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冒険 弐

2/3

「……人聞きの悪い……。まるでそれじゃ、俺がいつも騒ぎを起こしているみたいだろう?」


「違いねえじゃねえか」


「騒ぎが勝手にやってくるんだ。俺はそれに対処しているだけ。……それに、騒ぎの渦中は、お前の方だろ?」


ピクリと、男は反応を示す。


「テメ、どこまで知っている?」


「……大凡、と言っておこうか」


グラウスの視線に負けじと、ディーンのそれも鋭くなった。


「なら、さっさとその情報を寄越せ」


「随分と上から目線じゃないか」


鼻で笑った彼の反応に、男たちはピクリと動き出そうとする反応を見せた。


「だから、止せって!」


意外や意外、それを止めたのは他でもないグラウスだった。


「こいつはなあ、そうは見えねえかもしれねえが一種の化け物だ。ここにいるお前ら全員でかかって、二人に一人は使い物にならなくなるぐらいの覚悟が必要なんだよ」


「酷い言い草だ。……半分以上は、いけると思うぞ?」


その言葉に、激昂した二人がディーンに襲いかかった。


けれどもディーンは、一刀の下二人を床に沈める。


動きが速すぎて、正直何をしたのか私にはサッパリだったが。


「質が悪い」


そう言いつつも、グラウスは笑っていた。


「相変わらずだな、ディーン。お前らもこれで分かったろう?……悪かったな。で、情報は?」


「実は話すのは、俺じゃない。……この方だ」


「……女?」


私は視線が集まるのを感じつつ、彼の前に出た。


「……初めまして。私の名は、アイリス・ラーナ・アルメニアですわ」


「アルメニア……貴族のお嬢さんが、何故、こんなところに?」


「勿論、取引をしに」


私がそう言った瞬間、グラウスは盛大に笑った。


「傑作だ!貴族のお嬢様が、俺と取引?……悪いことは言わねえ、さっさと家に帰って高級な菓子でも食ってろ!」


「ええ、私もそうしたいのですがね……貴方たちが、あまりにもノロマさんなので、こうして私が来る羽目になってしまったのですわ」


私の言葉に、ピタリと笑いを止める。


代わりに、痛いぐらいの威圧を感じた。


「……言葉には、気をつけろ。俺は、貴族のお嬢さんだろうがディーンの連れだろうが、容赦しねえぞ」


震え上がりそうなほどの恐怖感が、私を襲う。

けれども、グッと腹に力を入れてそれに抗った。


「どうやら巷では、我がアルメニア公爵家と貴方達ボルティックファミリーとで手を組んで、民達の利益を掠め取っていると噂になっているそうよ。随分私たち、(こす)い存在に思われているのね。まあ、だからこそ……私としても、公爵家としても、早くこの件は終息させたいのよ」


私はそう言って、笑った。

一人この雰囲気の中で場違いにも笑っている私を端で見たら、滑稽でしょうね。


「別に、大したことじゃないのよ。無謀にも自ら動いて私が犬死にしたとしても、公爵家としては。貴方たちと私が手を組んでいなかったと、それを理由にアピールすることができるし。何よりそれを契機に護衛たち……もしくは貴族の子女が殺されたのだから、治安維持という大義名分の下、国軍を動かせるかもしれないわねえ……それで今回の件の責任を貴方たちに押し付けて、ハイ、終わり。実際今回の件の主謀者かどうかなんて、関係ない。さっさと終息できて、尚且つ公爵家の名前に傷をつけないのなら、それで良いの。だから、さっさとやっちゃってくれても構わないのよ?」


私の言葉に、グラウスは顔を顰めた。


「それを聞いて、ホイホイ手を出せるかってんだ」


「あら、そう?……では、話を戻すけれども。私としても、早く終息させたい。貴方たちにとっても、そう。だから、さっさと協働体制を整えて、そうしましょう。これが、私の取引の内容」


「……一つ、聞かせて貰って良いか?」


「何かしら」


「お嬢さんなら、わざわざこっちに来なくとも、俺たちをぶっ潰す戦力なんて幾らでも整えられただろう?」


「ええ、そうね」


「なら、何で……」


「……貴方たちの組織を潰そうが、貴方たちのような組織はなくならない。規制を厳しくしても、より狡猾になるだけ。なら、面倒でも貴方たちを残すように動いた方が良いかと。街の、顔役なんでしょう?」


確かに非合法なことにも、目の前の男たちは手を出してはいる。

けれども住民たちに受け入れられ、むしろ顔役とまで言われているのも事実。


今回の件だって、役人が隠蔽工作を行っているというのもあるが……むしろ彼らに限ってそんなことはしない、何かがあったのだと、心配する声すら上がっていた。


街中での聞き込みでもそんな声があるなんて驚いたし、焼却する書類の中の住民たちの声の中に『他の奴らがボルティックファミリーの名を騙っているかもしれない』だなんて真実に近しいそれを見たときには、更に。


「それとも、貴方たちにそれらの声は値しない?それならば、お望み通り、さっさとウチの者たちに動くように指示を出すけれども」


私がそう言った瞬間、グラウスは笑った。

それはもう、盛大に。

そして、周りにいる男たちまで。



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― 新着の感想 ―
覚悟完了って歌が似合いそうなシーンですね。
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