ドルッセンの旅 弐
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もう一杯飲もうと、階下で注文すべく下へと降りる。
一階が食堂になっている、街中でも中の中ぐらいのグレードの宿。
どこの宿も満室で、ここも自分で最後の一室だった。
そのため、食堂も人で溢れかえっている。
「兄ちゃん、一人旅かい?」
注文をして受け取ろうとしたところで、後ろにいた男に声をかけられた。
「ああ、そうだよ」
「何かを買い付け……ってワケじゃなさそうだな。よい人でもいるのかい?」
「さあ。お前は?」
「俺かい?俺は買い付けに来たんだけどなあ……」
「……何か問題でも?」
「お目当の商品がなかったんだよ。東部で異国渡りの品を買おうと思ったんだけどねえ。どうやら、東部で少しごたついているらしい」
「ごたつき、か?」
「おうよ。何でも、ボルティックファミリーっつう破落戸というか組織が幅を利かせているらしくてなあ。今は東部は危なくて行けないな」
「上は何をしている?」
「どうやら公爵は護衛たちを出しているらしい。ま、だからいずれ沈静化するだろうよ」
「ほう……公爵な護衛はそこまで強いのか?」
「おうともよ。王都の騎士団も目じゃねえって話だぞ?」
「……何?」
「そんなに睨むなって。例え話だよ。……兄ちゃん、騎士団の関係者か何かか?」
「いや、悪い。騎士団に憧れていてな」
無意識のうちに、目の前の男を睨んでいたらしい。
シワの寄った眉間を、揉んだ。
「そうかあ。そいつは悪かったな。けど、それなら実際行って見てみたらどうだい?騎士団に憧れている兄ちゃんなら、何かと勉強になるだろうし。東部に行くにも、見たところ兄ちゃんなら強そうだから心配ないしよう」
「……ディダも行くかな」
半ば独り言のように、ボソリと呟いた。
聞き取れなかったらしい男は、首を傾げている。
「いや、何でもない。東部は、この領でも有名なのか?」
「そりゃ、そうだよ。この領じゃ、貿易の要だし。噂じゃ、アイリス様が領主代行の地位について一番初めの視察の時も、行ったらしいぞ」
「へえ……」
「この領地を観光するのにも一番人気だしなあ。もしも兄ちゃんが旅行に来たのなら、領都と南部・東部はオススメだよ。アイリス様の功績がよく分かる」
「……そうか。情報、感謝する」
それから、部屋に帰ってこれからのことを考える。
「東部、か……」
もう少し領都を回って……それから、彼女の足跡を辿るというのも良いかもしれない。
そんなことを考えながら、二杯目のエールを飲み干して眠りについた。
お読みいただいて、ありがとうございます。
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誤字脱字があり、大変申し訳ありません。
ご指摘いただいたところは、直していきます。
ひとまず、更新を優先にしていきますが。
また、書籍版の方も一箇所ご指摘の通り誤字があり大変申し訳ありません。
書籍版の方は何度もチェックしているのですが、チェックが甘く申し訳ありませんでした。
今後とも、よろしくお願いいたします。




