乱戦
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……ターニャとは、すぐに合流できた。
けれども、しこたま怒られた。
まあ、それも当然のことなのだけれども。
とにかく後で聞くから……と説教を後回しにしてもらって、今は走っている。
というのも、ターニャ曰くドルッセンがディダと共にいるとのと。
予想通り、ドルッセンは首を突っ込んで動き回っていたらしい。
そこまでは良いのだけれども、偶々地下道から出てくる男を見つけた彼はそこを怪しいと睨み、そこへ潜り込んで……結果、首謀者の拠点も何もかもすっ飛ばして、ディダの監禁場所に行き当たったとのことだ。
いや、予想の斜め上を行ってくれたわ。
ディダが捕らえられているところを見てもらえれば、ウチと今回の件の首謀たちが共謀しているという根拠が崩れるから、ラッキーといえばラッキーなのだけど。その上、 無実をアピールするのに、使える。
ディダを救出しようとしたところを、背後から突かれて、あえなく撃沈。
今は仲良く眠っている……とのことだ。
一つ余計なことをしてくれたなと思うのは、ドルッセンがそのルートで潜入したせいで地下通路との扉に鍵をかけられてしまったらしく、扉が開かなくなっていたらしい。
というわけで、救出しようにもそっちは使えず……正面から行くしかない。
私を側近なしに宿に置いておくのは不安とのことで、結局私もついてくることになった。
因みに今回一緒に来ていて、唯一この場にいない側近であるライルはといえば、現在警備隊をシメている。
元々首謀者との繋がりのある奴らは早くから、掴めていたらしい。
その裏付けをターニャに任せていて、私が役場に潜入している時に彼女は同時並行でそれを行っていたとのこと。
私を宿に置いてライルのところに行ったのも、その報告のためだったそうだ。
準備が整ったところで、ライルは公開処刑……もとい、規律とは何ぞや護衛とは何ぞやというのを皆に説いているとのこと。
最終的には鼓舞する形で終わりにして、こちらに警備隊と来る……ま、つまりは時間稼ぎね。今からボルティックファミリーの方達が暴れるから、被っちゃたら面倒だし。
彼らには事が終わったら、後始末をしてもらいましょう。
それはさておき、ついに目的地に到着。
海に近いこの場所は、潮の匂いが強い。
場所柄倉庫のようなだだっ広い建物が多く、私たちの目的地も例に漏れずそれだ。
ちょうどボルティックファミリーが正面突破して、今はそれぞれの手勢が向き合っているところのようだ。
中心にいるのは、グラウスとエミリオ。
「少し、失礼します」
ディーンは、そういって脇道の方に駆けて行った。
暗闇の中に姿が消えていくのを、一瞬私は見つめ……けれどもすぐに意識を戻した。
「……エミリオ。テメエ、よくもまあ、仕出かしてくれたな?」
「煩い!グラウス、お前のやり方がぬるすぎるんだよ!俺なら、もっと上手くやれる」
「ハン……こんな狡い方法でのし上がろうとしている時点で、お里が知れてるっつうもんよ。まあ、安心しろい。俺たちの顔に唾を吐きかけるような奴らに加担するような小物でも、たんと相手してやるからなあい。……お前ら、ヤるぞ!」
グラウスの叫びに続いて、鼓膜がビリビリと鳴るような雄叫びが響く。
そうして、男たちのぶつかり合う音がし始めた。
前にディーンが見せてくれたような、あるいはディダやライルが見せてくれたそれらとは違う。
荒々しい、その表現がピッタリだった。
「……どうでしたか?ディーン」
戻って来た彼に、ターニャが話しかけた。
「地下通路から地上への扉の場所も裏門も、ボルティックファミリーが抑えてましたね。奴らが逃げ出すことはないでしょう」
「彼らも抑えるべきところは抑えているのですね。……さて、行って来ます」
ターニャが中に入って行った。
彼女はスルスルと人の合間を縫って進んで行く。
そして、奥の部屋に入って行った。
ボルティックファミリーの方から、敵方の男たちが多くいる方に行っても気づかれずに進んで行く様は流石としか言いようがない。
それから、すぐのことだった。
ディダが一人で部屋から出てきたのだ。
遠目で見ても、彼の頰は赤く腫れ上がっているのが分かる。
恐らく、近くに行けばもっと色んなところにできた傷が分かるだろう。
そんな状態の彼が、そのまま乱戦に突っ込んで行った。
「な、何をしているの……!」
聞こえないと分かりつつも、思わず叫んでしまう。
けれども私の心配を他所に、ディタは進み続けていた。
それは、まるで台風の目。
彼を中心に次々と男たちが薙ぎ倒されていく。
その強さには、ただただ感嘆するしかない。
ボルティックファミリーとディダに挟まれるようにして、敵方の男たちはどんどんその数を減らしていた。
そして、中心部に行ったその時。
ディダは、剣を収めた。




