表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
138/265

すれ違い

2/3

「……トーリ!」


場を震わせるような大声は、確かに私の元まで届いた。

ディダにしては珍しい……なんて茶化すことはできないほど、怖いぐらい真剣なそれだった。


一人の男が、ディダの声に反応を示す。


「……首謀者たちの、トップですね」


ボソリと呟かれたディーンの言葉に、一瞬驚いた。


まさか、今回の首謀者のトップがディダの知り合いだったなんて。


トーリは、ディダを見ると一瞬驚いたような表情を浮かべて……けれども、一瞬口角を上げると、そのままその場を離れてディダの方へと近づいて行った。


その場は素人目で見ても、既にボルティックファミリーの方が優位に立っているのは明らかだった。


多くの人は床に伏し、先ほどまでの痛いほどの喧騒は収まりつつある。


そんな最中、トーリはディダと対峙する。


「何だよ、もう出てきちまったか。悪いがもう少し、大人しくしててくんねえかな。どっちにしろ、もう少しで終わりだ。俺も、お前も」


「……そうだな。もう、終わりにしよう」


ディタは、そう言って剣を抜く。

その重々しい口調は、いつもの彼らしくない。

そして、剣を抜く様は彼の纏う空気と相俟って、まるで神聖な儀式のようにすら感じた。


「おいおい、俺にそれを向けるのか!?」


「……ああ。お前が昔のツレだろうが、もう関係ねえ。お嬢様への敵対行為をしたお前を、処断するだけだ」


ディダがそう言った瞬間、トーリは狂ったように笑い出した。


「騎士気取りか!お前も、お偉くなったもんだあ……良かったな、お嬢様とやらに飼って貰えて」


その瞬間、ディダが動き出した。

お祖父様に訓練を受けているディダにトーリという男では、まともに相手取るのに役者不足だったようだ。


一瞬のうちにディダは剣を叩きつけ、そして倒れかけたトーリに追い打ちをかけるように剣を顔面スレスレに叩きつける。


反撃をする間も与えられぬままの事だった。


「……最後に、聞いておきたい」


ディダは、絞り出すような声だった。


既に、ボルティックファミリーと敵方との決着はついていて、動いているのはボルティックファミリーを除いてディダとトーリだけとなっていた。

ボルティックファミリーも、殆どがディダとトーリのやり取りに注目しているらしく、視線は一点に集中していた。


「どうして、こんなことをした?」


「どうして?……ハッ、そんなことを聞いて、どうするっていうんだ?」


「どうもしねえな。ただ、お前をしょっ引く前に聞いておこうと思っただけだ」


その言葉に、トーリは再び笑い出す。


「ハハハッ……しょっ引く、なあ。本当、何様だよ。元は、俺と同じスラムのがきだったくせに!」


その言葉の最後の方は、最早叫びだった。

悲愴感すら、感じられるそれ。


「何で、お前だけが偉くなっているんだ?何で、お前だけが光の道を進んでいるんだ?お前は、俺と同じだろう?!」


「それが、理由か……」


「ああ、そうだよ!この裏街で、のし上がってやろうというのも確かにあったさ。けど、一番の理由はお前だ!ディダ」


トーリの言葉に、一瞬ディダは顔を顰める。


「……何で、お前だけ眩しいところに行っちまったんだよ……」


続けられた言葉を言ったその時、トーリは泣いているようだった。


「トーリ……」


ディダの呼びかけに、けれどもトーリは再び笑い出す。


「だからお前が、堕ちれば良い!堕ちてくれ!堕ちろ!こんな事を仕出かした俺が、お前を仲間だと言ったら、お前の飼い主はどうするだろうな?」


あら、御指名が入ったみたい。


ディーンの方に視線を向ければ、彼は困ったような……それでいて楽しそうな笑みを返してきた。

というわけで、私は中に一歩足を進める。


ディーンは私の後を付いて来てくれている。


ボルティックファミリーの面々は、入って来たのが私だと分かると道を開けてくれた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
役者不足?辞書にない言葉なので、お芝居に参加する役者が不足しているって意味? 実力不足って言いたいのでしょうか?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ