決着 参
「……貴方も、懲りないわねえ」
私は、クスリと笑った。
目の前には、牢に入れらえたヴァン。
「アイリス様……!助けてください。突然、ここに入れられて……僕は何が何だか……」
「私が貴方のしたことを、分かっていないとでも思って?」
そう言って微笑みを浮かれば、ヴァンは一瞬驚いたように目を丸める。
あら、そんなに簡単に表情に出してはダメよ。
そう思ったら、笑いがこみ上げてきた。
「随分とまあ、簡単に口車に乗せられてしまって。おかげさまで、隠れていた教皇派の残党と関係のあった貴族たちを燻り出すことができたから、教会からも感謝されてしまったわ」
事の次第をラフシモンズ司祭に伝えれば、彼は早速動いてくれた。
おかげで、彼に恩を売ることもできたし。
成果としては上々かしら。
「……僕が何をしたっていうんだ……」
「皆まで言う必要が、あるかしら?彼らの口車に乗せられて、貴方は旗じるしとなることを選んだ。今回の件とドルッセンを利用して、私を糾弾しようとしたでしょう?」
私と裏組織であるボルティックファミリーが結託して、民に不当な扱いをしている……そこを、ドルッセンが目撃すれば火は完成。
煙をたたせて、私をアルメニア公爵家から追い出すという作戦。
事件を起こしたのではなく、元より起こっていた事件を利用しただけだから、場当たり的なことは多いし、私を糾弾するにも少し弱い。
……といっても、その醜聞を提げてエルリア妃のところに擦り寄られたら、マズかったわね。
エルリア妃に私は狙われているし、彼女の影響力は未だに大きいものだから。
事件そのものとは関係なかったから、元々ヴァンとドルッセンを監視していなければ気づかなかったかもしれないというのが怖いところ……という訳で、二人を監視していたメンバーには特別手当ね。
「ああ……証拠は揃っているから、変な言い訳はいらないわ。貴方の家は、お父様の不正によって既に取り潰しが成っているから、貴方は既に一般市民。取り巻きたちも既に捕まっているか、今回の件で影響力を失ったかよね。何の盾もない貴方が……貴族の私に、今回のようなことを起こして、まさか無事でいられるとは思っていないわよね」
「……許してくれ……!僕は、あいつらの甘言に乗せられて利用されたんだ……!」
ヴァンは、鉄の檻を掴む。
勢いが強くて、ガシャンと大きな音が響いた。
瞬間、私の護衛二人が私の前に立つ。
「……勿論、今回の件はアルメニア公爵家として教会及び国に報告をします。貴方への罰は、教会に身柄を引き渡して国の下に決まるか、公爵領の下に決まるのか、それを教会と協議しなければならないわ。ただ、どちらにせよ……決して軽くない罰が下るでしょうね」
私は、それを言い渡して背を向けた。
背後からはヴァンが何かを喚いているのが聞こえてきたが、何を言っているかまでは聞き取れない。
「……安心したわ」
「どうされましたか?」
「彼の顔を見たら、少しだけ決意が鈍るかもしれないと思ったけれども……」
何せ、前世は平和な日本にいたのだ。
勿論死刑を含めた刑罰はあったけれども、それはどこか遠い国のことのような現実味のない話だった。
それだけに、顔見知りの彼を訴え出ることには躊躇いがあるのかと思ったけれども……。
全く、そんなことはなかった。
ただ、すべきこととして私の中では事務的に捉えている。
そんな、感覚があった。
「……彼で、良かったわ」
一度、チャンスは与えた。
それを蹴ったのは、他ならぬ彼。
反省をしないという清々しいほどの敵役っぷりのおかげで、遠慮はいらないと思えた。
「さて、目的は果たしたし。帰りましょう」




