大冒険 一番
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それから、私はディーンと共に宿を抜け出した。
勿論、彼の助言通り動き易い格好に着替えて。
日が落ちた後の街並みは、昼のそれとは違う顔を見せている。
……それが裏通りなら、なおのこと。
「……こっちです」
ディーンに手を引かれ、私は走る。
「何だ、お前ら……ガッ」
途中絡んできた輩を、ディーンがのしつつ。
彼のことを強い強いとディダとライルは前に言っていたけれども、本当にそうだった。
今だとて……。
「……何だ、お前?」
「ちょっとばかりグラウスに会いたくてな」
「グラウスさんにだあ?」
「てめえ、何寝ぼけたこと言っているんだ?お前みたいな若造に、グラウスさんが時間を割くわけねえだろうが」
「お前の判断するところじゃないだろ?……隠れている奴らも、さっさと出てこいよ」
「……ちっ」
建物の陰から、何人もの男たちが更に現れた。
「こんなに歓迎してくれるとは、な。……それで、通してくれるのか?それとも……」
「通すわけねえだろっ!」
そうして、戦いが始まったのだけれども……圧倒的だった。
明らかに数で劣っているというのに、ものともしないディーン。
ディダやライルが戦っているときと同じような、動き。
城の騎士様たちや、公爵家の護衛隊の動きよりも生々しくて……けれども、目が離せない。
洗練された暴力というものは、こういうものなのかと思った。
僅か、数分。
それで、この場にいた者たちはディーン以外地に伏していた。
「行きますよ、お嬢様」
物陰に隠れていた私を回収して、ディーンは再び走り出す。
そうして辿り着いたのは、海に面した建物だった。
外観だけでいうなら、何ら他の建物と変わりない。
彼は再び私を物陰に隠れさせると、ビルへと走り出した。
そして、門番らしき男の意識を刈り取り気絶させると、すぐさま私のところに戻って来る。
そして、私の手を取って再び走り出した。
「………?」
静かに、けれども急いで私たちは階段を進む。
ファミリーの建物だからどれだけ人がいるのやら、と覚悟していたのだけれども……人っ子一人見当たらなくて驚いた。
一体、どこに?
けれども、その疑問もすぐに宙に放った。
何せ目的の場所に辿り着いたらしく、一瞬彼が扉の前で止まり……そしてそのままノブを捻ってそれを押したのだから。
勢いよく開く、扉。
それと同時に、剣が視界の外から彼に向けて飛び出してきた。
「キャ………っ!」
叫びそうになるのを、唇を噛んで堪える。
その間に、ディーンはその剣を自身のそれで受け止めて押し返し、そのまま剣を持つ男に叩き返した。
「やめい!」
ドサリと男が倒れるのと、野太い声がしたのはちょうど同時だった。
ワンフロア全てを一部屋にしているのか、だだっ広いこの部屋に響き渡るかのような、鋭くも大きな声。
視線をチラリとすべらせれば、それによって壁にいた幾人もの屈強な男たちが、動きを止めた。
「ククク……今日は、何てぇ日だ」
先ほど叫んだ、この部屋で唯一座っている男は、そう言って笑った。
「……久しぶりだな、グラウス」
ディーンはその男に対して、そう言いつつ息を吐く。
「おうよ、久しぶりだな。相変わらず騒ぎを起こしてくれやがって……テメ、いい加減にしろや」
フレンドリーそうな雰囲気から一変、男……グラウスはそう言って威圧してきた。




