあ、一応お父様には偽金貨の件については報告するけれども後は任せましょう」


ターニャは、若干驚いたような表情を浮かべる。

そんなに意外に思うことなのか……と、私は笑った。


「私が糾弾して、解決に向けて動くと思った?」


その問い返しに、彼女は小さく頷く。


「しないわよ。自分の力量は弁えているわ。私は、領地のことで手一杯だもの。アルメリア公爵領の民たちが一番大切。その大切なものを前にして、他にかまけている余裕はないわ。……それに、今の王都じゃあ、私がどんなに頑張って裏から手を回しても、上にいるのがエルリア妃とマエリア侯爵一派じゃねえ……」


どうしようもない。良くて握り潰される、最悪その共犯にでもされそうだ。


「それにしても、メッシー男爵のことを調べろ、ねえ……。まさか、彼がシーズン中にもほぼ王都にいないことは、そういうことだったの。モンロー伯爵には情状酌量の余地がないわね。それについても第一王子が掴んでいるのなら、これ以上心強いことはないわね」


私の言葉に、ターニャは無言で頷いた。


「さて……それじゃあ、今から先ずは領官たちに指示を出すための手紙を書かないとね。……ターニャは、ラフシモンズ司祭に言伝をしておいてちょうだい」


「畏まりました」


「ダングレー侯爵家の結婚を引き伸ばさせて、そう伝えてちょうだい」


「ああ、なるほど……」


この国で結婚をするには、ダリル教の承認がいる。

神様に結婚をすることを報告し、神様の見守る中で互いに将来を共にするというのを誓い合うということが重要なのだ。


ダリル教の承認とは、神様に報告した結果、了承を得ましたということ。

つまり、ダリル教からの承認を得るまで結婚式は開けないということだ。


「エルリア妃から何らかの圧力がかかってくるかもしれないけれども……何とかして引き延ばすようにと。方法は、任せるわ。これで貸し借りはナシでとも伝えておいて」


ヴァンを排除できたことで、前教皇一派を丸々排除することができたとの喜びの手紙が届いたのは、ほんの少し前のこと。


手紙には借りが一つできたとも書いてあったことだし、ここは大いに利用させて貰おう。


面倒事を引き起こしてくれたけれども、当初の目的通りに事が進んだのだから、ヴァンをあの時引き受けて良かったと今心の底から思う。


「承りました。必ずや、お伝え致しましょう」


「お願いね。ミモザの件については、引き続き監視をしておいてちょうだい」


「畏まりました」


ターニャが去った後、私はセバスや領政のそれぞれの部門の責任者へと手紙を書き始める。

特に、民と財への手紙はそれはそれは分厚いものとなってしまった。

一心不乱に書き続け、気がつけば陽が沈んでいた。


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