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馬車にて

「……それにしても、アイリス様は肝が据わっていますね」


帰りがけの馬車の中で、モネダがそんなことを口にした。現在馬車に乗っているのは、私とモネダそれからセバス。馬車の外にはディダが御者と共に座っている。


「あら、失礼ね。私だって、随分緊張したのよ」


「全然そんな風に見えなかったですけれどもね。大体、あのメンバーに商談を持ちかけるなんて当初は思いもしなかったですよ」


「じゃあ、モネダは何の為に私が彼らを呼んだと?」


「そりゃ、銀行設立の報告かと…」


「したじゃない」


「いや、そういうことを言っているのではなくてですね…」


思わず、笑ってしまう。私だって随分緊張したし、いかにか細い綱を渡っている状態だったのかも分かっているつもりだ。何せ、作った資料はびっちり3週間使い、かなり細かく詰めたつもりではあるけれども…完全なる新規事業だ。どんなことを問われるか、どんなことを突っ込まれるか気が気じゃなかった。



「けれども、本当に何故学園創設に銀行の預金を使わないのですか?それこそ、道路整備を後にしてでも…」


「交易に流通は切っても切り離せない。物の廻りをよくすることで、金の廻りも良くなる……であれば、早めにそれに取り掛かること、そしてその事業によって民に資金が廻れば、子供達が学園にも通い易くなるでしょう?」


無論、初等部は完全無料とする。けれども、だからといって希少な働き手を喜んで出すとは思えない。それが特に辺境の地であればあるほど。であれば、道路建設という“公共事業”によって民に金を行き渡らせ、景気を活発化させることでそれを黙らせる一手となり得る。


「聡い彼らは、道路整備が飴の1つだと気づいているでしょう。物流は良くなり、工事中に必要な用具の受注・働き手達の食事……彼らの懐も事業によっては大分潤う筈。その潤った分で投資を行い、公爵家に恩が売れて、尚且つ新商品の権利まで譲渡される。…こう考えれば、食いついてくれるかなとも思っていたのよ。あとは、私が食い尽くされないように踏ん張るだけ」


「お嬢様、そこまで考えていたのですか…」


「あら、何も考えてないとでも思った?」


「いや、流石にそこまでは言いませんよ」


「そう?じゃあ、モネダ。帰ったら早速貴方は銀行本部にて銀行を開業して。預金の受け入れ、口座の作成、諸手続きは以前予行した通りよ。それから、道路整備の為の資金を確保。……つまりね?モネダ。これかは暫く貴方に休日はないと思っていてちょうだい。忙しくなるわよ」


「望むところです」


「セバスも忙しくなるわよ。レーメと話し合い、工事の順番を決めて、それからより効率的な道路を作るように。それと工事整備の費用の計算、申請書類の準備を」


「畏まりました。レーメ殿との話し合いは既に済んでおり、費用の計算まで済んでおります。後は、申請を出すだけです」


「流石ね、セバス。その申請書は私に提出して。すぐに目を通すわ。良ければ、モネダに回してすぐにでも始めるわよ」




………………………………………………………………





私の名前は、セバス。氏はない、が…代々アルメニア公爵家にお仕えする由緒正しい家だと自負している。

さて私の仕事と言えば館の管理と、日頃宰相として王都におられる当主様の代わりに領の管理を行うことである。私のお仕えする公爵様の領は広大で、かつ豊かな土地にある故、そこまで管理に労したことはない。…なかったのだが。


お嬢様が領主代行についてからは、その穏やかな生活が一変した。…一言で言えば、忙しい。これに尽きる。私とて、館の管理と領の管理を並行して行っていたのだ…同じ使用人仲間からは“一体いつ休んでいるのか”と問われることが、多々あったものだった。そんな私が、お嬢様の働く量にはただた感服するばかりだ。


正直に言うと…お嬢様が帰ってきた当初、お嬢様は私に全てを一任してしまわれるのであろう…そう思っていた。けれども帰還されたお嬢様は、まず私に会計報告と領制のレポートを提出させると、物凄い速さで読み上げ、精力的に視察に出られた。


その後は、商会を立ち上げると瞬く間に財を成し、現在は領制の改革にと奔走している。…一体いつ休んでいるのか、寧ろ確りと眠っているのかと疑問に思う程だ。


その仕事量と的確な指示には、驚きを通り越して感動すら覚える。この方の為であれば、老骨に鞭を打つことも厭わない。…この方を支え、辿り着く未来がどんなものなのか、楽しみですらある。


1つ懸念事項と言えば、お嬢様が最近おやつれになっていることだ。本人は減量中だから…と仰っていたが、あれは単に減量だけではなく、疲れからではないか…そんな心配が浮かんでくる。今のお嬢様の肩には、間違いなく我が領の未来が懸かっている。それだけ、お嬢様の存在感は日に日に大きくなっているのだ。



お嬢様がお倒れにならないよう、確りと支えなければ。



料理長に伝えて、今日はお嬢様の好物を用意させよう。…そう、商業ギルドの帰り道、1人考えていた。








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