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アイリスの独白

5/10

ターニャに寝支度を手伝って貰って、私はベッドに入った。


そしてターニャが出て行った後、私はバルコニーに出る。


夜着だからはしたないけれども、この暗闇だから良いでしょう……なんて自分に言い訳して。


夜空を見て、そして街を見る。

暗くて、よく見えない。

電気のない世界だからこその、闇。

けれどもその闇が、今は心地良かった。


「……捨てきれない願望、か。馬鹿みたい……」


歯を食いしばって……それでも我慢できずに泣いている醜いこの顔を、誰かに見られる心配がないのだから。


私の呟きは、夜の闇に響いて消える。


徐々に増えていく、涙の量。

それと共に、食いしばっても漏れる嗚咽。

……決して、ターニャの言葉を馬鹿にしているのではない。


むしろ、逆だ。

ターニャの言葉が、図星だったのだ。

心の奥底で眠っていた、捨てきれない願望が……私にはあった。


馬鹿なのは、私。

あんな痛い目を見たのに、鍵をかけた筈の気持ちは簡単に溢れていた。


なんて、脆い。

気づいて、しまった。

気づかないようにしていただけだって。

理由をつけて、自身の心すら騙していたのだって。


少し自分と向き合えば、簡単なこと。

頼りにして、甘えているのは何故?

一番辛いとき、感情を出せたのは誰に対して?

醜い嫉妬心がチラリと出てきたのは、どうして?

心では分かっていながら、頭で考えるのを放棄していたのだ。


でも、私はもう……失敗できない。

失うには……大切になりすぎた。

私に付いてくれている皆のことが。領地が。そしてここに住む民たちのことが。


それ以前に、再び愚かな自分に戻ってしまうかと思うと、裏切られたときのあの絶望を思い出すと……怖い。


だから、嫌だったのに。

目で見ることができない不確かなものを、自分の力だけではどうしようもないものを、どうして私は再び求めてしまったのだろう。

怖いのに、それとはまた別に溢れてくる激しいこの気持ち。


「好き……」


声に出してみれば、ストンと心に落ちた。

実際に、彼の前で口にすることはないこの言葉。


だって、私の想いは叶うことはないのだから。


身分を越えた恋なんて、夢物語だ。

シンデレラだって、貴族だった。

ユーリだって男爵令嬢。

だから、告げることはない。


……私は、私の大切なものを捨てることができないのだから。


だから、また私は自分の心を偽る。

そして、目を背ける。

明日、また変わらない笑みを浮かべながら。




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