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報告

4/10

「……お嬢様。ドルッセンが、アルメニア公爵領に入りました」


夜、ターニャの報告に息を吐く。

ディーンに聞いたときは狼狽えたけれども、おかげで今は冷静だ。


「監視をつけて。おかしな行動をするようだったら、即刻阻止して」


「畏まりました」


「いったい、今更何なのよ……」


本音で言えば即刻捕らえて、強制送還したい。


「仕事はどうしているのかしら」


「休暇を取っているとのことです」


「あれを野放しにね……ドルーナ様は何を考えているのやら」


「騎士団に留まるのも、彼に良くないと考えた結果なのではないでしょうか。彼は騎士団こそが全て、正義、至高の団体と考えている模様。誇ることは良いにしても、度が過ぎればそれはただの傲慢。あそこに男子は一人しかいない故、廃嫡するなら親戚から迎えなければなりません。その前に、最後のチャンスを与えたかったのでは?」


「随分お優しいこと……」


思わず、失笑してしまった。


「まあ、良いわ。勝手なことは、許さないから」


決意を込めて拳を、握った。


「そういえば、今日はどうでしたか?」


「えっ!?どうって、何が?」


急な話題の変化に、思わず動揺してしまった。


「何がって、街でのことですが」


「ああ……街ね、うん……」


変な勘ぐりをしてしまったというか、妙に過剰に反応してしまったというか。


まあ、それはともかく。


「とっても、幸せだと思ったの」


それ以外の言葉が思い浮かばない。

それが、全て。


「左様でございますか」


ターニャも嬉しそうに微笑んだ。


「そういえば、話は変わるけど」


私は、ふと思ったことを口にする。

街という単語で、思い出した記憶を頭の中に浮かべつつ。


「例えば、の話よ。貴女が、大きな失敗をしてしまったとして。それは、とても取り返しのつかないような、失態で。その失敗と同じような場面に次遭遇したら、どうする?」


「難しい質問ですね」


ターニャは困ったように、眉をひそめた。


「その場面に出くわしてしまったら、必ず失敗をするのでしょうか?」


「さあ。それは分からないわ。でも、一度痛い目を見ているのよ」


「試しにやってみる……とは、言えませんね」


そう言って、ターニャは目を閉じる。


どうやら、真剣に考えてくれているようだ。


「私ならば……その先にある、得るモノと失うモノを考えます」


少しの沈黙の後、ターニャはそう言葉を紡いだ。


「きっと、どうでも良いことならそもそも迷わず回避する方法を考えます。迷ってしまうのなら、それはその困難な出来事の先に捨てきれない願望があるからでしょう。ですから、私は天秤にかけると思います。失敗して失うモノと得るかもしれない可能性を。回避して得られたかもしれないモノを失うことと、今持つ失いたくないモノを」


「捨てきれない願望……」


「はい。あくまで、私に起きた出来事と仮定した場合ですが。お嬢様の質問の意図は分かり兼ねますが……お嬢様がもしも仮にそのような場面に遭遇したとして、お嬢様が考えられた結果の選択ならば、私は最後まで付き従います。進んで、露払いも致しましょう。他の皆も、同じ。それぞれ違うやり方だとしても、反対したとしても、お嬢様のことを支えようと思う気持ちは同じです。考えが行き詰まったら、是非私どものことを思い出してください。そして、使ってください。……このような答えで宜しかったでしょうか」


「ええ、十分よ。ありがとう。……今日は疲れたから、もう眠るわ」


「畏まりました」


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