裏話 肆
……けれども、その誓いはすぐに破られた。
お母様が、死んだのだ。
ディヴァンから薬をもらったのだけれども、遅かった。
不思議と、涙は出なかった。
私の心を占めていたのは、憐れみ。
可哀想な、お母様。
負けてしまえば、後に待つのは惨めな死だけなのね。
私は、お母様のようにはならない。
お母様を出し抜いて目にものを見せてやるという目標は潰えたけれど……代わりに、お母様のお役目を、立派にこなしてみせよう。
この国に、愛着も何もない。
だから、どうなっても構わない。
それを以って、お母様を超えた証としよう。
私は、新たな誓いを胸にしまった。
「貴方の言う通り、正妻が亡くなってすぐに男爵は私を引き取ったわね。ある意味、あの男の方が良い教師となったかしら。まあ……滑稽すぎて、笑っちゃったけど」
貴族の子弟が一箇所に集められて、共に暮らす。
大義名分は、貴族たちの親交を深めることと、社会に出る前の予行といったところ。
それも勿論あるのだろうけれども……婚約者を持たない子らにとって、そこは出会いの場。
つまり、学園に入る前にある程度マナーやら何やらを学んでいるということだ。
それを上辺だけ学ばせて入学させるなんて……本当、考えが浅い。
ある意味血縁者でも駒扱いなのだから、清々しいほどだけど。
少しでも家格の上の者と誼を結んでもらいたいという考えだったのでしょうけれども……市井から貴族社会にいきなり入れられて、上手くいくわけないでしょう。
まあ……とは言え、それを逆手に利用して、うまいこと取り入ることができた。
男爵家で学んだことよりも、ディヴァンに学んだことの方がよっぽど役に立ったおかげだけど。
「……そんなこと、どうでも良いことだわね。ねえ、ディヴァン。そろそろ、貴方の番じゃなあい?私を、楽しませてね」
「勿論です」
ディヴァンは、そう言って笑った。
その笑みを見て、私もまた笑った。
公爵令嬢の嗜み 三巻が9月に発売されます。また、同時に漫画版も発売されることになっています。皆様の応援の賜物です。本当にありがとうございます。