噂話
三話目です
「……それにしても、大変そうだったね」
ルディの言葉に、私は思わず苦笑いが浮かぶ。
「まあ、そうよね。一体何をしたかったのやら……」
「ベルンも勉強になっただろう?」
「あー……まあ」
言葉を濁すベルンの返しに、私は首を傾げる。
「……勉強?」
「女性たちの言葉の本音と建て前について。……アイリスとユーリ様の言葉回しは流石の一言だったね」
「あら……。因みに、ルディにはどう聞こえたの?」
「ユーリ様の言葉が『いつまでも弟ばかり連れ回しているのね。仕事ばかりで男ができていないのね』かな。それに対するアイリスの言葉が『人の男を奪っておいて、よく言うものね。挙句王族でもないくせに王族のように振る舞っているのだから、怖い女ね』という感じかな」
「うふふ……私もそう思うわ」
ユーリの言葉は、確かにルディの言うように聞こえたし、それを意識して言ったというのも事実だ。
因みにドレスのくだりも、そんな感じで、言葉の中に棘が互いにたっぷり入っていた。
「アイリスもこういった場にはあまり出ないのに、全くそんな感じがしないよね。純粋にすごいと思うよ」
「……それは、褒めて貰っているのかしら?」
「誉めてる、誉めてる」
「もう、ルディったら」
そんな会話に三人が三人とも、吹き出して笑った。
まるで子どもの頃に戻ったかのようなこの光景に、少し懐かしさが込み上げてくる。
「……でも、確かにルディのことを本当に久しぶりに見た気がするわ。……まさか、あまりにもこういった場に出なさ過ぎて、逆に上司の方が怒ったとかかしら?」
「いや……流石に、それはない。上司は少し込み入った仕事をしていてね。一応じい様の名前が僕にはあるから、僕が動くと大ごとになってしまう可能性があるって護衛を外されているんだ。代わりに、王都の仕事を続行している」
「へえ……なるほど。王都で仕事なんて、気が抜けなくて大変そうね」
「それはベルンも同じだろう?」
ルディの問いかけに、ベルンは苦笑いを浮かべていた。
「随分と頑張っているらしいじゃないか。ルイ叔父さんは、昨今の情勢が原因で起こる幾つもの厄介な業務に掛り切りになってしまっている。そんな中、ベルンが通常業務の七割がたを取り仕切っていると聞いたよ」
「まだまだだよ。最終的には父様に確認して貰っているし」
「それは当然のことだろう。最終的に決裁をするのは、ルイ叔父さんなんだから。その見極めも含めて、ベルンはよくやっているよ。流石はアルメリアの血だな」
ベルンとルディの会話に、正直驚いた。
ベルンがお父様の下で修行をしたいたのは知っていたけれども、まさかそこまでしていたなんて。
それにしても、相変わらずベルンとルディは仲が良い。
アルメニア公爵家とアンダーソン侯爵家の仲が良い為、シーズン時期にはよく従兄弟同士で会っていたというのもあるだろうし、年が近い同性だからというのもあるのだろう。
今も軽口を叩き合って、楽しそうに笑っていた。
大きくなり、互いに忙しくなって中々会うことができなくなったからこそ、本当にこの光景は懐かしい……と、私は和みつつ彼らを眺めていた。
「二人とも、少し失礼させていただくわね」
「お姉様、どちらへ? 私も共に行きます」
「身支度をする場に、貴方が共に行くと? ……大丈夫よ、真っ直ぐ行って戻ってくるから」
私はそう言って、バルコニーから室内に戻る。そして、控え室を目指した。
こういう舞踏会や催し物の時に必ず女性・男性用の控え室がそれぞれ用意されている。
そこでは休憩をしたり、身支度を整えることができるのだ。
二人が心配するでしょうし、私自身変な騒動を起こしたくないのでさくさく行って身嗜みを整えて、さっさと戻ろうと思っていた。
城内は舞踏会を行なっている故か、会場を離れると随分静まり返っている。
同じく控え室に行く女性が多いかと思ったら、その姿も見当たらなかった。
ふと、何かを囁き合う小声が耳に入った。
……まあ、こういう貴族が集まる舞踏会で、一歩会場を離れれば噂話に興じる人たちが現れるのも珍しいことではない。
小声が聞こえてくる部屋をさっさと突っ切ろうとして、けれども話の内容が聞こえてきて私は思わず足を止めてしまった。