すれ違い
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「……トーリ!」
場を震わせるような大声は、確かに私の元まで届いた。
ディダにしては珍しい……なんて茶化すことはできないほど、怖いぐらい真剣なそれだった。
一人の男が、ディダの声に反応を示す。
「……首謀者たちの、トップですね」
ボソリと呟かれたディーンの言葉に、一瞬驚いた。
まさか、今回の首謀者のトップがディダの知り合いだったなんて。
トーリは、ディダを見ると一瞬驚いたような表情を浮かべて……けれども、一瞬口角を上げると、そのままその場を離れてディダの方へと近づいて行った。
その場は素人目で見ても、既にボルティックファミリーの方が優位に立っているのは明らかだった。
多くの人は床に伏し、先ほどまでの痛いほどの喧騒は収まりつつある。
そんな最中、トーリはディダと対峙する。
「何だよ、もう出てきちまったか。悪いがもう少し、大人しくしててくんねえかな。どっちにしろ、もう少しで終わりだ。俺も、お前も」
「……そうだな。もう、終わりにしよう」
ディタは、そう言って剣を抜く。
その重々しい口調は、いつもの彼らしくない。
そして、剣を抜く様は彼の纏う空気と相俟って、まるで神聖な儀式のようにすら感じた。
「おいおい、俺にそれを向けるのか!?」
「……ああ。お前が昔のツレだろうが、もう関係ねえ。お嬢様への敵対行為をしたお前を、処断するだけだ」
ディダがそう言った瞬間、トーリは狂ったように笑い出した。
「騎士気取りか!お前も、お偉くなったもんだあ……良かったな、お嬢様とやらに飼って貰えて」
その瞬間、ディダが動き出した。
お祖父様に訓練を受けているディダにトーリという男では、まともに相手取るのに役者不足だったようだ。
一瞬のうちにディダは剣を叩きつけ、そして倒れかけたトーリに追い打ちをかけるように剣を顔面スレスレに叩きつける。
反撃をする間も与えられぬままの事だった。
「……最後に、聞いておきたい」
ディダは、絞り出すような声だった。
既に、ボルティックファミリーと敵方との決着はついていて、動いているのはボルティックファミリーを除いてディダとトーリだけとなっていた。
ボルティックファミリーも、殆どがディダとトーリのやり取りに注目しているらしく、視線は一点に集中していた。
「どうして、こんなことをした?」
「どうして?……ハッ、そんなことを聞いて、どうするっていうんだ?」
「どうもしねえな。ただ、お前をしょっ引く前に聞いておこうと思っただけだ」
その言葉に、トーリは再び笑い出す。
「ハハハッ……しょっ引く、なあ。本当、何様だよ。元は、俺と同じスラムのがきだったくせに!」
その言葉の最後の方は、最早叫びだった。
悲愴感すら、感じられるそれ。
「何で、お前だけが偉くなっているんだ?何で、お前だけが光の道を進んでいるんだ?お前は、俺と同じだろう?!」
「それが、理由か……」
「ああ、そうだよ!この裏街で、のし上がってやろうというのも確かにあったさ。けど、一番の理由はお前だ!ディダ」
トーリの言葉に、一瞬ディダは顔を顰める。
「……何で、お前だけ眩しいところに行っちまったんだよ……」
続けられた言葉を言ったその時、トーリは泣いているようだった。
「トーリ……」
ディダの呼びかけに、けれどもトーリは再び笑い出す。
「だからお前が、堕ちれば良い!堕ちてくれ!堕ちろ!こんな事を仕出かした俺が、お前を仲間だと言ったら、お前の飼い主はどうするだろうな?」
あら、御指名が入ったみたい。
ディーンの方に視線を向ければ、彼は困ったような……それでいて楽しそうな笑みを返してきた。
というわけで、私は中に一歩足を進める。
ディーンは私の後を付いて来てくれている。
ボルティックファミリーの面々は、入って来たのが私だと分かると道を開けてくれた。




