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序章

二話目です

皆が自然と頭を下げる。

勿論、私も周りに合わせて頭を下げた。


王太后様を筆頭に、エルリア妃とエド様。……どうやら、今回も王と第一王子は欠席らしい。

そしてエド様に続き、彼に手を引かれるようにしてユーリが現れた。


その光景を目にして、『どうしてそこにいるの!』と、思わず目を見開いてしまった。

何せユーリはエド様の婚約者……そう、まだ婚約者なのだ。

将来の王族というのは確定しているけれども、婚姻を結んでいない以上、こうした公式行事で王族として奥から共に現れることは、本来ならばありえない。


かつてのお母様のお言葉を借りるならば、『婚姻する前に、何があるか分からない』からだ。

エルリア妃も長年妃の位置にいるのだし、そもそもマエリア侯爵家の令嬢として貴族として当然頭に入れなければならない礼儀作法については人一倍明るい筈なのに。


それでもああして一緒に現れることを許したのは、それだけユーリがエルリア妃の心を掴んでいるということだろう。

何より、ユーリは恐らく第二王子派の貴族たちの心をも掴んでいる。


……でなければ、ああして登場することをエルリア妃も流石に許すことができなかっただろう。


……内心はどうか分からないけれども、少なくともああして現れることを強行できてしまう程に、彼女は社交界で地位を確立しているのだと思うと、私は背筋が凍るような思いがした。


今日の彼女のドレスはアイボリー色で、胸元に大きなリボンがついている。腕のところにも同様にリボンがついていて、端には幾重にもレースが重ねられていた。


かつて彼女が着ていたドレスは、彼女らしい可愛らしさが前面に押し出されていたものだったが、今はそこに王族としての煌びやかさが加えられているようだった。


王族の方々が、彼ら専用の豪奢な椅子に座った。

そして再び、楽員達が音楽を奏で始める。

それから、今年社交界デビューをする子たちが次々と現れた。国によって社交界のマナーは違うし、こういったオンパドールの形式も全く異なるらしい。


タスメリア国では、昼の間にデビューをする子たちが一人一人、謁見の間にて王族の方に挨拶を行う。

そして夜に、こうして多数の貴族の面々にお披露目をするのだ。


現れた彼らは、男の子たちは胸元に、そして女の子たちは頭に生花を飾っている。

前世で見たイキシアのような薄いピンクの花だ。

花言葉が前世の知識のそれと同じかどうかは知らないけれども、イキシアの花言葉は『誇り高い』。……貴族として誇り高くあれ、ということかしら。


更に女の子たちは白色のシンプルなドレスを、男の子たちは黒色のスタンダードな礼服を身に纏っていた。

男の子たちはそれぞれのパートナーの女の子たちをエスコートしつつ、ホール中央に並ぶ。


……そして彼らは、踊り始めた。

彼らが踊り終えると、周りで見ていた面々は拍手を送る。


……ここからは、通常の舞踏会になる。私もベルンと踊り、それから数人、メッシー男爵のところでお会いした方々とも踊った。


何曲か踊った後、休憩のために再び壁際に戻る。

シャンパンを手に、私は舞踏会の景色を眺めていた。

横には、同じタイミングで戻ってきたベルンが佇む。


ふと、視界の中にエド様とユーリ様が映った。どうやら、彼らも踊っていたらしい。

婚約者同士、何曲もパートナーを変えずに踊っていた。

その近くで、ミモザとダンのカップルも踊っている。

友達であるミモザが遠くに行ってしまったような寂しさを感じつつ、彼女の踊りに見惚れていた。


「……お姉様」


横からベルンに声をかけられて、我に返った。

彼の固い声に、どうしたの?と問いかけようと思ったが、彼の視線の先を見てすぐにその訳が分かった。


曲が変わると同時に、何故かエド様を連れたユーリが近づいて来ていたからだ。


接触したくないと、私は周りを見てみたけれども、親しい面々は生憎と近くにいなかった。

その間にも、完璧私に狙いを定めているらしい彼女は、ニコニコと微笑みながら真っ直ぐ近づいて来ている。


あの様子では仮に私が他の人と話し始めたところで、逃げられないだろう。

私は諦めて腹を括ると、真っ直ぐと彼女を見つめた。

ユーリとエド様は大分近づいて来ていて、周りも私たちに気がついたのか固唾を呑みつつ注目しているようだった。


「お久しぶりですね、アイリス様。ベルン」


「ご無沙汰しております、ユーリ様」


ニコリと微笑んで言った彼女に、私も笑顔で言葉を返す。

横でベルンは静かに会釈していた。


「アイリス様のお話を、色々な方から聞いていますよ。お仕事、頑張っていらっしゃるんですねえ。王都に中々いらっしゃらないのは仕方のないことかもしれませんが、皆様寂しがっていますよ。今回のエスコートもベルンですが、他の方々とも是非交流してください」


「まあ……ご助言、感謝致します。ユーリ様の方こそ、慈善事業にお力を入れていらっしゃるとか。流石エドワード王子の婚約者様ですわね。先ほども堂々としたご入場でしたわ」


「貴女にそう言っていただけると、自信が持てますね。そういえば、アイリス様。今日も素敵なドレスですねえ。また、新作ですかぁ?」


「ありがとうございます。ユーリ様にお褒めいただき、光栄ですわ。こちらは、アズータ商会とマダム・クレジュール共同での新作です」


「まあ……。私もそのようなドレスを着てみたいけれども、アイリス様のように似合うか……。アイリス様がそのように完璧に着こなしてしまうと、中々後には続けませんわね」


「そのようなことは……。ユーリ様の可愛らしさを引き立たせるデザインもございますので」


「……ユーリ。そろそろ……」


私たちの会話を遮るように、エド様が彼女に声をかける。

一瞬エド様と目が合ったけれども、まるで汚らわしいものでも見たかのように顔を顰めて視線を逸らされた。


……前の時のように変に突っかかられるよりは、面倒がなくて良いか。


「はあい。じゃあ、アイリス様。これにて失礼致しますわ」


あっさりと、ユーリは彼に従って去って行った。


「ふう……」


疲れが、どっと押し寄せてきて、思わず溜息が漏れる。


「何か飲み物を、飲まれますか?」


「いいえ、大丈夫よ。ありがとう、ベルン」


ベルンの言葉に感謝しつつ、そんなに疲れが表に出ているのかと気を引き締め直す。

ふと、視界の端に見覚えのある人物が映った。


「……久しぶりですね、ルディウス様」


「久しぶりです、アイリス様、ベルン様」


そこにいたのは、私たちの従兄弟であるルディウス・ジブ・アンダーソンだった。


「珍しいですわね、普段はお仕事がある、とあまりこういった場には顔をお出しにならないのに」


「上から、必ず出るようにと言われてしまったのですよ」


「まあ……」


彼の言葉に、クスクスと笑いが込み上げてきた。


「折角ですし、ゆっくりとあちらで話しませんか? それとも、まだお回りになられますか?」


「いえ、大丈夫です」


そして、私たち三人は少し離れたところにあるバルコニーに出た。


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