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魔法

二話目です

煌びやかな、王宮。



その美しい光景の中にいるというのに、私の心は沈む。

ここが、まるで処刑台のようにすら見えてくるほど。


何せここは、敵地のようなものだ。

……ここぞとばかりに、エルリア妃とマエリア侯爵家が我が物顔で中心にいるのだから。




ベルンにエスコートをしてもらいながら、ホールに足を踏み入れた。

途端、多くの目線に晒される。

……その視線を受け止めつつ、笑え、と心の中で叱咤した。


「久しいですな、アイリス様」


「ご無沙汰しております、サジタリア伯爵」


一番目から随分濃い人と話すことになったな……と内心息を吐きつつ、当たり障りのないことを話す。



未だ財務大臣として第一線で活躍されているであろう彼は、けれども以前会った時よりもどこか老けてしまったように感じられた。

それは純粋に年を経てなのか、それとも激務故なのか……。

後者の場合、その理由は純粋に王位争いのせいなのか、それとも何か財務面でのっぴきならない理由があるのか。

怖くて聞きたくないと思いつつ、どう会話から引き出していこうかと考える自分に一番鳥肌が立つが。



「アルメニア公爵殿のご体調は、いかがでしょうかな?」


「ご心配いただき、父に代わって御礼を申し上げます。……父は、大事をとって養生しておりますが、元気でおりますよ。母が目を光らせておりますので、だいぶゆっくりできているようで、前よりも顔色が良くなったように思えるぐらいです」

「ほう……それは良かった」


「むしろサジタリア伯爵の方がお顔色がすぐれないかと。最近お忙しくしていらっしゃるのでしょうか」


「ふむ……確かにそうかもしれませんな。……実は私も、もう少ししたら領地に一旦帰り療養しようかと」


「まあ……」


なんとか顔には出さないように堪えたけれども、あまりに大きな衝撃が胸を襲っていた。


ありえない、という一言が頭の中を占める。


サジタリア伯爵は財務大臣。父と同じく政務に追われ、まとまった休みでもなければ領地に帰ることは中々難しい。


王位争いが激化し、王宮内でも椅子取りゲームが発生している今この時に、まとまった休みを取る? ……追い落としてくれと、言っているようなものではないか。



以前の夜会で、あれだけ第一王子の描く未来が最善だと宣っていたというのに。


第一王子派の中でも上の地位や権力を持つ彼が追い落とされてしまえば、第一王子にとってどれだけの痛手か分かるはずだというのに。


それとも、マエリア侯爵たちの工作によって、休みを取るしかない状況になっているのか。……それが、一番可能性として高いような気がする。


「……父が、倒れたからでしょうか」


父が倒れたことで、自身の身を省みたのか? ……周りの耳を気にしてそう取れる言葉で、あえて問いかける。


サジタリア伯爵なら、私の一番聞きたい真意に気づいてくれる筈だ。


「是でもあり、否でもありますな。都会の喧騒に、儂も周りも疲れてしまいまして。領地に戻って身体を休め、必要とされる時に発揮できるよう力を溜めようかと。いやあ、儂もこの年ながらまだまだ夢を手放せないもので」



……第一王子から離れた訳でもなさそうだ、と彼の言葉から推測する。


「そうでしたか。……それにしても、今この時に貴方様がいなくなってしまえば、財務の方々も頭が痛いのでは? 巷ではどうやら食物の値が上がったと不平不満を言う者が出始めているとか」


「随分と王都の事情に明るいようですな。まあ、そうでしょうな。……儂がどうにかしようにも、自然と起こったものではない故どうしようもないんですよ。昨今の商人は目敏いですからなあ……」


「そうですね。私も冷や冷やさせられましたもの」


私たちは目を見合わせて笑った。


私もそうだが、サジタリア伯爵の目は笑っていない。互いに互いの目の奥に見え隠れする真意を伺っていた。会話の中に潜んでいた真意を、互いに読み取れたかどうかを。



目は口ほどに物を言うとは良く言ったものだ。

「それでは、儂はこの当たりで失礼させていただきますぞ。あまり華を独占していれば、他の者たちから睨まれるでしょうから」


そうしてサジタリア伯爵は行った。

……色々聞きたかったことが聞けて満足のいく時間だった。

会場に視線を向けて辺りを眺めていれば、ふと見知った姿が視界の端に写る。



……あれは、ミモザだ。


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