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忙殺

2/2

「この報告書に書かれていること、もう少し詳しい内容が知りたいわ。担当者を呼んでちょうだい」


書類の山を、私は指差す。


「こっちの決裁は終わったわ。各署に戻しておいて」


次に、その隣の小さな山を。……これしか終わっていないと思うと、少し涙が出てくる。


「そっちは直してもらう分よ。無駄な出費が多すぎる。その金額が必要だというなら、その根拠を提出」


更にその隣の書類。出した部署の面々が肩を落とすのが眼に浮かぶけど……財務の面々も同意見だったのよね。


「あそこの橋は確かに老朽化が進んでいるわよね。……こちらの整備より先に、橋の修繕作業を進めさせて」



……さて、明くる日。


私は朝から書斎にいる。山となった書類に囲まれながら、少しずつそれらを処理していた。


自分の分身が欲しいと心の底から願いつつ、そんな栓なき事を考える暇があったら仕事!と、自分を叱咤激励。


少し書類が無くなっても、セバスが次から次へと書類を持ってきて、減る事はない。


最初から処理が必要な書類が全部置かれていたら、きっと足場もなくなっていただろう。


その光景は、流石に私のやる気と気力が削がれるので、次々と持ってきてくれる方がありがたいと思うべき……か。


セバスは申し訳なさそうに持ってくるのだけど、長らく空けてしまっていたのだから仕方ない。


おまけに、今回の騒動のせいで元々予定立てて進めていたものも大幅な遅れがでてしまったのだから、尚更だ。


領官たちの中にも、私の破門騒動で出勤しなくなった者たちがいる。けれども、彼らは私が無罪であると確定したあの査問会の後も戻ってきていない。


つまり何が言いたいかというと……まあ、人手不足なのよね。これ、深刻な問題。この状況が長く続くのは領官たちに申し訳ないし、何よりせっかく残って第一線で仕事をしてくれている彼らを、過労で失いたくない。


「そういえば、そろそろ各地から税の報告がくるわね。その前に片付けられる案件は片付けておかないとね……」


ポツリ呟いた瞬間、珍しくセバスの顔色に変化があった。


勿論、良い意味ではなく悪い意味で。


……分かっているわよ。これ以上の仕事をこの人数でまわすことが無理だということぐらい。


とはいえ、税の報告は重要だ。各々の収益・収入が分かるのだから。その数字は、今後の領内の経済がどうなるかのある種の指標だ。


入ってくるお金が多ければ、それだけ消費が期待できる。個人であれば収入が多ければ各人の財布の紐が緩み消費の活発化、商会であれば、その資金を元手にさらなる事業展開……それらが期待できる。


それだけに、税収の報告は念入りに読み今後に活かしたいところ。


……が、このままじゃそれも難しいので、本当早くどうにかしなければ。


カリカリカリ……筆を走らせる音のみが室内に響く。


「……お嬢様、そろそろ休憩を挟まれては」


ターニャが遠慮がちに声をかけてきた。


……あら、いつの間にかそんなに時が経っていたのかしら。窓に視線を向ければ、なるほど確かに太陽が傾き始めている。


「……ねえ、ターニャ。一つお願いがあるのだけど」


「いかがされましたか?」


「今回の騒動で職場から離れた者たちのリストを作ってちょうだい。彼らの周囲の評判やら交友関係も一緒に報告してくれるとありがたいわ」


「畏まりました」


「じゃあ、私は貴女の言う通り休憩を取るわ。少し経ったら、セバスにここに来るように伝えてちょうだい」


ターニャは頭を下げると、部屋を出て行った。


それから、ターニャが部屋から出る前に淹れてくれていたお茶を飲みつつ、甘味をいただいて一息つく。それと同時にアンダーソン侯爵家現当主夫妻からの手紙を、読んだ。


アンダーソン侯爵現当主夫妻……つまり、私の伯父様夫婦ね。

アルメニア公爵家とアンダーソン侯爵家って昔から……といってもお祖父様同士が意気投合されてかららしいけれども……親交がある。

お祖父様たちはとても良くしてくださっていて、私が学園を退学した時も破門騒動の時もとても心配してくださっていた。


一応アルメニア公爵家の西側に隣接した領がアンダーソン侯爵家領地なんだけど、互いの領地の間には標高の高い山々が連なっていて、訪れるとしたら迂回するか海路になるし、何より互いに中々忙しくて会えない分、こうして手紙のやり取りは続いている。


……手紙を読み終えて、さてそろそろ仕事に戻ろう、そう思ったタイミングでセバスが入ってきた。


「そろそろお嬢様は仕事を再開されるかと思いましたが……」


「ちょうど良いタイミングだわ、セバス。少し聞きたいことがあるのだけれども」


「いかがされました?」


「貴方のことだから、きっともう既に商業ギルドに臨時の働き手の募集はかけているのでしょう?」


ディーンがここで働くようになった、キッカケ。大きな仕事ではないけれども、細々とした計算の手伝いだとか書類の整理だとか。多くの人の手を必要とするそれらの仕事に従事して貰うための人員。


「はい」


「集まり具合はどう?」


「……あまり芳しくはございません。なにせ繁忙期の今、募集はたくさんありますから。我々のところよりも高待遇のところもありますし、その上、我々のところは誰でも良いという訳でもありませんし……」


「やっぱり……」


ふう、と息を吐いた。


「……ねえ、セバス。それについて、一つ案があるのだけど」


「何でしょう?」


「学園の領官科に通う者たちへ募集をかけるのはいかがかしら?」


私の提案に、セバスは目を見開く。


「仕事内容は、雑務全般。学生ながらあそこのカリキュラムをこなしているのであれば、それなりにできるでしょう。猫の手も借りたい私たちにはありがたいことだし、学生の面々にとっては現場の雰囲気を掴むことができる」


「ふむ……それは、妙案です。早速学園側にも打診してみましょう」


「それなら、コレ」


私は、セバスに学園長宛の手紙を差し出した。私の肩書きを利用できるところは存分に利用しないと。


「もしも学園長側が了承したら、その後の交渉は任せても良いかしら?」


「勿論です」


「では、この件はセバスに任せるわ。よろしくね」


「畏まりました」



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