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事後処理と報告

「……なんというかまあ、慣れって恐ろしいものよね」


書類に囲まれながら、独りごちる。

カリカリと羽ペンで字を書く音が響いていた。


机の上には、幾山もの書類。

束じゃない、山だ。

通常業務の決済書類に加えて、この前の騒動の間に溜まってしまった分もある。


……とはいえ、前の教会の破門騒動のときよりマシか。

あれ以降、何か事が起こったときの備えをしてきた。

何も起きなければ良いと思いながら、けれどももしもの時のために。


「さて、終わりっと……」


悲しいことに、事実今回はその備えに助けられた。


「セバスもありがとう」


「お礼ならば、ディーンに。帰る前に、指示と処理をざっとして行きましたから」


「まあ……あんなに慌てて帰っていたのに。ありがたいことね」


彼の名に反応を心の内でしてしまったけれども、幸いそれは表には出なかったらしい。


「失礼いたします、お嬢様」


ノック音とともに、ターニャが入室してきた。

その表情は、若干困惑しているように見える。


「報告がございますが、今、よろしいでしょうか」


「ええ、仕事はあらかた終わったから大丈夫よ。それで、報告とは?」


「はい。二つございまして……一つはドルッセンが、騎士団を辞したようです。また、カタベリア伯爵家が彼を勘当する動きがあります。……恐らく、後者の件については後ほどアルメニア公爵家に正式に通達がくるものと思われます」


「そう……。ドルッセンの動きは?」


「王都に戻った後、姿を消しました。……追いましょうか?」


「いいわ。……今の彼には、何も残っていない。富も、名誉も。あるのは今まで磨いてきたその腕。その腕も、ライルとディダがいれば問題ないと信じている。……だから彼を追うのならばその分、王都の動きを探る方へ人材を回して欲しいわ」


「畏まりました。その様に、取り計らい致します」


「お願いね。それで、もう一つの報告は?」


「ヴァンと今回関わった貴族たちの処断が決まりました。ヴァンは前教皇と同じく毒杯をいただくようです。その他関わった貴族たちは当主を挿げ替えの上、永蟄居とのことです」


ターニャが渡してくれたリストを眺める。


「そう……」


「……あまり、驚かないのですね?」


「国に申し送りをしたときに、ある程度予想をしていたから」


思わず、苦笑いが浮かぶ。


ヴァンは、既に後ろ盾も何もない平民。

……貴族のそれも公爵家に名を連ねる私に謀をしようとして、無事である訳がない。

見逃せば、それはこの国の身分制度を根底から覆すことに他ならないからだ。


今まではダリル教が彼を守っていたけれども、今はあそこにとっても前教皇の血を引く彼は目の上の瘤。


エルリア妃にとっても、余計なことを言われる前に早く処断してしまいたかったというところだろう。


「決まるのが早かったのには少し驚いたけれども……そうなると分かっていて、私は国に引き渡したわ。彼には一度救いの手を差し伸べた。それを拒絶したのは、他ならぬ彼。……ならば、当初の予定通り邪魔な他の貴族たちに消えて貰うために、彼に生贄になって貰っても良いでしょう?」


尤も、やっぱり今回ヴァンと共に処分を受けた貴族たちはエルリア妃たちにとって蜥蜴の尻尾のような末端の者たちばかりだけれども。

とはいえ、アルメニア公爵家の北に位置する領の当主も処分の範囲に入るようなので、充分ヴァンは撒き餌の役目を果たしてくれたというべきか。

……あそこの領主は関税を上げた後も度々ちょっかいを出してきたから、迷惑で堪らなかった。


「確かにそうですね。この手で抹殺できなかったことは心残りですが、お嬢様のために働いて貰ったというのなら、良しとしましょう」


ターニャらしい言葉に、私は思わず笑った。


「報告、ありがとう。刑が確実に執行されたかだけ確認をしておいてちょうだい。実は生きていました、では何が起こるか分かったものではないから。それから、ターニャ。休憩がてらサロンでお茶をしたいわ」


「承知致しました」


ターニャは晴れやかな笑みを浮かべた。


私の体調を慮っているからか、私が休憩を取ると自主的に言うと、彼女は今みたいにそれはそれは嬉しそうな笑みを浮かべる。

その笑みに、私は胸の中に残るドロリとした感情に気づかなかったフリをして、立ち上がった。


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― 新着の感想 ―
イヤイヤ、後ろ盾を失ったドルッセンこそ無敵の人なんだから油断しちゃダメだぞ。 最もそうなったらカタベリア伯爵家が手ずから処分するだろうけれど、それでは手遅れだ。
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