本性
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「ディヴァン。……何故、わざわざ足音消して近づいてくるの?」
不機嫌な気持ちをそのまま滲み出させた声色に、けれども背後から近づいてきた男は笑った。
「それはそれは、申し訳ございませんでした。これも性分でございますれば、どうぞご容赦を」
「貴方がそんな丁寧な口調で話すなんて、違和感しか感じない……」
「貴女様のお立場を考えれば、それも当然のことかと。……全く、素晴らしい手腕ですね。この国の王太子妃として、頼もしい限りです」
「……貴方には感謝しているんですよ。私を保護してくれて、色々教えてくれたのは他ならぬ貴方なんだもの。だから私を持ち上げてくれなくても、話は聞くわ。それで、今回はどうしたの?」
「いえ、たまには世間話なんかをしようかと」
「世間話?」
「ええ、そうです。貴女様がその昔お気に召していた、アルメニア産の絹という布地のドレス。あれが、ついに少数ながら販売に漕ぎ着けたようでして」
「まあ……あの美しいドレスが。是非とも、欲しいわ」
「貴女様もそう仰られると思っていましたよ。王子様におねだりをしてみてください。貴方のためなら、きっと手に入れてくれるでしょう」
「ふふふ……ディヴァンも、そう思う?私も、そう思うわ」
エドワード様が私の為に動いてくださる様を想像して、私は思わず笑みを浮かべてしまった。
「ですが、危険ですねぇ。ただでさえ、富が集中している彼の地が、更なる資金を手に入れるのですから」
「……そうなのよね。でも、ディヴァン。それは、貴方のせいじゃないの?」
「と、仰られるのは……?」
「だって、それもこれも貴方があの件で失敗したせいで、彼女が貴族社会に残ってしまったのだもの。せっかく、教皇様を紹介してあげたというのに。貴方が失敗して、彼女は更に強かになってしまったわ」
「それは、私の不徳の限りでございます。ご助力いただきながら、あのような結果……誠に申し訳ございません」
「まったく……次回は、失敗しないようにね」
「畏まりました。……にしても、貴女は本当に彼女がお嫌いですねぇ」
「ええ、嫌い。初めから何もかも持っていて、それを当たり前のように享受するのが本当にイライラする。学園を退学した時には、もっと無様な姿を見ることができると思ったのに……」
私は、窓ガラスを覗き見る。そこには、私の姿が映っていた。
「ずっと、ずうっと、下町にいる時から思っていた。私のいる世界は、ここじゃないって。こんなに可愛い私が、こんな場所で燻って埋もれるなんて、ありえないって。だから、私はここまで頑張ってきたの。そして、これからも頑張るの」
「本当に、頼もしいですね」
「私は、いつかこの国を手に入れるの。ああ、楽しみ……!」
ついつい、気持ちが高ぶって声が上擦る。私の演説に、ディヴァンは拍手をしてくれた。
「そういえば、ディヴァン。貴方の言う通り、ヴァン君を突き放したら、彼、姿を消しちゃったけど……これで本当に良かったの?」
「ええ、ええ。良いんです。このまま貴女様の側にいても、彼は役に立ちません。貴女が突き放すことで、初めて役に立つようになるんですよ」
「ふうん……楽しみにしているわね」
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「ええ。……そういえば、王子様とはどうですか?」
「円満よ。キャ……恥ずかしい。彼、可愛いのだもの」
「おやおや……。お母様のようにならないか、心配するべきでしょうか?」
その言葉に、私の心が冷えた。せっかく、良い気分だったのに。
「私はお母様とは違う。お母様と同じようにはならないわ」
「それは良うございました。それでは、またいずれ」
「ええ、またいずれ」
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誤字脱字は非常に遅い速度ですが、少しずつ直しています。今後もご指摘いただければ幸いです。
この場をお借りしてご報告ですが、公爵令嬢の嗜みの2巻が発売されます。皆様の応援の賜物です。本当にありがとうございます。




