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出発

「結婚、か……」


結局、その話は王族に話を通すとのことで、結論が出ないまま宙に浮いた状態だ。

即決できるような問題ではないので、仕方ないといえば仕方ないのだけれども……。


そもそも王族に話を通すといっても、誰にするのか?ということに気がついた。

王様……病に倒れて公務に携わっていない。エルリア妃は論外。王子達には決定権は当然ないし、どちらが王になるかで、後々話が拗れてしまう可能性がある。

となると、やはり王太后様かしら?

……そもそも、今の王族の決定権はどなたが持っているのかが、私には分からない。


「失礼致します、お嬢様。マダムよりドレスが届きました」


よくぞ間に合ったなと内心感心しつつ、ターニャにして貰うがまま支度を始めた。


鎖骨が見えるほどざっくりと空いていて、胸元は濃い青の紗が重ねられている。その紗には真珠が縫い散らばめていて、光を受けるたびにキラキラと輝く。

腰元は絞られていて、薄い水色からだんだんと下にいくほど濃い青というようにグラデーションになっていた。

プリーツのような形になっていて、動くたびにそれが揺れる。


私がマダムに特にお願いしたのは、このグラデーションの生地を使うこと。


実はこのグラデーションの生地はアズータ商会の新製品。

マダムがこんなのがあったら良いなというアイディアを、アズータ商会の開発者たちが知恵を搾って研究に研究を重ね実現させた一品だ。何でも、織り方に工夫があるらしい。


アイディアをいただいているので、マダムのところに優先的に卸すという契約。


本当は何対何かで利権をと話を持ちかけたのだけれども、マダム曰く『素敵な布を確実に手に入れられる権利だけで十分』とのことだった。

……マダムらしいといえば、マダムらしい。

大まかな形は私が注文をつけ、細かなところは、マダムとターニャが熱く論議した末に決まったものだ。


緩く髪を編み、ダイアモンドの髪飾りをつける。最後に、チョーカーをつけて完成。



今日は社交シーズンの始まりを告げる、王族主催の舞踏会。


十二〜八歳の貴族の子息・子女たちが王に挨拶をし、社交会デビューを果たす今回の会は、地球でいうところのデビュタントに近い。

因みに年齢に幅があるのは、各家に判断を任せているからだ。

……子どもが一人前として扱われて良いかどうか、ということを。

早くにデビューをすればそれだけ人脈作りの機会を与えられて有利だが、デビューを果たせば子どもだからという甘えは許されなくなる、

狐と狸の化かし合いに、幼気なカモを差し出すようなものだ。

なので大抵は少し経験を積んだ十四、五でデビューをさせる。

あまり遅いと今度はよほど問題があるのだろうと、変に勘ぐられてしまうし。



因みに、私は十三でデビューをを果たした。

リスクよりもメリットを採ったエルリア妃の意向でエド様がその年齢でデビューをするとのことだったので、婚約者の私もという訳だ。

……まあ、それも全て過去の話か。



支度が終わってから然程待たずに、部屋にベルンが迎えに来た。


「お待たせ致しました」


「いえ……それよりも、本当に良いの?」


私の問いかけに、ベルンが首を傾げる。


「良いの、とはどういう意味でしょうか?」


「今日のエスコートよ。というか、いつもお願いをしてしまって……本当に申し訳ないわ」


公式行事では、常にベルンにエスコートをして貰っている。


仕事ばかりの私に出会いなど当然なく、さりとて一人で行かせるのも……ということでお父様がベルンに言っているからだ。


私に気を使うよりも、そろそろベルンに妻を見つけさせて欲しい。


共に行く時は、本当に番犬宜しく側にいるのだ。

……一応、パーティーは出会いの場という側面もあるのに。

次代のアルメリア公爵家を担う者の誕生は、今の私の立場上望むものだ。

……とはいえ、ユーリの時のことを考えると頭が痛いが。

一応ユーリのことは吹っ切れているようなのが、救いか。



「仕事ばかりで、出会いなどないので。お姉様は気になさらないでください」


そう苦笑しつつ、彼は私に手を差し伸べた。

それを掴むと、スッと立ち上がる。


「今日も、美しいですね」


「ありがとう」


私たちは軽く話をしながら馬車に乗り込み、そして王宮に向かった。


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